「yoi」ではSDGsの17の目標のうち「3. すべての人に健康と福祉を」、「5. ジェンダー平等を実現しよう」、「10. 人や国の不平等をなくそう」の実現を目指しています。そこで、yoi編集長の高井が、同じくその実現を目指す企業に突撃取材! 第1回は、社会的養護を受ける子どもたちにヘアカットやヘアカラーを無料で提供する「BEAUDOUBLE」に理事として携わる「uka」の渡邉弘幸さん、そしてBEAUDOUBLE代表理事の佐東亜耶さんにお話を伺いました。

BEAUDUBLE uka TWIGGY 社会的養護 ヘアカット

◆「BEAUDOUBLE(ビューダブル)」とは?
児童養護施設、里親家庭、自立援助ホーム、一時保護所、アフターケア相談所に関連する子どもや若者、および各施設の職員の方々を対象に、ヘアカットやヘアカラーを無料提供するプロジェクト。「BEAUDOUBLE」は「BEAUTY」と「DOUBLE」を組み合わせた造語で、「美容にはダブルの力がある」ことを表現。“ダブルの力”とは、外と内の美しさや、施術を受ける側とする側のそれぞれがハッピーになることを意味する。「uka」の渡邉弘幸さん、「TWIGGY.」の松浦美穂さん、「Beauty Cellar by Hollywood」などを手がけるハリウッドの牛山大輔さん、美容商社ガモウの蒲生典子さんが理事として携わる。

uka CEO 渡邉弘幸 BEAUDOUBLE 代表理事 佐東亜耶 集英社 yoi 高井佳子 編集長

左から、BEAUDOUBLE代表理事の佐東亜耶さん、高井編集長、ukaの渡邉弘幸さん。

渡邉弘幸

uka CEO

渡邉弘幸

大学時代にアメリカンフットボール選手として活躍したのち、博報堂に入社。2009年に退社後、パートナーでありトップネイリストとして活躍するuka代表・渡邉季穂の祖父が創業した美容室を、トータルビューティサロン「uka」へとリブランディング。2014年より現職。2022年に一般社団法人BEAUDOUBLEの理事に就任。

佐東亜耶

BEAUDOUBLE 代表理事

佐東亜耶

2012年よりフィリピンやガーナの子ども達への支援を行い、ミンダナオ島の孤児達への支援活動を開始。2014年より日本の児童養護施設とかかわりはじめ、2017年より社会的養護の子どもたち・若者たちのためのプロジェクトを開始。一般社団法人 泉鳳の代表理事も務める。

高井佳子

yoi編集長

高井佳子

入社以来、「ノンノ」「バイラ」「マリソル」「エクラ」と、幅広い年代の女性誌媒体に編集者として携わる。2021年@BAILA編集長に就任、2023年6月より現職。

美容の力で、“うれしくなること”を増やしていく

uka CEO 渡邉弘幸 BEAUDOUBLE

高井 渡邉さんは、どんな思いで「BEAUDOUBLE」への参加を決められたのでしょうか。

渡邉 BEAUDOUBLEを立ち上げた(佐東)亜耶さんから、困難な環境で育たざるを得なかった子どもたちが、色々な場面で社会に出るチャンスやモチベーションなどを削がれているという話を伺ったんですよね。「美容の力でもう一度自分の力を取り戻して、自信を持ってチャレンジするという気持ちを後押ししたいので、協力してもらえませんか」と言われて、「それはもちろん」と。

高井 新しい取り組みを進める上で、社内でのご苦労や紆余曲折はありましたか?

渡邉 いや、まったくないです。みんな「やりたい」という感じでしたね。社員のほとんどが、ukaのビジョンである「うれしいことが世界でいちばん多いお店」に共感して入社してくるので、BEAUDOUBLEとも親和性があるのだと思います。ちょうどお話をいただいたとき、ビジョンを「あなたと私と地球が、もっときれいに、うれしくなることをふやしていきたい」と書き加えたばかりだったので、タイミング的にもよかったなと。

高井 今、BEAUDOUBLEで利用できるサロンは「uka」と「TWIGGY.」ですが、それぞれ何人ぐらいのスタッフさんが参加されているんですか?

佐東 「uka」が22人、「TWIGGY.」が5人です。サロンからの報告レポートを見てびっくりしたんですが、トップスタイリストの方も参加してくださっています。

渡邉 ベテランたちもやりたいみたいですね。

高井 それは素晴らしい! 毎月の利用者数や年齢層はいかがですか。

佐東 平均すると、「uka」が月10人前後、「TWIGGY.」が月5人前後です。利用者の年齢は5歳ぐらいのお子さんから40代ぐらいの施設職員の方までと幅広いのですが、いちばん多いのは20代ですね。2021年11月からの累計で272人が利用してくれていますが、この取り組みをスタートした2017年から数えるとかなりの数になると思います。児童養護施設や自立援助ホームなどの施設で暮らす子どもたちは10代が多いので、「生まれて初めて美容室でシャンプーしてもらう」っていう子もいるんですよ。

高井 それはうれしいでしょうね。自分を丁寧に扱ってもらったり、キレイにしてもらったりする経験は心を豊かにしてくれますよね。ちなみに、予約が多いメニューは何でしょう?

