長田杏奈さんの連載「ゆるぱわめんとコスメ」。今回は、LA在住のクリエイティブプロデューサー、Mutsumi Leeさんをゲストにお迎えしました。

2018年にアメリカに移住し、西海岸から日本へセルフラブ・セクシャルウェルネスをカルチャーとして広めたいと、ロサンゼルスで新会社『Lim Love』を立ち上げたMutsumiさん。その活動に興味津々という長田さんが、セルフラブとセクシャルウェルネスとの関係って? 今注目のプレジャーアイテムは? セルフラブによって人生はどう変わる? など、気になっていたあれこれをじっくり伺いました!

長田杏奈さんとMutsumi Leeさんのツーショット

Mutsumi Lee

クリエイティブプロデューサー

Mutsumi Lee

LA在住のクリエイティブプロデューサー、セルフラブガイド。Lander Inc代表。父親の自殺、DVシェルターでの避難生活など、幼少期よりさまざまな体験をし、手探りで自己統一の模索を続ける。現在は、セルフラブをはじめ、セクシュアリティやセックスについて対話ができる文化を根付かせる活動を行なっている。

セルフラブ皆無の生活から一転。「自分は自分でいい」と心から思えた瞬間から、世界の見え方が変わった

長田:Mutsumiさんとの出会いは、今年の春。企画・キュレーションを務めていらっしゃった「SELF LOVE FES」に呼んでいただいたことがきっかけですよね。そこで「こんな面白い活動をしている方がいるんだ!」とすごく興味をひかれました。そもそもMutsumiさんがセルフラブに目覚めたきっかけは何だったんでしょうか?

Mutsumi:実は私、40歳になるまではセルフラブなんて皆無の生活を送っていたんです。ずっと広告やクリエイティブの仕事に携わってきたのですが、20代から30代までは病的なワーカーホリックでした。今思うと、自分で自分を認められていなかったから、「何か社会的に意義のあることをしなくてはいけない」と思い込んでいたんでしょうね。仕事は楽しいし、やりがいもあったけれど、一方でどこか苦しいというような感覚がずっとあって、もがき続けてもいました。それがある日、セルフラブを獲得したことで、それまでの苦しさやモヤモヤが全部なくなっちゃったんです。

長田:え〜! 一体何があったんですか!?

Mutsumi:ずっと憧れていたLAに移住して1年後くらいかな、長年の積み重ねが爆発して、体調もメンタルもガーンと落ちてしまいました。健康だけが取り柄だったのに、ついに体を壊してしまって。そのときに、「さすがにこれはいかん」と思いました。そろそろ自分のことを大事にするフェーズに来ているな、と。

だからといって、すぐにセルフラブに方向転換できたわけではなく…、しばらく試行錯誤の日々だったのですが、ある日、ホットヨガをしていたら自然と瞑想に入ることができたんです。そのとき、ようやく「セルフラブ」という概念がすとんと腹落ちするような瞬間があって。宇宙とか自然とか大きなものから「あなたは大丈夫だよ」と言われる感覚というか。 でもホットヨガは最後のトリガーでしかなくて、この感覚になれたのは、長年自分ととことん向き合い続けてきたことが一番大きな要因だと思います。

長田:そんなことがあったんですね…! 

Mutsumi:そのとき、「自分は自分でいいんだ」ってお腹の底から思えたんです。それからは世界の見え方ってこんなに変わるんだ、と驚きました。それまでも女性をエンパワメントする活動はしていたのですが、自分のことを完全に認められていなかったから、出てくる言葉とマインドが一致していない感じが、少し気持ち悪かったんですね。"偽善者"になっていないだろうか、って。

長田:自分の中での居心地の悪さもあるし、自分のことは差し置いて社会のために活動をしていると「自己犠牲の見返りに自分を認めてほしい」みたいな感情が混ざって、疲れてしまったりもしますよね。

Mutsumi:そうそう。自分の気持ちと行動を一致させることができたから、心から「みんな幸せになって!」という気持ちになれたんです。

「セルフラブ」とは、自分の中の"小さい子"に耳を傾けること

長田杏奈さんがセルフラブカードを持っているカット

——「セルフラブ」という言葉にまだピンと来ない人もいると思うのですが、そもそも「セルフラブ」とはどんなものでしょうか。

長田
:Mutsumiさんが制作、販売をされている「セルフラブカード」の中に、私の中のセルフラブに近いものがあって。このカードには、自分に関するいろいろな質問が書いてあるのですが、ある1枚に「幼い頃、理由なく心惹かれたことは? 今現在その衝動はどうなっている?」という言葉がありました。まさに、私の中のセルフラブは、「自分の中の"小さい子"を大事にしてあげること」なんです。

