竹田ダニエルさん連載「New"Word", New"World"」をまとめた書籍『ニューワード ニューワールド 言葉をアップデートし、世界を再定義する』に収録している対談を、WEBでも特別公開!
ジェンダーや人間関係にまつわる話題をコラムやPodcastで発信する4人組ユニット・桃山商事メンバーの清田さんとワッコさんとのトークの後編では、人とのコミュニケーションにおいて大切にすべきことについて語りました。

恋愛の“始め方”は変わっても、“悩み”は今も昔も変わらない

——桃山商事のお二人は、これまでたくさんの恋バナを聞いてこられたと思いますが、最近の日本の恋愛についてどのようなトレンドがあると感じますか?
清田さん 活動を始めて約20年になりますが、出会いのきっかけがアプリになったとかそういう変化はあれど、体感として、悩みの内容自体は今も昔もあまり変わらないような気もします。というのも、背景には“家父長制”的な社会構造があって、それが個々の人間関係にも大きく影響しているから。
ワッコさん その社会構造が変わらないから、悩みもなかなか変わらない。夫婦関係の悩みも社会構造と深くつながっているなと気づかされますよね。例えばワンオペ育児の問題も日本社会の作り出した現象のひとつだなって。
清田さん そうだよね…。以前、3組の子育て夫婦にインタビューしたことがあったんですね。3組とも「夫が家事・育児にコミットする時間が少ないから、もうちょっとどうにかならないか」という悩みを妻側が抱えていたんですが、それに対して夫たちは、全員同じこと言ったんですよ。いわく、「もっとコミットしたいけど、仕事が忙しくてこれ以上は厳しい。もっと家事・育児の時間を増やすためには、勤務時間が短くて土日も休める部署に異動するか、転職するしかない。そうなると確実に給料は減ると思うけど、どう思う?」と…。それは決して脅しのようなニュアンスではなかったのですが、妻側は「それは困る」となり、結果的に口をふさぐ言葉になっていた。
背景には男女の賃金格差という問題がかかわっていて、「子どものこともあり、できるだけ収入は確保したい」「そのためには夫がたくさん働いたほうが合理的」「だとすると家事・育児のアンバランスも致し方ない」と、構造的にそのような結論に導かれていくという…。だからある意味、個人の努力だけでどうにかなることじゃないんですよね。昔は個人間の揉め事だと思って、「ひどい夫(彼氏)だね」と言ってたけど、その根っこが社会問題とつながっているとわかってからは、エピソードの読み取り方が変わってきました。
職場での恋バナ・愚痴はタブー? アメリカと日本のコミュニケーション

