「フェムテック」「フェムケア」という言葉が身近になりつつある中で、2年ほど前から時々見かけるようになった「メンテック」という言葉。この言葉の意味や社会に与える影響について、TENGAヘルスケアの本井はるさんにお話を伺いました。

※「メンテック」という言葉が生まれた経緯や定義はまだ曖昧な部分もありますが、この記事では生物学的男性特有の健康課題を解決する製品やサービスを指す言葉として便宜的に用いています。

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お話を伺ったのは…
本井はる

TENGAヘルスケア

本井はる

国内マーケティング部 グループマネジャー。お茶の水女子大卒業後に早稲田大学大学院政治学研究科でジャーナリズムコースを専攻。地方新聞社の記者職を経て、性に対する認識変容を目指し2019年1月にTENGAに入社。TENGAヘルスケアとCARESSAのブランド・製品・サービスのPRを担当。

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「メンテック」という言葉が生まれた背景

――「メンテック」という言葉は、どのように生まれたのでしょう?

本井さん 実は、言葉の起源は私たち自身も掴みきれていないのですが、「Men(男性)」と「Technology(技術)」をかけ合わせた造語で、男性特有の健康課題をテクノロジーで解決していく製品やサービスを指すものと捉えています。市場規模などにまつわる調査が複数あるフェムテックに対し、メンテックについてはまだ目立った調査がなく、黎明期といえるのかもしれません。

――海外でも同じような状況なのでしょうか?

本井さん メンテックという言葉は見当たらないものの、アメリカを中心に、それに類するサービスや企業が盛り上がりを見せているようです。2021年には、実業家のビル・ゲイツさんが男性用ピルの研究を行うスコットランドのダンディー大学に1億9000万円相当の研究費を資金提供したことが話題になりました。

睾丸を超音波で加熱することで生物学的男性の避妊を可能にする「COSO」というデバイスも開発中のようですし、インドでは精子の郵送検査キットサービス「Kindly」が拡大しています。ビジネスにおいてもかなり注目されている分野なのかなという印象がありますね。

――「フェムテック」という言葉によって女性の悩みや課題にようやく光が当たりはじめたタイミングで、突然「メンテック」という言葉が出てきたことは、起源が不明な点も含めて少し違和感を覚える部分もあります。なぜ今、「メンテック」という言葉が登場したのか、その背景について本井さんのお考えを伺えますか。

本井さん 特に女性は、性分野において性別による偏見や不均衡が生じやすいので、「メンテック」という言葉に対する思いは複雑なものがあるかもしれませんね。当社ではまだきちんとした調査をしていないので断定はできませんが、その一方で男性が抱える健康課題の中にも、なかなか表に出てこなかったものがあるのではないかと思っていて。だからこそ、注目されている部分もあるのかなと感じます。

揶揄されずに話せる社会は、お互いのウェルネスにつながる

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――表に出にくかった課題というと、例えばどんなことでしょう?

本井さん 例えば、日本では「表立って話せないコンプレックス」や「揶揄の対象」とされてきた「AGA(男性ホルモン型脱毛症)」をはじめ「ED(勃起不全・勃起障害)」や「早漏・遅漏」、「男性不妊」などが挙げられると思います。それらを現代の技術や価値観でとらえ直し、真正面から向き合うサービスやアイテムが登場することで、男性も自分の体に向き合いやすくなってきている印象はすごくありますね。

――確かに、外見や性にまつわることは揶揄の対象になりがちですね。

本井さん プロダクトやサービスが増えて浸透し、男性が自分の体を知ったり、男性特有のデリケートな話題を揶揄されることなく話せたりする社会になれば、一人一人の意識も変わっていくし、性別を問わず誰もが生きやすくなっていくと思います。パートナーとの良好な関係構築も含めて、お互いのウェルネスにつながっていく可能性は、個人的にもとても期待しているところです。

