自分の体について、どのくらい知っていますか? 自分をケアするためには、自分の体をよく知ることが必要です。また、他者とコミュニケーションを取る上でも、自分とは違う体について正しい知識をもっておくことが欠かせません。yoiでは、男性同士でも話題に上る機会が少ないマスターベーションについて聞き込み調査。プライベートケアクリニック東京・東京院の院長である小堀善友先生にお答えいただきました。 

Q.自己流で済ませてきたマスターベーション。正しいやり方ってあるんですか?

A.腟内と同じくらいの刺激で射精しましょう

マスターベーション オナニー セルフプレジャー

小堀先生ここでお伝えする「正しいやり方」とは、女性のパートナーとのセックス時に問題なく射精するための方法になります。自己流のマスターベーションで満足できていても、セックスで射精できない・しづらいと感じた経験がある人は自分のやり方を見直してみるとよいでしょう。

①全身に余計な力をかけず、リラックスできる体勢になる
②ペニス全体を片手で包み込むようにやさしく握り、上下にゆっくり動かす
③勃起したら包皮を剥いて亀頭を露出し、射精するまで上下の刺激を続ける

重要なのは、ペニスを握る力加減はバナナがつぶれない程度を心がけ、腟内に挿入したとき=セックスのピストン運動を想定した刺激で射精すること! マスターベーション中は過激な動画や画像による性的興奮を避けるのが理想的ですね。しかし、精通を迎えたばかりの思春期前後やセックスの経験がない人は、性行為の動きを想像するのがむずかしいかもしれません。その結果、自己流で過剰な刺激を与えることに慣れてしまい、セックスで射精できなくなるパターンがよくあるのです。このあたりは性教育にも関わってくると思いますが、間違ったやり方を覚えてしまう前に、適切な力加減や動かし方を身につけてほしいですね。

Q.マスターベーションのやり方が間違っているとどうなりますか?

A.射精障害の原因になり得ます

A32.射精障害の原因になり得ます

射精障害の原因に!? 4大NGマスターベーション

小堀先生:正しいやり方と真逆のことをすると、女性とのセックスで射精に至るまでのプロセスのどこかに問題が起き、射精障害を引き起こす原因につながります。とくに近年、セックスの際に腟の中で射精できない「腟内射精障害(重度の遅漏)」に悩む人が増えており、その過半数は不適切なマスターベーションがきっかけとなっているのです間違ったやり方の一例をご説明しましょう。

床オナ(非用手的マスターベーション)
ペニスを床に押しつけるなど、手を使わないでマスターベーションを行う方法。勃起しないまま射精していることもある。床以外にも、ペニスを太ももに挟み込む、枕を陰部に挟み込むなど特殊な刺激で射精するやり方がある。

皮オナ
包皮が剥けるのに亀頭部を露出せず、あえて皮を被せたまま上からペニスを刺激する方法。亀頭部を露出しないまま射精することに慣れてしまっているため、セックスでは射精しづらくなっている。

足ピン
仰向けで足をぎゅーっと伸ばすなど、特定の姿勢に快楽を見出して射精する方法。セックスの際に自分で腰を動かしたり、膝を曲げて挿入の姿勢を取ったり、足をピンと伸ばす以外の姿勢では射精できない状態。

強グリップ
ペニスを強力に握って動かす、高速で動かす、多少の痛みがないと射精できないなど、強い刺激で射精する方法。実際のセックスよりも強い刺激をペニスに与えないと物足りなくなっている場合が多い。

Q.マスターベーション、1日3回は多い?適切な頻度は?

A.正しいやり方であれば何回でもOK

Q.マスターベーション、1日3回は多い?適切な頻度は?

小堀先生:回数について悩んで来院される患者さんがたまにいらっしゃるのですが、私はそのたびに「正しいやり方であれば好きにしていい」と答えています。射精ができる頻度は個人差があり、ためすぎてはいけない・出しすぎてはいけないといったことはありませんので、深刻に悩まなくても大丈夫。ご自身にとって無理のない範囲で行ってください。

また、遅漏の人がセックスの際に射精しやすくするために、オナ禁といって数日間マスターベーションを我慢する…という話を聞くことがありますが、回数を減らしたからといって遅漏対策になるわけではありません。遅漏のような射精障害は回数ではなく、間違ったマスターベーションが根本原因としてあるからです。そのため、【Q:マスターベーションのやり方が間違っているとどうなりますか?】で挙げた不適切なマスターベーションを繰り返し行うことは避けてください。

Q.マスターベーションでは射精できるのにセックスではできなくて困っています

A.腟内射精障害の治療で改善を目指しましょう

マスターベーションでは射精できるのにセックスではできなくて困っています

特効薬はありません。根気強い治療が必要

小堀先生:【Q:マスターベーションのやり方が間違っているとどうなりますか?】でも触れたように、このお悩みは腟内射精障害(重度の遅漏)に相当します。近年増加傾向にあり、厚生労働省の調査では、男性不妊症の原因の7%を超えることがわかっています。

当クリニックは射精障害の治療を行っており、相談に来る人が非常に多いです。まずは適切なマスターベーションをするように指導していますが、原因を探るカウンセリングに時間がかかるうえに治すのもなかなか難しいのが現状……。特効薬がないので、腟の刺激で射精できるようにトレーニングしたり、マスターベーション用のグッズで適切な刺激で射精するきっかけを作ったり、腰を動かして射精する練習などを根気強く続けていく必要があります。

小堀善友(こぼりよしとも)先生

プライベートケアクリニック東京・東京院 院長

小堀善友(こぼりよしとも)先生

日本泌尿器科学会専門医、日本性感染症学会認定医、日本性機能学会専門医、日本性科学会セックスセラピストなど多数の資格を保有。金沢大学医学部を卒業後、獨協医科大学越谷病院(現・ 獨協医科大学埼玉医療センター)の泌尿器科に勤務したのち、アメリカ・イリノイ大学に招請研究員として留学。2021年より、プライベートケアクリニック東京 東京院の院長を務める。主に男性性機能障害、男性不妊症、性感染症を専門にしており、ホームページのブログやSNSではメンズヘルスについての情報発信にも取り組む。著書に『泌尿器科医が教えるオトコの「性」活習慣病』(中公新書ラクレ)、『妊活カップルのためのオトコ学』(メディカルトリビューン)、『泌尿器科医が教える「正しいマスターベーション」』(インプレス)などがある。

取材・文/井上ハナエ 企画・構成/木村美紀(yoi)