【yoi2周年スペシャルインタビュー第3弾・前編】Z世代的価値観でアメリカの「今」について語るライターの竹田ダニエルさん。仕事のパートナーでもあり、プライベートでも毎日連絡を取り合うほど仲が良いというアーティストのSIRUPさんを迎え、「SNSとメンタルヘルス」について、スペシャル対談をお届けします。

竹田ダニエル SIRUP 対談 メンタルヘルス

竹田ダニエル

ライター

竹田ダニエル

1997年生まれ、カリフォルニア出身、在住。「音楽と社会」を結びつける活動を行い、日本と海外のアーティストをつなげるエージェントとしても活躍する。2022年11月には、文芸誌「群像」での連載をまとめた初の著書『世界と私のA to Z』を刊行。そのほか、現在も多くのメディアで執筆中。

SIRUP

アーティスト

SIRUP

ラップと歌を自由に行き来するボーカルスタイルと、自身のルーツであるネオソウルやR&BにゴスペルとHIPHOPを融合した、洗練されたサウンドで誰もがFEELGOODとなれる音楽を発信するアーティスト。2022年には世界的ポップスター「Years & Years」のRemix参加や、アイリッシュ・ウイスキー「JAMESON」とのコラボを発表。同年11月には自身初の日本武道館公演を開催。今年8月にはiriとの初コラボ曲『umi tsuki feat. iri (Prod. Chaki Zulu)』をリリースし大きな反響を呼んだ。日本を代表するR&Bシンガーとして音楽のみならずさまざまな分野でその活躍を広げている。

仕事仲間であり、互いの弱さや悩みを打ち明けられる友達

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ーーまずは二人の出会いから教えてください。

ダニエルさん:2019年頃、音楽業界やアーティストのメンタルヘルスについて発信していた時期に、X(旧Twitter)を通じてトラックメーカーのstarRoさんと知り合い、その流れでSIRUPともつながったんです。その後、starRoさんが場を設けてくれて、初めて会ったんだよね。

SIRUPさん:そう。当時、日本の音楽業界について鋭く批判している人っていなくて、ダニエルの発信を初めて見たときは「俺が思っていたことを言語化している人がいる!」と驚いたし、うれしくなりました。対面で会った後ダニエルはアメリカに戻り、Zoomを通じて「英語教えて」という感じでやり取りがスタートして。しだいに英語の練習よりも人生の話ばかりするようになり(笑)、今ではチームとして仕事も一緒にする関係です。

ダニエルさん:最初はSIRUPの日本語の歌詞を英訳したり、発音のアドバイスをしたりといった関わり方でしたが、今では海外アーティストとのコラボレーションや海外スタッフとの交渉など、SIRUPチームの一員として仕事をしています。

ーー出会ってからお互いの印象は変化しましたか?

ダニエルさん:すごく変わりました。SIRUPは歌もうまいし顔もかっこいいから、たくさんの人にチヤホヤされているんだろう、何の悩みもない人なんだろうなと思っていたら(笑)、音楽業界の問題や社会問題にもすごく関心があると知ってイメージが変わりました。

SIRUPさん:ええギャップやな(笑)。

ダニエルさん:実は、ものすごく“人間的”な人。まあ、人間的すぎて苦労することもあり、今となっては“ちょっと大変な兄”って感じですね。

SIRUPさん:こっちも「あいつ大変やな」と思ってるで(笑)。とはいえダニエルは、考え方や発言が学びになることばかりで、いつも「すごいな〜」と思ってたけど、知り合って1年ぐらいたってからは、「あ、ダニエルも普通の大学生なんや」と思うようになりました。

出会ってからすぐパンデミックが始まって、思うような学生生活が送れなくなったことを聞いていたから、徐々に日常が戻ってきたと聞いたときは「ほんまによかったなぁ」って俺が感極まって泣いてしまったくらい(笑)。

SNSでのネガティブなコメントの背景にある「社会構造」を考える

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ーー二人は多くのフォロワーを抱え、SNSがプライベートや仕事と深く結びついていらっしゃるように感じます。これまでSNSへのコメントや反応で、心の健康に影響があった経験はありますか?



