自分の体について、どのくらい知っていますか? 自分をケアするためには、自分の体をよく知ることが必要です。また、他者とコミュニケーションを取る上でも、自分とは違う体について正しい知識をもっておくことが欠かせません。yoiに寄せられた女性の体についての素朴な疑問や不安に、吉本レディースクリニック院長・吉本裕子先生にお答えいただきました。

専門医が回答!女性の体Q&Aまとめ

Q1."女性器"って腟のこと?デリケートゾーンってどこですか?

A1:外陰部から腟、子宮、卵巣までのすべてを含み「女性器」と呼びます

女性器イラスト

吉本先生:腟は女性器のほんの一部です。デリケートゾーンやフェムゾーンと呼ばれるのは「外陰部(外性器)」のことで、体内にある腟、子宮、卵巣は「内性器」にあたります。複雑な構造をしているうえに、自分の性器を日常的に見ることはないかもしれませんが、全体がどのようになっているかきちんと知っておくとよいでしょう。

Q2.自分のデリケートゾーンを見ることに抵抗があります…。

A2:見るよりも、触ることで自分の構造を知ることが大事

デリケートゾーンのイラスト

吉本先生:外陰部は構造を知っておくことが大事であって、必ずしも見なくてはいけないわけではありません。外陰部の図などを見ながら手で触ってみて、「ここはこういう構造になっているのか」と自分の外陰部を把握してみましょう。

ただし、できものやかぶれといった変化が生じたときは見て確認したほうがよいです。外陰部のどこに変化があるのか触れてみたうえで、鏡を使ってセルフチェックしてみましょう。陰毛が生えていると自分では見えづらいと思うので、痛みやかゆみがあって心配なときは婦人科へ。

Q3.デリケートゾーンの小陰唇の黒ずみが気になります

A3:肌や髪の色と同じように個性ととらえ、持っているものを受け入れましょう

デリケートゾーンの小陰唇の黒ずみが気になる

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吉本先生:気にしすぎないでOKです。というのも、色の黒ずみは基本的には女性ホルモンの状態によるものであり、かなり個人差があるから。乳首の色も同様で、年齢やホルモン量によって変わります。

また、形も人によって大小さまざま。私は普段たくさんの人を診察していますが、よっぽどじゃない限りはおかしいと感じる点はありません。どうしても気になるなら、第三者の意見を聞く意味でも、婦人科で診てもらうとよいかもしれませんね。

Q4.小陰唇が大きすぎる気がします。手術はできますか?

A4:日常生活で困ることがなければ問題ありません

デリケートゾーンの小陰唇が大きすぎる気がします。手術はできますか?

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吉本先生:大きすぎる…というのが気にしすぎである場合は多いものの、治療を行うかどうかはご本人次第。私の場合、患者さんが日常的に困っているならば治療の提案をしますし、とくに困っていなければ、そのままでいいのではないかという話をします。

小陰唇を小さくするには縮小手術を行いますが、切除してから傷口が塞がるまでは痛みで座るのもつらいです。治療を受けるにしても、日常生活への影響を慎重に考えましょう。

Q5.デリケートゾーン用ソープは使ったほうがいいの?

A5:ぜひ使ってください!

デリケートゾーン用ソープは使ったほうがいいの?

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吉本先生:外陰部は非常に皮膚が薄いので、ボディソープだと刺激が強すぎて乾燥の原因に。そもそも婦人科の間では、ぬるま湯で優しく洗う程度でも十分とされているのです。それだけではさっぱりした感じがしないという人は、弱酸性のデリケートゾーン用ソープを十分に泡立てて洗いましょう。

Q6.意外と知らない!デリケートゾーンの正しい洗い方って?

A6:自分の外陰部の構造をきちんと知ったうえで洗いましょう

デリケートゾーンの正しい洗い方って?