大人になると、社会的な刷り込みや理性で「こうあるべきだ」と思ってしまいがちですよね。「今無理して、あとで倒れればいいや」みたいに頑張りすぎてしまったり。でも、「ごはん食べたいよ」とか「疲れたからもう休みたいよ」と言っている小さい子の声に耳を傾けて、そことうまく共存していく。それが私のセルフラブのイメージです。

Mutsumi:私たちはつねに社会の概念の中に自分を当てはめて生きているから、それを取り払ったときの声を聞くことって大切ですよね。だから、セルフラブのために必死で何かを新しく学ぼうとか、インプットしようとしすぎなくてよくて、すでにここにある「自分」に、まずは自己潜水してみてほしいと思っています。

長田:自己潜水! どうやってダイブしたらいいんでしょうか…?

Mutumi:おすすめしたいのは、毎日自分に「なぜ?」と問いかけてみること。「うれしい! それはなぜだろう? 」「悲しい! なんで悲しいの?」って。そうすると、どんどん深いところにいる自分に近づいていくことができます。




自分にとって「自然な性」を受け入れられた経験

——『Lim Love』ではセルフラブと併せて、セクシャルウェルネスについても発信されていますよね。

長田:Mutsumiさんにとって、セルフラブとセクシャルウェルネスはセットなんでしょうか?

Mutsumi:はい、そこは絶対です。私自身、セルフラブを獲得してはじめて自分のことを「女性」として認められた、という経緯がありました。それまでは、男性に負けないように仕事をしないといけない、と思っていたので女性として見られるのも嫌だった。それが、自分を愛せるようになったことで、私にとって「気持ちがいい性」を受け入れることができた、というか。

今の社会は特に女性にとって、「女性」であることを肯定しにくい社会だなと思っていて。小さい頃、私の家は母が父や祖父のためにつねに働いているような家庭で、「男の子はこうで女の子はこう」と刷り込まれて育ってきました。仕事をはじめてからは、周りが男性ばかりだったこともあり、今度は「女性だからって負けてたまるか」という気持ちをつねに持つようになっていた。本当は、女性であることを楽しみたい自分もいたのに、それを否定しなくては生き延びれなかったんです。

長田:なるほど。自分にとって「自然な性」であることによって、誰かに社会的につけ入れられてしまう…それを防御してたのかもしれないと思いました。そういったご自身の経験が社会や女性のためになったら、と、今の活動につながったんですね。

アメリカ発! チアフルで目から鱗なフェムテックアイテム

長田杏奈さんとMutsumi Leeさんのツーショット

——昨今「セクシャルウェルネス」という言葉は広まりつつありますが、現状はいかがでしょうか。

長田
:まだまだ日本だと、男性のためのポルノコンテンツが、女性のナチュラルなセクシャルウェルネスを制圧している側面があると思います。それに合わせていくと、プレジャーとはほど遠いし、相手のプライドを満たすための「性」に、自分の尊厳までも傷つけられてしまう。

Mutsumi:本当は、ポルノという文脈の中に性があるのではなく、セクシャルウェルネスはもっと生活の中の一部だと思うんです。お風呂上がりにマッサージする感覚でプレジャーをするみたいな感覚。そしてその延長線上にセックスがある。だから自分の中のエロティックな気持ちを否定しないでほしいと思っています。

長田:「SELF LOVE FES」では、そんな気持ちを後押ししてくれそうなフェムテックアイテムがたくさんありましたね! 日本では見たことないものばかり。特に、Mutsumiさんのアシスタントさんがつけていた、「生理用パッチ」がすごく気になりました。ローライズデニムのはき口からチラ見せしていたのがすごくイケてる! と思って(笑)。タブーを感じさせないあっけらかんとした感じ、というか。

Mutsumi:『jovi』の生理用パッチですね! あれはアメリカの特許技術を使ったフェムテックアイテムで、薄いパッチの中に数十億のコンデンサーがあって、それが神経などに働きかけて不快感や痛みを和らげる仕組みらしいです。すぐに輸入はできなそうなのですが、いつか日本にも輸入できたらいいなと思います。




Mustumi:ほかにも、デリケートゾーンケアには『mother’s dose』の「膣座薬」がおすすめ。これ本当にいいんですよ。膣内に入れるととろーんとあったかくなって、保湿してくれます。効果別にいろいろ種類がありますが、ベースはオーガニックココアバターやココナッツオイルなどのピュアなもの。そこにプラスオンで、ビタミンEやCBDが入っています。セックスの前に使うと感度が上がったり、就寝前に入れて保湿ケアとして使ってもOKです。




