自分の体について、どのくらい知っていますか? 自分をケアするためには、自分の体をよく知ることが必要です。また、他者とコミュニケーションを取る上でも、自分とは違う体について正しい知識をもっておくことが欠かせません。yoiでは、男性同士でも話題に上る機会が少ないという男性の体や性器にまつわる悩みやギモンを聞き込み調査。プライベートケアクリニック東京・東京院の院長である小堀善友先生にお答えいただきました。
Q34.マスターベーションでは射精できるのにセックスではできなくて困っています
34個目のギモンは、【マスターベーションでは射精できるのにセックスではできなくて困っています】。セックスの際にうまく射精できない問題は妊活に励む人にとっては深刻であり、時にはパートナーとの関係性をギクシャクさせてしまうことも。「マスターベーションの時は射精できるのに……」と自分を責めてしまい、思い悩む男性も少なくないと話す小堀先生。このお悩みに対し、丁寧にお答えいただきました。
A34.腟内射精障害の治療で改善を目指しましょう
特効薬はありません。根気強い治療が必要
小堀先生:【Q32:マスターベーションのやり方が間違っているとどうなりますか?】でも触れたように、このお悩みは腟内射精障害(重度の遅漏)に相当します。近年増加傾向にあり、厚生労働省の調査では、男性不妊症の原因の7%を超えることがわかっています。
当クリニックは射精障害の治療を行っており、相談に来る人が非常に多いです。まずは適切なマスターベーションをするように指導していますが、原因を探るカウンセリングに時間がかかるうえに治すのもなかなか難しいのが現状……。特効薬がないので、腟の刺激で射精できるようにトレーニングしたり、マスターベーション用のグッズで適切な刺激で射精するきっかけを作ったり、腰を動かして射精する練習などを根気強く続けていく必要があります。
また同時に、腟内射精障害にはパートナーの理解を得ることも重要です。足を伸ばさないと射精できない人はパートナーに上に乗ってもらうのはどうか?と提案したり、射精にこだわらずボディタッチを楽しみながらコミュニケーションを取ることを優先してみたり。あとはパートナーの妊娠を希望される場合、腟内射精と同等の妊娠率が期待できるシリンジ法をご提案することも可能です。かならずしも、射精にこだわらないことがポイントです。
遅漏は性の生活習慣病!?
小堀先生:個人的な見解ですが、早漏は脳の病気で、遅漏は生活習慣病と考えています。早漏の原因は、気持ちをリラックスさせたり、神経の興奮を抑制する働きがある脳内物質のセロトニンが関係しているため、セロトニンをコントロールする薬(うつ病の薬など)を使って射精までの時間を延ばす治療が行われることがあります。一方、遅漏はセックスやマスターベーションのやり方が不適切であることが原因で起こることがほとんどなので、性の生活習慣病と言えるのです。
適切な刺激で射精できるようにトレーニングしても、射精のタイミングをコントロールするのは脳。正しいマスターベーションやトレーニングにトライしても射精できない人には、腟内射精を求めすぎず、セックスそのものを楽しむことをおすすめしています。
プライベートケアクリニック東京・東京院 院長
日本泌尿器科学会専門医、日本性感染症学会認定医、日本性機能学会専門医、日本性科学会セックスセラピストなど多数の資格を保有。金沢大学医学部を卒業後、獨協医科大学越谷病院(現・ 獨協医科大学埼玉医療センター)の泌尿器科に勤務したのち、アメリカ・イリノイ大学に招請研究員として留学。2021年より、プライベートケアクリニック東京 東京院の院長を務める。主に男性性機能障害、男性不妊症、性感染症を専門にしており、ホームページのブログやSNSではメンズヘルスについての情報発信にも取り組む。著書に『泌尿器科医が教えるオトコの「性」活習慣病』(中公新書ラクレ)、『妊活カップルのためのオトコ学』(メディカルトリビューン)、『泌尿器科医が教える「正しいマスターベーション」』(インプレス)などがある。
取材・文/井上ハナエ 画像デザイン/永見花奈 企画・構成/木村美紀(yoi)