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吉本先生:大切なのは、自分の外陰部の構造を知ったうえで正しい洗い方を身につけること! 外陰部の構造を知らない&何も考えずにサッサッと洗ってしまっては汚れがきれいに洗い流せず、乾燥やかぶれなどの肌トラブルを引き起こすことも

以上を踏まえた基本の洗い方は、アンダーヘア、尿道口、腟口、会陰、肛門と前から後ろに向かって“指で優しくなで洗い”です。小陰唇の裏側は垢や汚れがたまりやすいので、めくって丁寧に洗います。腟内や粘膜部分は過度に洗わないよう気をつけましょう。

Q7.デリケートゾーンを保湿する必要はありますか?

A7:触ってみてカサカサしているときは保湿ケアをしたほうがベター

デリケートゾーンを保湿する必要はありますか?

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吉本先生:外陰部は汗や皮脂の分泌量が多く、粘膜が近くにある部分。下着などでつねに覆われていることもあって湿度や温度が高まって蒸れやすい環境なので、とくに保湿ケアを意識しなくても問題ありません。

ところが、頻繁に摩擦ダメージを与えてしまったり、VIO脱毛後でアンダーヘアが少なかったりすると、肌のバリア機能が低下して乾燥しやすくなるのです。触ってみてカサカサと乾燥したような手触りがあれば、デリケートゾーン用のローションやオイルなどでうるおいを与えましょう。かゆみや痛みを伴う場合は別の症状の可能性があるので、皮膚科や婦人科で診てもらってください。

Q8.デリケートゾーンにかゆみがあるのですが、どうしたらいいですか?

A8:まずは保湿をして、皮膚を乾燥させないように!

デリケートゾーンにかゆみがあるのですが、どうしたらいいですか?

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吉本先生:清潔を保とうとするあまり外陰部を洗いすぎたか、おりものの付着で皮膚が荒れることで乾燥するパターンのどちらかが多いです。そのため、かゆみを感じたらまずは保湿してみるとよいでしょう。日頃からウォシュレットやボディソープで洗いすぎないよう心がけ、そもそも乾燥させないようにするのがポイント!

それでもよくならない場合は、細菌感染によるかゆみの可能性があります。このかゆみは炎症が起こっているので、婦人科で塗り薬を処方してもらうなど適切な治療を受けてください。市販の塗り薬だと、かゆみはおさまっても炎症までは治せない場合があります。

Q9.お風呂のあと、腟からドバッと水が出ることがあるのはなぜ?

A9:骨盤底筋群の筋力が低下し、腟口が広がりやすくなっているから

お風呂のあと、腟からドバッと水が出ることがあるのはなぜ?

吉本先生:腟に水が入るのは、膀胱や子宮、大腸、小腸、尿道などの臓器をハンモックのように支える“骨盤底筋群”の筋力が低下していることがおもな原因。日頃の姿勢不良や日常動作、出産、加齢などのあらゆる影響を受けることで低下し、腟がゆるんでしまっているのです。

また、入浴時に足を上げて座るのはお産と同じような姿勢になるため、腟口が広がりやすくなって水が入ることもあると思います。座り方的に水が入ってしまうのはある程度は仕方ないとして、骨盤底筋を鍛えて腟を締める練習をすれば対策できるはずです。

Q10.腟洗浄器を使うベストタイミングってあるの?

A10:においや不快感が気になるときに。ただ、基本的には使わなくてOK

腟洗浄器を使うベストタイミングってあるの?

吉本先生:腟は自浄作用が備わっているため、腟内を洗おうとしなくても大丈夫です。そもそも腟は複雑な構造をしているため、たとえ婦人科で適切に腟洗浄を行なったとしても完全にきれいにはなりません。かつては診察前に腟洗浄をすることもありましたが、腟内の常在菌を落としすぎないためにも、現在は不必要な腟洗浄はしない風潮になってきているのです。

しかし、においや不快感が気になってしまい、シャワーや温水洗浄便座のビデを使って頻繁に洗ってしまう人も多いと聞きます。雑菌繁殖リスクの高い水道水で洗うくらいならば、乳酸菌配合の腟内洗浄アイテムを使っていただくほうがいいと思います。乳酸菌配合や弱酸性であれば、腟内環境のバランスを乱さずに済むからです。

Q11:腟内フローラって何ですか?