SIRUPさん:自分は2021年ぐらいがいちばんハードで、きついコメントが来ることがありました。例えば「政治的な発言をしないでほしい。ファンとして残念です」とか「これ以上タトゥーを入れてほしくない。もう曲が聴けなくなりました」とか。

でも、ダニエルやチームのメンバーと話をするうちに、こういった否定的なコメントは一人一人の意見というよりも、ひとつの社会現象を反映しているものとしてとらえるようになりました。人に対して否定的な言葉をかける背景には、どういう社会構造があるのかを考えるようになった。今はリプを見ないようにしているので、嫌な気持ちになることがないですね。

ダニエルさん:SNSへのとらえ方が変わったのは、自分の公式アプリ 『channel SIRUP』を立ち上げたのも大きかったんじゃない? アプリでは動画やブログが見られる以外に、ファンと直接交流する場も設けられているんです。Xは不特定多数の人が閲覧できるので、批判的なコメントが来ることもあったけど、クローズドなファンコミュニティを作ってからはファンの方たちに、SIRUPがどういう人なのか、どういう考えを持っているのかがよりわかるようになったと思う。

SIRUPさん:自分が共感した社会活動を行う団体と一緒にチャリティやドネーションの企画もやったりしているし、タイムラインは自分だけが更新するんじゃなく、ファンの人も日常で感じた疑問や違和感を共有してくれます。そこからみんながそれぞれきっかけを持って、いろんなやり取りが生まれている。自分自身救われているなって思います。

自分はファンの方に対して「人間らしくいさせてもらっていいですか?」という気持ちなんです

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ダニエルさん:SIRUP自身、コミュニティ内ではメンタルヘルスや社会問題の話もよくしているし、パーソナルな悩み事を打ち明けてくれるファンの方も少なくないよね。

SIRUPさん:そうだね。臨床心理士のみたらし加奈さんをゲストに呼んで、みんなの質問に一緒に考える会をやったりしたことも。自分の発言がすべて正しいとは思わないし、学んでいる途中なんです。だから、ファンの方たちにとっても学びの場となればいいなと思う。

ダニエルさん私はアーティストも同じ一人の人間であることをもっとみんなに認知されるべきだと思う。表現活動をしている人は人一倍感受性が高い。だからこそ、表現できることもあるけれど、その一方でアーティストの人権は蔑ろにされやすいんです。音楽業界はアーティストに“カリスマ性”を持たせることでファンを獲得してきた歴史があるから。

本当はミュージシャンだって私たちと同じ人間で、政治的な発言をしたり、精神が不安定になることだってある。だから、SIRUPが「人間らしさ」を開示することは、これまでのアーティストへの偏見を覆す、とても意味があることだと思うよ。

SIRUPさん自分はファンの方に対して「人間らしくいさせてもらっていいですか?」という気持ちなんです。人間らしいふるまいを肯定することが、結果的にみんなの肯定にもなると思う。誰だって失敗することもあるし、調子が悪いときだってある。それを指摘したり、攻撃したりするのではなく、認め合える社会を作りたいなと思っています。

批判的目線を、SNSへのコメントではなく政治や社会問題に向けてみる

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ーーそれでも、SNSによって見ず知らずの人の意見に傷つけられたり、ネガティブな感情を抱いたりしてしまった場合は、どのようにその感情と向き合っているのでしょうか? 

ダニエルさん:私がダメージを受けるのはXで否定的なコメントを受け取ったとき。ごくたまに、前後の文脈を読まずに「間違いだ」と指摘したり、言ってもいないことを「こんな発言をした」と攻撃をしてくる人がいます。もちろん、すべての人に好かれようなんて思っていないですが、ネガティブな発言がくると、自分が悪いことをしてしまったような気持ちになって落ち込むこともある。アメリカに暮らしながら、日本のことを発言することに対して、「何なんだコイツ!?」と思われやすいこともわかります。私が客観的に「竹田ダニエル」を見ていても、そう思うことがあるから。

SNSの反応によってつらくなった時はSIRUPや友達、仕事仲間に愚痴を言います。私自身、弱さを吐き出せる環境があることは恵まれていると思う。

SIRUPさん:自分は否定的なコメントを見なくていいようにリプをクローズにしているので、基本的に知らない人のコメントで傷つくことはないですね。

ダニエルさんそもそも私がSNSを始めたモチベーションって、アーティストが言いにくいことを代わりに発言することで、音楽業界がよりよい環境になる手助けをしたいと思ったからなんです。それをきっかけにコラムを書いたり、本を出したりして、今は音楽業界の人だけでなく、さまざまな方から「自分の世界が広がった」とか「閉塞感から抜け出せました」といった前向きなコメントをいただくようになりました。

だから、そういう方たちのためにもSNSを通じて自分の思いや気づきは発信していきたい。狙ったつもりはなくても時々コメントがバズったりすると「フォロワー稼ぎしてる」と言われることもあり本当にショックなんです。

SIRUPさん:そう言ってくる人は自分がフォロワー稼ぎしたいんじゃない? そういうコメントを見ると、「頑張って攻撃しているな」と自分は思うな。「フォロワーがたくさんいるからいい思いをしているんでしょ」って妬みベースの攻撃をする人もいると思うから。

ダニエルさん:有名人やインフルエンサーには何を言ってもいいと思われているよね。その過激なエネルギーを政治や社会問題に向けて行けたらいいのにな、と思いますね。

取材・文/浦本真梨子 撮影/池野詩織 ヘア&メイク/宮本春花 企画・編集/種谷美波(yoi)