佐東 カットがいちばん多くて、次がカラー、パーマの順です。限られた生活費でやりくりしている彼らにとって、カラーは金額的になかなか手が出せないメニューなので挑戦したくなるみたいです。

高井 利用された方の声で印象に残っているものはありますか。

佐東 BEAUDOUBLEではスタイリストさんを指名できるんですね。髪を切って終わりではなくて、自分の話を聞いてもらいながら「前回はこのスタイルだったから、今日はこうしてみよう」「こういうアレンジをするといいかも」「今度はこういう髪型もいいね」と、未来につながるお話や関係性ができることにすごく喜んでいますね。「自分を認めてもらえる」という安心感があるようです。

BEAUDOUBLE 利用者の声 ビフォーアフター ヘアカット uka

社会的養護を受けているYさんから、佐東亜耶さんのもとに届いた「自分を変えたくて、ハサミで切りました」というポジティブな言葉と散切り頭の写真。「彼女の変わりたいという前向きな気持ちを、美容のプロの手でかなえたい」という想いから「BEAUDOUBLE」が始まった。

BEAUDOUBLEから生まれるポジティブな変化

集英社 yoi 高井佳子 編集長 BEAUDOUBLE uka

高井 私はつねづね、美容師の方は“選ばれた手”を持っていらっしゃると思っています。色々な問題を抱えていたり、つらい経験をされたりした方に触れて、その心を開いていけるのは、まさにその方の力であり、美容の力ですよね。

佐東 そうですね。サロンの皆さんは「かわいそうだから」ではなく、すごくフラットにかかわってくださっていて。美容室という枠を超えて、人や地球に対する意識を持っていらっしゃる皆さんだからこその人間力だと思います。実際、今までトラブルになったことは一度もありません。

高井 渡邉さんは、美容の力をどんなふうに感じていらっしゃいますか。

渡邉 お客様と1対1で向き合い、技術やマインドを通じて感動を生み出せることが、美容の力の根源だと思いますね。それによって一歩踏み出せる、笑顔になれるといったことにつながるのかなと。

高井 人と人の間に感動を生み出せるのが美容の力。おっしゃる通りだと思います。特にBEAUDOUBLEに対するマインドとして大切にされていることはありますか。

渡邉 色々ありますが、例えばシェルターに駆け込んだお子さんを親御さんが執拗に追いかけるケースなど、社会的養護を受ける子どもたちを取り巻く現実を知るほどに、プライバシーを守ることが重要だと思いました。そこで、若いスタッフには社会的擁護を受ける子どもや若者が約4万5000人いて、さまざまな家庭環境があること、SNSに写真や情報を載せることの危険性など、リテラシーについて説明をするところから始めています。その学びは、我々にとっても非常に大切なことなので。

高井 サロンの皆さんの反応はいかがですか?

渡邉 ちょうど今日、大変な経験をされて閉じこもっていた方が一歩前に踏み出すきっかけをつくれたという報告を受けました。その変化は、スタッフのプライドにもつながったようです。美容師は技術とマインドが向上し、お客様も社会に出るきっかけを得られるようになっていく。これはまさにBEAUDOUBLEが目指す「DOUBLE」ですよね。我々にもポジティブな変化が起きているので、これからも続けていこうと考えています。

佐東 自分にとって大切な面接の前に、ukaでお世話になった方を指名して、お金を払って施術を受けに来てくれたケースもあったそうです。利用者と施術者がお互いに支え合いながら成長していける関係性は、立ち上げ当初から目標にしていたことだったので、本当にうれしかったですね。

BEAUDOUBLE ビューモデル ビフォーアフター ヘアカット uka

「BEAUDOUBLE」の利用者は「ビューモデル」と呼ばれる。

子どもたちが安心できる場所を、全国に増やしていきたい

BEAUDOUBLE 代表理事 佐東亜耶 uka

高井 それはうれしいお話ですね。最後に、今後のBEAUDOUBLEの課題や展望についてもお聞かせいただけますか。

佐東 まずは協力サロンを増やすことですね。「名古屋にありませんか」「富山にはないですか」といったお問い合わせもいただくのですが、今は予約枠やエリアが限られていて地方からだと交通費もかかってしまうので。日本には約25万軒の美容院がありますから、全国に展開したいと思っています。

渡邉 協力サロンを増やすことはもちろんですが、BEAUDOUBLEを通じて美容師のマインドや満足度を高めることの重要性も感じています。というのも、美容師は就業から7年間で8割が離職してしまうので、この業界は圧倒的な人手不足なんです。その課題解決という意味でも、業界全体で取り組む意義があると思っています。

高井 それはまさにukaの「うれしくなることをふやしていきたい」というビジョンとリンクするお話ですね。先ほどのリテラシーのお話にも通じますが、「yoi」の読者である20代後半から30歳前後の方は特に、何かを選ぶときにブランドのビジョンやメッセージを重視する方が増えているので、社会的養護のことも含めて、BEAUDOUBLEのメッセージを広く届けられたらと思います。

佐東 社会的養護を受ける子どもたちは、今の環境を自分で選んだわけではないし、つらくても苦しくても誰にも言えずに抱えていることが多いんです。だから、協力サロンを全国に広げることで、地域で子どもたちを見守る空気ができたらいいなと思うし、子どもたちが「ここは自分たちを受け入れてくれる場所」と思える安心感を増やしていきたい。誰かを気にかけることや、安心できる場所があることは、子どもたちの安心や安全に繋がると思うので、そんな未来になったらいいなって。

高井 BEAUDOUBLEが全国に広がることは、本当に大きな意味があると思います。今日は素敵なお話をありがとうございました。


取材を終えて…


美容室からの帰りは、必ずうきうきしますよね。それは髪型が整っただけではなく、美容師さんが自分を大切に扱ってくれたからこそ心まで満たされたのだ、と思い当たりました。渡邉さんがおっしゃるように、「美容室」という、人と人が“ちゃんと触れ合う”場所の力を再確認しました。いつか、「BEAUDOUBLE」のロゴマークが全国のサロンの入り口に貼られて、事前に登録している方はカットが無料になる…そんな未来を願います。(高井)

BEAUDOUBLE ロゴ uka

撮影/露木聡子 取材・文/国分美由紀 企画・構成/高井佳子(yoi)