A11:腟内に存在している細菌の集まりのことです

Q11:腟内フローラって何ですか?

吉本先生:腟内には“デーデルラインかん菌”という乳酸菌のほか、ブドウ球菌、カンジダ菌、カビ菌などのあらゆる細菌が共存しています。それらが集まった姿がお花畑=フローラのように見えることから、腟内フローラと呼ばれています。善玉菌と悪玉菌がバランスよく働いて均衡を保っているのが、正常な状態です。

善玉菌である“デーデルライン桿菌”はグリコーゲンを産生し、おりものによって腟の自浄作用をもたらしてくれます。ところが体の抵抗力が落ちてバランスが乱れると、悪玉菌であるカビ菌などの雑菌が活性化し、かゆみや細菌感染症を引き起こしてしまいます。腟内フローラを整えるには、食事内容や生活習慣を見直し、デリケートゾーンに過剰な刺激を与えないことが大切です。

Q12:腟に空気が入って音が鳴ります。おかしいのでしょうか?

A12:おかしくないです!

Q12:腟に空気が入って音が鳴ります。おかしいのでしょうか?

吉本先生:食事のあとにゲップが出るのと同じで、腟に入り込んだ空気が体勢の変化によって漏れ出るのは自然なこと。なにもおかしくないですよ。骨盤底筋群が弱って腟に空気が入りやすくなることもあるため、気になる方は骨盤底筋を鍛えてみるのもいいと思います。

Q13:腟やデリケートゾーンに異常を感じたとき、まずはどこに相談すべきでしょうか?

A13:腟の診察ができる産婦人科・婦人科へ

Q13:腟やデリケートゾーンに異常を感じたとき、まずはどこに相談すべきでしょうか?

吉本先生:外陰部のできものの場合は皮膚科でも治療はできますが、粘膜まで異常が及んでいる可能性も踏まえると、腟の診察ができる産婦人科や婦人科にかかるのがよいでしょう。

Q14:婦人科にかかる患者さんに多いお悩みって何ですか?

A14:おりものに関するお悩みです

Q14:婦人科にかかる患者さんに多いお悩みって何ですか?

吉本先生:婦人科に来院するのは、おりもののお悩みを抱えている人がほとんど。おりものの量やかゆみ、おりものがいつもと違う、パートナーからにおいを指摘された…など、客観的視点を求めて受診される人も。自分では普通だと思っていても、実際に診察してみるとおりものに異常があるパターンもよくあります。

異常があるかどうかは、色と質感で判断できます。いつもより黄色い、生理期間ではないのに出血がある&茶色っぽい、ポロポロとカッテージチーズ状をしている。これらは感染を起こしている場合が多く、薬によって治療できます。

なお、閉経後に、女性ホルモンの低下が原因で腟の壁が乾いてただれてしまう萎縮性腟炎を起こしていると、おりものによる自浄作用が働かず、かゆみ症状が出たり感染を起こすことも。デリケートゾーンに違和感がある人は、迷わず婦人科を受診していただきたいですね。

Q15:婦人科ではどんな治療が受けられますか?

A15:腟や月経に関するトラブルや不安、全般に対応できます

Q15:婦人科ではどんな治療が受けられますか?

吉本先生:診察と問診で腟や子宮の状態をチェックし、相応の治療を行います。投薬で治療可能な場合が多いですが、そのほか、腟炎、腟下垂、性交痛をやわらげるレーザー治療(モナリザタッチ)、高度な腟下垂、子宮脱の治療や小陰唇、腟のポリープや腫瘍の切除といった外科的手術もあります。いずれも病気の可能性があれば保険適用、特になければ自費治療となるため、費用や日常生活への影響を考えたうえで治療をご相談いただくとよいと思います。

Q16:おりものは何のために出るのでしょうか?

A16:自浄作用のほか、さまざまな役割があります

Q16:おりものは何のために出るのでしょうか?

