「Stories of A to Z」のタイトルカリグラフィー

今回は、家族のかたちのひとつである「特別養子縁組」について知る特別版。子どもを迎え入れる養親(ようしん)になるうえで理解しておくべきことや日本の現状について、「ベアホープ」の橋田じゅんさんに聞きました。

Story5 いろいろな家族のかたちを知る

今月の相談相手は……
橋田じゅんさん

一般社団法人ベアホープ理事

橋田じゅんさん

東京都子育て支援員。3児の母として、子どもへのサインランゲージである「おててサイン」を学び、講師として活動。その経験を活かし、2015年よりベアホープでケースワーク事務として養親や家族のケアなどを担当している。

制度を知ることが、社会を変える一歩になる

特別養子縁組制度の背景にある問題は? 私たちにできることって? 「Stories of A to Z」Story5【後編】_2

――子どものための制度である「特別養子縁組」を正しく理解するうえで、ベアホープが養親希望夫婦に求める条件はありますか?

橋田さん そうですね、要件としては9つあります。

①特別養子縁組は子どものためであることを理解している
②迎える子どもの性別や病気、障害の有無を問わない
③心身ともに健康である
④婚姻期間が一年以上(法的に婚姻関係にあり、かつ実際に同居している期間)の夫婦である
⑤共働きの場合、子どもを迎えて審判が確定するまで仕事を休むことができる(幼児以上を受託の場合は別要件あり)
⑥受託した子どものために養育環境を整えることができる
⑦経済的に安定している
⑧よい夫婦関係を継続するために努力をしている
⑨ベアホープを信頼している


このような要件以外にも、ご理解いただく必要のあることがたくさんありますので、ぜひ研修を受けて特別養子縁組の本質について知っていただければと思います。

――特別養子縁組というと不妊治療の先にある選択肢というイメージが強いように感じます。そう考えると、制度について誤解している人は多いかもしれませんね。

橋田さん 確かに不妊治療を経て特別養子縁組を考える方は多く、それ自体にはなんの問題もありません。ただ、最初にお伝えしたように、特別養子縁組は子どもの福祉のための制度だという大前提があります。問い合わせの中には「子どもの年齢や性別を選べますか」というものもありますが、迎え入れる子どもについてはいかなる希望も出すことはできません。養親希望のご夫婦には、「子どもが欲しい大人のための制度」ではなく「子どもに自分たちの家庭を提供する制度」であると理解を深めていただくためのお話をしています。

――制度について頭では理解できても、すべてに納得したうえで子どもを迎え入れる決断に至るのは容易ではないですよね。

橋田さん 本当に難しいと思います。初めての育児への不安もあるでしょうし、不妊治療を経験された方であれば、さまざまな痛みや苦しみを抱えていらっしゃることも多いです。だからこそ、ご夫婦でたくさん話し合い、自分たちが進むべき道を見出していただきたいのです。一方で、実際に研修を受けたり私たちと話をしたりする過程でどんどん理解を深め、「子どものために自分たちの家庭を提供したい」という思いに到達するご夫婦もたくさん見てきました。その姿勢と決断には感謝と尊敬の念しかありません。また、不安や迷いを感じている方には研修への参加をおすすめしています。

――養親希望について迷っている段階で研修を受けてもいいんですか?

橋田さん はい。実は、説明会やお問い合わせでいただく質問のほとんどは、研修でご説明している内容なんです。研修を受けることで漠然とした不安が解消されたり、思いが明確になったりする方が多いように感じます。研修では実親さんの抱えている困難や背景についてもお話ししますし、決して明るい話ばかりではないので、「やっぱり考え直したい」「自分たちには向いていない」と途中で断念される方もいらっしゃいます。研修を経て実際に申し込む方の人数は、参加者の3分の1ぐらいですが、それは制度について正しく知ったうえで考えた結果ですし、制度を理解する人が増えれば社会全体の意識も少しずつ変わっていくはず。まずは、特別養子縁組制度について正しく知ってもらうことが大切だと思っています。

現状を知ること、そして正しい性の知識を持つことがアクションに

特別養子縁組制度の背景にある問題は? 私たちにできることって? 「Stories of A to Z」Story5【後編】_3

――裁判所の審判が確定して親子になったあとも、サポートしてもらえるのでしょうか。

橋田さん お子さんの成長と同時に相談したいことも出てくると思うので、ベアホープではお子さんが16歳になるまでフォローアップを提供しています。まず委託時に、いつでも相談できるサポート用のグループSNSをつくって助産師や保健師、社会福祉士や公認心理師などが対応します。定期的に家庭訪問も行いますし、養親さん同士のネットコミュニティで情報交換もできるようになっています。

――養親さん同士がつながれるのは心強いですね。養親を希望されるのは30代以上の夫婦が多いということでしたが、20代の夫婦や実子がいる人でも養親になることはできますか?

橋田さん もちろんです。不妊治療経験や子どもの有無にかかわらず、20〜30代の方たちが家族のかたちを考えるときに「特別養子縁組で子どもを迎え入れる」という選択肢もぜひ持っていただきたいと思います。残念ながら、現状では生みの親のもとで暮らすことができない子どもの数が急激に減るということは難しいと思っています。だからこそ、養親さんの年齢層の幅が広がるほど、提供できる家庭が増えるという希望にもなります。

――制度を必要とする子どもがいる現状を理解するためには、養親希望者だけでなく、社会全体で制度について正しく知ることが大切ですね。

橋田さん 本当にそうなんです。社会的養護下にいる子どもの存在や、特別養子縁組を含めた多様な家族のかたちについて、若い頃から学ぶ機会のある欧米に比べて、日本は社会的な理解が50〜60年遅れていると言われています。理由のひとつとして、「家」や「血のつながり」を重視する日本の文化的背景もあります。日本にはさまざまな素晴らしい文化がありますが、文化や価値観を重んじる一方で、「子どもたちを守るために自分の家庭を提供する」という価値観や、そういった家庭への周囲の理解が進んでいくことを目指したいです。

――そのために、年齢や立場にかかわらず今日からできるアクションはありますか?

橋田さん 「社会的養護下ってなんだろう?」「どうしてそういう子どもたちがいるんだろう?」と疑問に感じたら、ぜひ現状を知るための行動を取ってみていただきたいと思います。実際に子どもを託したり迎えたりする立場でなくても、身近な問題として、自分ごととして考えられる人が増えたらうれしいですね。また、特別養子縁組で子どもを託す理由のひとつとして、若年で出産するケースもあります。社会的養護下の子どもたちを減らすには、正しい性の知識を持つことも出発点のひとつになると思います。世代を問わず自分の体と命を大切にして、困ったときは迷わずSOSを出してくださいね。


ベアホープが掲げる目標は、すべての社会的養護下にある子どもたちに家庭を提供する夫婦が増えるよう、社会意識の改革・変革を促すこと。橋田さんいわく、「現実は、2歩進んで1.5歩下がるぐらいのペースで進んでいく感じですね」。けれど、私たち一人一人が知識を持つことで、社会的養護下の子どもが減り、すべての子どもたちが安心できる環境で暮らせるようになるかもしれない――。そう考えることがいつか、あなたや私、あるいは大切な誰かの人生につながるかもしれません。

イラスト/naohiga 取材・文/国分美由紀 企画・編集/高戸映里奈(yoi)