セックスのあとに突然、悲しみや虚しさ、不安などの感情があふれるのは「性交後憂鬱(PCD)」という現象なのだそう。起きてしまったときの対処法や、セックスとの向き合い方ついて、産婦人科専門医の村田佳菜子先生にアドバイスをいただきました。
産婦人科専門医
女性医療クリニックLUNAネクストステージで、女性性機能外来を担当。挿入障害や性交痛、性欲低下など、女性のセックスの悩みに対し、心理学的・医学的にアプローチしている。
Q1.いわゆる男性の「賢者タイム」とは別モノ?
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A1.タイミングとして重なる可能性はありますが、別モノです
PCDが起こるタイミングとして重なる可能性はありますが、イコールではありません。賢者タイムとは、性科学的にはオルガスム期に続く消退期のことで、性的刺激を受容しない段階のこと。特に男性なら、射精のあとに多くの人が経験します。消退期には欲求が満たされ思考が冷静になる中で、欲求で隠されていたセックスや快楽に対する否定的の考えがあらわになり、悲しみ、憂鬱、不安、興奮、攻撃性などの否定的な感情に気づくと考えられます。
消退期は、性的刺激を受容しない・遮断する段階なので、欲求が満たされて思考が冷静になるタイミング。そう考えると、賢者タイムにPCDが起こること自体は自然な流れと言えるかもしれません。
Q2. 「性交後憂鬱(PCD)」が起きたときの対処法は?
A2.まずはその気持ちを受け止め、優しく訂正していきましょう
基礎知識編でお話ししたとおり、PCDにはいくつかの原因となる心理状態やシチュエーションがあることがわかっています。しかし、個々のケースで原因がわかったからといって、すぐにPCDを防げるわけではありません。
時間はかかるかもしれませんが、心のつらさを和らげ、PCDを招きやすい心理状態を見直していくための方法をいくつかご紹介します。
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①心に浮かんだ気持ちを受け止め、優しく訂正する
根本的な解決には、セックスや快楽を心から楽しむ姿勢、「セックスや快楽は楽しく、素晴らしいもの」という考えが重要になります。しかし、否定的な考えから、こうした姿勢や考えへと変えていくのはそう簡単なことではありません。
今日明日のうちに…とすぐに解決しようとはせず、セックスをしたあとにネガティブな気持ちが浮かんだら、戸惑うかもしれませんが、まずは落ち着いて「なんだかつらい気分だね、私」と、自分の素直な気持ちをひとまず受け止めてあげましょう。そして、自分に対して「大丈夫、悪いことや恥ずかしいことはしてないよ」と優しく訂正してあげましょう。さらに、「セックス(マスターベーション)や快楽は楽しいこと、素晴らしいこと」と心の中で言えたらいいですね。
こうした自分の素直な気持ちを否定せず、受け止め、何度も優しく訂正を繰り返していくと、少しずつ改善につながっていくと思います。
②ちょっと離れたところから観察している自分をイメージする
セックス後の悲しみや嫌悪感、怒りなどの否定的な感情に戸惑い、心をかき乱され、落ち着くことができなくなってしまったら、心を整えるために、自分を客観的に見つめる練習をしてみてください。「こんなふうに思っちゃってる自分がいるな」と、ちょっと離れたところから自分自身を観察しているもう一人の自分をイメージしてみましょう。
もうひとつ、アンガーコントロールでも用いられる方法ですが、「悲しい」「むなしい」といった感情を紙に書き出し、それを思いきりグシャっとまるめてゴミ箱に捨てるという方法もあります。こうすることで、自分の感情を自分自身と切り離すことができます。
③お互いが安心し、満足できるセックスを心がける
セックスによって肉体的にも感情的にも満足感を得られると、相手との親密さはアップします。逆に、そうした満足感が得られないと、パートナーとの親密さを強化できないため、セックスに対する否定的な感情がわいてしまい、PCDにつながる可能性があります。お互いが本当に気持ちよく、満足できるようにコミュニケーションをとりながらセックスを充実させることは大切なポイントだと思います。
また、カジュアルセックスはPCDを経験しやすいセクシュアルシチュエーションではありますが、それ自体が悪いわけではありません。重要なのは、お互いに傷つかない関係性か、安全なセックスであるか、相手のことも自分のこともちゃんと思いやれているのかということ。
そしてPCDと性的快楽に対する考え方は深く関係しているので、カジュアルな関係だからこそ、心からセックスや快楽を楽しもうとしているかどうかも重要なポイントになると思います。 もしカジュアルセックス後のPCDを防ぎたいのであれば、自分の気持ち、そして相手がどう考えているかを確認してから臨むのもいいかもしれません。
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④パートナーとの関係性を見つめ直す
パートナーとの関係性に問題はないけど、PCDを一人で抱えきれない、パートナーにもわかってもらいたい、という場合は伝え方が大切です。いきなり「あなたとセックスをするとすごく憂鬱になる」とだけ伝えてしまうと、パートナーに「自分のことが嫌いなのかな」と思われてしまい、話がこじれてしまうこともあります。
「あなたのことは好き」であることをまず伝え、「セックスに対して否定的な気持ち(罪悪感や恥ずかしい気持ちなど)がある」という話から始めると、パートナーも受け止めやすいかもしれません。もし性欲低下や痛みなど原因となる性機能障害がある場合はそれも伝えましょう。
PCDによる違和感やつらい気持ちであれ痛みであれ、自分の気持ちを受け止めてもらうだけでも気持ちが楽になり、改善する場合があります。また、パートナーが話を受け止めてくれそうにない相手だと感じる場合は、伝えないほうがいいこともあるでしょう。
また、どちらか一方が支配的である、合意ではあるけれどもどちらかが我慢して仕方なくセックスしている、痛みを伝えてもわかってもらえていないなど、パートナーとの関係性が歪んだものである場合は、PCDの原因である可能性がありますので、関係性を改善する必要があるかもしれません。当事者同士での解決が難しい場合は、友人や家族に相談する、カップルカウンセリングを受診するなど、第三者の手を借りることも検討してみてください。
構成・取材・文/国分美由紀