吉本先生:おりものは子宮、腟壁、汗腺などから分泌物が混ざり合って腟外に出てくるものです。腟内の健康を保つ自浄作用がおもな役割とされることが多いのですが、性行為の際に潤滑油として分泌されたり、排卵時期に子宮頸管から分泌されるものは精子が腟中に入りやすくして受精の手助けをしたり、さまざまな役割があるのです。婦人科ではこれらを総称しておりものと呼んでいます。

Q17:セックスのとき、濡れにくく、乾きやすいのが悩みです。対策はありますか?

A17:興奮状態を保ちつつ、アイテムを上手に活用してみるとよいかも

Q17:セックスのとき、濡れにくく、乾きやすいのが悩みです。対策はありますか?

吉本先生:濡れにくさにも、乾きやすさにも個人差があります。それを踏まえたうえで、滑りをよくする潤滑ローションや腟に注入するタイプのローションで代用してみるのはいかがでしょうか

興奮が冷めると乾いてくる人もいるので、パートナー側の前戯にも工夫が必要かもしれません。女性側の気持ちが盛り上がっているうちに挿入するなど、相手の状態に合わせて動くのが大切。ほかにも、体が冷えると乾くのが早いとも言われているので、一緒に入浴して体をしっかり温めたり、足もとに布団をかけて冷えないようにすることで対策できるはず

Q18:激しいセックスや回数が多すぎると、腟が傷むことはありますか?

A18:傷みます!

Q18:激しいセックスや回数が多すぎると、腟が傷むことはありますか?

吉本先生:濡れていない腟に触れれば粘膜が傷つきますし、回数が多いほど摩擦ダメージが増えて負担になることもあります。腟内は粘膜なので、内部が傷むと感染症を起こす可能性が。性交後しばらく経っても痛みがある場合は負担になっているので、気持ちいいと感じる程度に方法や回数をコントロールしていきましょう。

Q19:パートナーに腟がゆるいと言われます…。きつくすることはできますか?

A19:骨盤底筋を鍛えれば改善されます

Q19:パートナーに腟がゆるいと言われます…。きつくすることはできますか?

吉本先生:腟のゆるみは、骨盤底筋のトレーニングを行えばキュッと締まりをよくすることができます。しかし、「腟がゆるい」というのは男性側の一方的な意見であるとも考えられます。なぜなら女性にとってセックスは、腟が多少ゆるいほうが気持ちよさを感じやすいから。腟がきつく締まっているほうがいいという俗説は、男性側の主観がもたらしたものです。

Q20:性交痛があるのですが、原因と対策を教えてください。

A20:原因も対策も多種多様。婦人科で相談してみましょう

Q20:性交痛があるのですが、原因と対策を教えてください。

吉本先生:性交痛は恐怖心によって痛いと感じているだけのケースや、もともと腟口が狭いケース、子宮内膜症のような婦人科系疾患が原因で痛いケースなど原因はさまざま。対策としては潤滑ローションで滑りをよくしたり、セックスの体勢を工夫したりすれば改善されるかもしれませんが、濡れにくい体質というパターンもあるので、一度婦人科で相談してみるとよいですね。
あまり知られていないのですが、性交痛があるという悩みで婦人科を受診するのはわりと一般的。「パートナーに申し訳なさを感じて痛みを言い出せない」、「痛いのは自分が悪い」と責めてしまう人が非常に多いのです。また子宮内膜症などの病気が隠れている可能性を踏まえて、早めに受診するのが得策です。

吉本裕子(よしもとゆうこ)先生

吉本レディースクリニック院長

吉本裕子(よしもとゆうこ)先生

産婦人科医。日本専門医機構認定専門医。高知医大(現・高知大学医学部)卒業。金沢大学付属病院、富山市民病院を経て現職。NPO法人女性医療ネットワーク理事、富山市医師会理事、性暴力被害ワンストップ支援センター富山協力医師、女性被害者支援ネットワーク医師、富山大学人間発達科学部附属中学校評議員。吉本レディースクリニックは、病気治療だけでなく、女性の人生に寄り添い、心身の拠り所となるクリニックとして定評がある。『Rp.+(レシピプラス)VOL.21 NO.1 2022冬「ホルモンとくすり」』(南山堂)共同執筆。

取材・文・イラスト/井上ハナエ 構成/木村美紀