Mutsumi:『Dripstick®︎』はセックス後に粘液や精液を吸収してくれるスポンジ。射精後に慌ててトイレに駆け込んだりティッシュで片づけたりしなくても、膣口に入れるだけでOKなんです。セックスが終わったあとの時間を、落ち着いてお互いを労わり合うために使うことができる、というわけ。

長田:アイデアや目のつけ所がすごく細かい! 日本だとまだフェムテックの具体例が限られてしまうから、こうしたいろんなアイテムが気軽に手に入る日が来たらいいですよね。

Mutsumi:実はこの夏、『Lim Love』のオンラインショップをオープン予定なんです。今日ご紹介した一部のアイテムを含め、楽しくなるようなアイテムを日本に紹介していきたいと思っています。




何かを成し遂げなくても、あなたには価値がある

——さまざまなセルフラブについて伺ってきましたが、それらを実践することで私たちの生活はどんなふうに変わっていくと思いますか?

Mutsumi
:毎日生きていれば、もちろん落ち込むことや嫌なこともたくさんあります。でも自分を愛せていると「お前は大丈夫だ!」ともう一人の自分がつねに言ってくれる感じがするんです。「私はダメだから頑張らなきゃ」ではなく、「もっとよくなりたいから努力しよう」と、原動力がポジティブなものに変わります。

それから、人にどう思われるかを気にしなくなります。私もこれまでは、「失敗したらどうしよう」とか、「かっこ悪く見えたらどうしよう」という意識が強すぎて、人前に出ることも苦手だったし、ガチガチに固まってしまっていました。でも、セルフラブを実践していくと、たとえ失敗しても「それも私」と気楽になれるんですよね。

——長田さんはいかがでしょうか?

長田:私の場合は、自分の中に長いこと「自分軍曹」がいて、めちゃくちゃ鞭を打って無理させてきました。倒れてなんぼ、みたいな。それが、2人目の子どもが生まれて、でも仕事も頑張りたいとなったとき、もう本当に手一杯になって、限界が来てしまった。自分軍曹へのクーデターが起きたんです(笑)。そのあとに出てきたのは、もっと賢くて適当なもう一人の自分。私のペースを見て待ってくれるし、目先の結果を求めてこない存在です。

そもそも、社会から女性へのニーズってすごく多い。求められる役割をこなすことに自己実現とか喜びを重ねる人もいるけれど、その役割へのニーズって、それぞれが矛盾している。お母さんだったらこうあるべきだとか、一方で仕事する人はこうあるべきだとか。いわゆる「無理ゲー」なんです。無理ゲーに挑んでは潰れる失敗を何回か続けて、学びましたね。これじゃ絶対にやっていけない。社会が自分に求めてくる役割に殉ずるよりも、せっかく生まれてきたんだから、自分の喜びとかリラックスを優先してやっていこうって。

さっきMutsumiさんは「自分を大切にすることが、よい成長につながる」とおっしゃっていましたが、私はどちらかというと、セルフラブによって「よい休み」が取れるようになる気がしていて。「何かを成し遂げなければ自分には価値がない」みたいな焦燥感から解放されるから、これといって誰かに認められなくても、生きて、息していればいいかな、みたいな。究極をいうとそんな感じなんです。

持続可能な社会に必要なのは、持続可能なメンタリティ

長田杏奈さんとMutsumi Leeさんのツーショット

——長田さんが自分軍曹だったときのように、「成果を残さないとダメだ」と、がむしゃらに頑張ってしまう人は多そうですよね。

Mutsumi:多いと思います。今って、社会課題を解決したいと頑張っている若い女性たちが増えているけれど、彼女たちと個人的な話をすると、自分のことを後回しにしている人がすごく多い。でも、自分自身の問題に向き合うことを置いてきぼりにして社会課題だけに向き合っていると、そこに歪みが生まれて、それが社会の痛みにつながってしまうと思うんです。

長田:うんうん、その話はよくわかります。

Mutsumi:持続可能な社会に必要なのは、まず持続可能なメンタリティ。じゃないと、何も自分事化できないと思うんです。

長田:もう自分を消耗品にして、成長成長みたいなことだけ求める時代じゃないですよね。最近は、「置いてきぼりにしてきた自分をもっと大切にしようよ」っていう流れも少しずつできてきたように思います。

Mutsumi:もちろん、頑張れることを否定しなくてもいいんです。ただ、自分の中の違和感をそのままにして、大義に向かっていってほしくないということなんですね。

というのは、実はそこってつながっていて、自分が幸せになっていくと、いつの間にか素敵なことができちゃっていたりする。だから、もっと気楽に、自分が好き、自分が大事って思える世の中にしていきたいし、なったらいいなと思います。

取材/長田杏奈 文/秦レンナ 企画・構成/種谷美波(yoi)