——ちなみに皆さんは、恋人関係だけでなく、人間関係を結ぶ上で難しいなと思うことはありますか?
ワッコさん 私は最近、人と踏み込んだコミュニケーションを取るのが難しいなと思っていて。例えば職場の人と仕事以外の話もしたいけど、何をどこまで聞いたり、話したりしていいのかわからない。アメリカの職場ではどうなんでしょうか?
ダニエルさん 一概には言えないけれど、基本的に職場で恋バナとか愚痴は言わない人が多いと思います。プライベートな情報を、自分のポジションを下ろすのに利用されるかもしれないから。仕事とプライベートは完全に切り離して考えられている気がします。会社はあくまでもお金を稼ぐ場所でしかないし、上司も部下も同僚も友達ではないという考えが広がっていると思います。
ワッコさん そうか、そこまでプライベートと仕事の線引きがはっきりしているんですね! 私は職場で雑談をするのが好きなので、割と何でも話してしまうタイプなのですが、個人的な話をしたりされたりするのが苦手な人もいるんだろうなと不安になったりします。自分も年齢が上がってきているので、若い人に“圧”を与える存在になっていることを自覚しなければと思う毎日で…。
ダニエルさん なるほど…。でも、パワハラやセクハラ、バウンダリーの概念が入ってきたことで必ずしもコミュニケーションを取るのが難しくなったかというと、そうではない気がするんですよ。もともと、踏み込んだコミュニケーションを苦手に感じていた人は存在していて、その人たちが我慢してきたから表面化しなかった可能性もありますよね。それなのに「この時代にはこれはアウトだよね?」と、受験の穴埋め問題みたいな発想で目の前の人と接する人もいるけど、それってなんだか誠実ではないと感じるんですよね。
ワッコさん 確かにそこは相手や関係性にもよるし、正解はないから、マニュアル的に考えるのはよくないですよね。
清田さん そういえば最近、Prime Videoの配信ドラマ『1122 いいふうふ』を見ながら、バウンダリーの重要性と難しさを考えさせられたところでした。このドラマでは、互いの自由を尊重し、ときに不倫まで公認し合う夫婦が主人公なのですが、物語が進むにつれ、「二人で一緒にいる意味」が段々とわからなくなっていくんですよ。
「あなたはあなた、私は私」と、夫婦であってもそれぞれ“個人”であることを大事にする姿勢が本当に大事だなと思った一方、バウンダリーを意識するがあまり、お互い相手に踏み込みづらくなり、どうコミュニケーションを取ればいいかわからなくなっていくようなところもあって…。
ダニエルさん 人との関係の中で、一概に「ここまではOKで、ここまではNG」とは言いきれないけど、確かに、バウンダリーを徹底していたら必ずいい未来があるかといえば、それはわからない。必要なのは、最低限相手を尊重するという姿勢を大事にすることなのかもしれないですね。
感情を表す言葉を見つけると、自分と社会が見えてくる

——恋愛や人間関係がうまくいかないと感じている読者に対して、皆さんならどのような声をかけますか?
ダニエルさん 例えば、恋愛で悩んでいるときには、仕事や学業、友人や家族をないがしろにして、恋愛に依存してしまってる状況に無自覚に陥っている人って結構多いと思ってて。そういう人は恋愛がうまくいかないことが人生最大の悩みになりがちだから、それ以外のことも均等に考えようとするのはいいかもしれない。
恋愛相手にこれまでかけてきた時間やお金のことを考えると、ここであっさり引き下がれないと感じる場合もあると思うんですよ。でも、その損得勘定によって非合理な行動をとってしまう場合も多い。この現象には「sunk cost fallacy(=サンクコストバイアス:お金や労力、時間を投資した結果、たとえ今後のコストがメリットを上回ったとしても、これまでの投資を惜しんで同じことを続けてしまう心理傾向のこと)」という名前があるんですが、そうならないように意識するのはありかも。
清田さん いろんな現象に名前がついているのが面白いですよね。桃山商事でもそれを意識していて、特にワッコの作ったパワーワードが話題になることが多い(笑)。例えば、「何やってんだろう自分…」と思いながらSNSのつぶやきやくだらないショート動画を延々見てしまう行為を“虚無る”と名付けたり。
そうやって現象に名前をつけることでテーマ化することができ、共有したり分析したり内省したりということが可能になる。そこから構造問題につなげることもしやすくなりますよね。桃山商事の活動をしてなかったら、自分の男性性を内省的に振り返る発想は持てなかったと思います。男性は自分の内側の話となると、途端に語彙が乏しくなってしまうことが結構ありますよね。なぜ不機嫌になるのか、何が嫌だったのか、言語化しないからコミュニケーションも広がらない。それでフラストレーションを溜め、被害者意識を募らせたり、他者への攻撃性を発露してしまったりする。そうならないためにも、内省やおしゃべりを通じて言葉を耕しつつ、社会構造の問題にも視野を広げていくことが大事だなって思います。
ワッコさん おしゃべりって本当に偉大ですよね。言葉にすることで整理されたり、根っこにある問題に気づける。その瞬間ってなんとも言えない爽快感があります。
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画像デザイン/前原悠花 構成・取材・文/浦本真梨子 企画/木村美紀・種谷美波(yoi)