――不妊の約50%は男性側にも原因があるといわれますし、妊活そのものがストレスになってしまうケースも多いと聞きます。

本井さん 当社でも、お客様から「精子の状態を知るのが怖い」「セックスにプレッシャーを感じるが、うまくパートナーに伝えられない」など、さまざまなお悩みの声をいただきます。その背景には、男らしさを競い合う文化の中で、人に弱みを見せることへの恐れがあったり、男性の射精というものが「精子を出すだけ」のように単純化されてきたりしたことも影響しているのではないかと思います。

例えば、勃起から射精にいたるプロセスって、あまり知られていませんよね。そもそもリラックスした副交感神経優位の状態でなければ勃起しないし、射精時は交感神経が優位でないと射精できないという繊細なシステムなんです。けれど、そういうことが理解されないまま「どうして勃たないの」「どうしてセックスできないの」と責められてしまうのは、すごくつらいのではないかなと。

――男性の勃起は、興奮によって交感神経が優位になっているイメージでしたが、まさか真逆だったとは…。そうした体や心の仕組みが理解されないままでいるのは、お互いにとってつらいですね。

本井さん そうなんです。揶揄されることでコンプレックスになり、「つらいけれどパートナーに言い出せない…」という悪循環もあるのではないかと思います。実は、当社の「Seed in」も、社員が妊活中のセックスにプレッシャーを感じていたことが開発のきっかけでした。

当事者の声から生まれた課題解決のプロダクト

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Seed in 3個セット¥3,300/TENGAヘルスケア

精液をシリコン製のカテーテルで吸い上げて膣内に注入するシリンジとカテーテルのセット。1個(¥1,430)からの購入も可能。

――どんなアイテムなのか、詳しく教えていただけますか。

本井さん 容器に採取した精子をシリンジ(先端がシリコンゴムでできた注射器状の器具)に吸い上げ、膣に注入する「シリンジ法」を自宅でできるプロダクトで、一般医療機器の認定を取得しています。


一般的に、自然妊娠のためには排卵予定日の前5日+後1日の計7日間のうち、3日以上タイミングを取ることが理想とされていますが、どんなに仲がいい二人でも、現実的にはなかなかタイミングを取れない!ということも多いと思います。セックスを義務のように感じてしまうと、妊活どころかセックスレスや離婚にも繋がりかねません。

また、「セックスはしたくないけれど子どもは欲しい」「愛しているけどセックスは得意じゃない」という人もいます。それぞれにとって一番幸せなバランスを見つけるためにも、「3回に1回はこれを使ってみよう」とか「これでタイミングを取ろう」という選択肢があるだけで、お互いの気持ちもだいぶ違うのではないでしょうか。

――他にも当事者の声から生まれた製品はありますか?

本井さん 精液運搬用保温器の「SEED POD」も、不妊治療などで精液を運ぶ際に「蓋が緩んでこぼれてしまう」「精子が温度変化の影響を受けてしまう」という悩みから生まれました。当社のプロダクトは、多くの人が「どうにかならないのかな」と感じていた部分にアプローチできるものが多いと思います。

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SEED POD ¥2,640/TENGAヘルスケア

精子を適切な温度で守る保温器。不妊治療や精液検査のサポートに。小型のmini(¥2,200)もあり。

――まさに、お互いのウェルネスにつながるツールですね。お話を伺っていると、「メンテック」といわれるカテゴリやサービスはまさに黎明期であり、ここからなのだと感じます。

本井さん おっしゃるとおり、男性の性についてとらえ直しをしていく過渡期だと感じます。ここできちんと取り組まないと、今まで以上に話せなくなってしまうでしょうから…。そして、男性の性はもちろんですが、日本ではパートナーと性やセックスについて話しづらい空気もまだまだあると思うんですよね。そこのコミュニケーションをサポートできるサービスが何かできないかなと考えているところです。

▶︎次回は、これまで揶揄の対象とされがちだった性にまつわる悩みや課題を解決すべく生まれたサービスやアイテムについてご紹介します。