竹田ダニエルさん連載「New"Word", New"World"」をまとめた書籍『ニューワード ニューワールド 言葉をアップデートし、世界を再定義する』に収録している対談を、WEBでも特別公開!
ゲストにお迎えしたのは、若者の政治参加を促進しようと活動している団体『NO YOUTH NO JAPAN』代表理事である能條桃子さん。同世代かつ、もともと知り合いだったというお二人が、SNSでの発信を始めたきっかけや、発信する上で気をつけていることとは?

政治の話は歓迎されない。それまでの常識を変えたSNSアカウントができるまで

——お二人はどのようなきっかけで社会問題や政治などのトピックについてSNSで発信するようになったのかでしょう?
能條さん 私は幼い頃から政治に関心があるほうだったと思います。でも、熱心に発信することがあまりまわりから歓迎されるムードではない気がしていて、特に自分で活動したりはしていませんでした。でも2019年にデンマークに留学したとき、まわりの子たちが積極的に政治について語ったり、自分と同い年の21歳の人が国会議員になったりしているのを見て、「若い世代の声も政界に届くんだ!」と、その風通しのよさに驚きました。
その経験を経て、2019年日本の参議院選選挙のタイミングで、政治や選挙について発信するメディア『NO YOUTH NO JAPAN』(以下、『NYNJ』)のSNSアカウントを作ったんです。ジェンダー平等や選択的夫婦別姓、同性婚が実現してない今の日本の政治がおかしいと思うなら、選挙に行こうよ!と。
ダニエルさん SNSを中心に発信していこうと思ったきっかけは?
能條さん デンマークにいながらできることを考えたら、SNSでの発信が一番だと思ったんだよね。その頃よく日本の友達から、「誰に投票していいかわかんないから、選挙に行けない」という声を聞いていたのと、当時ちょうどEU議会議員選挙があって海外のSNSでインフォグラフィックを見ていたから、日本語版でやったらよさそうだなと思った。
ダニエルさん 政治にはどういう経緯で興味を持つようになったの?
能條さん 小学校のときの先生が割とリベラルな人で、新聞の読み比べをしたり、市長に質問に行く機会をつくってくれたり、そういう主権者教育を通して政治に有効感が生まれたんだと思う。それ以来、政治に関心を持ちはじめて、大学生のときに選挙事務所でボランティアをやってみたんだよね。ところが蓋を開けてみると、まわりは男性しかいないし、支援者は高齢者の方ばかりで、正直とても自分の居場所と思えなかった。
そんな中でデンマークに留学してみたら、同世代の人が楽しく政治活動をやっていたから、「これがやりたかったやつじゃん!」って衝撃だったの。
『NYNJ』のアカウントを作ってからは、2週間でフォロワーが1万5000人ぐらいになって、すごく驚いた。それまで「政治の話は人前でしないほうがいい」と言っていた友達も投稿をシェアしてくれたり、「お姉ちゃんと一緒に選挙に行ったよ」と報告してくれる人がいたり。政治の話ってタブーだと思っていたけど、そんなことないなと。最初は参院選が終わったらアカウントを閉じようと思っていたんだけど、いろいろできるかなと考えて、それが今でも続いている感じ。
ダニエルさん 今でこそ日本語のインフォグラフィックのSNSは増えたけど、『NYNJ』は先駆けだったよね。日本では権威のある人やマスメディアの情報は信頼できるけど、一般人が発言すると「専門家じゃないのに」と非難される傾向があると思ってて。『NYNJ』は特定の個人ではなくチームが運営するアカウントだから、みんながフォローしやすいっていうのがあったのかな。
能條さん そうかもしれない。個人で発信するよりもチームのアカウントにしたほうが中立的な立場の発信として受け取ってもらいやすいし、投稿もシェアしやすいと思ったんだよね。きっと同じ内容を個人のアカウントで発信してもここまでフォロワー数は伸びなかっただろうなと思う。
——ダニエルさんがSNSで社会問題を発信するようになったきっかけは?
ダニエルさん 竹田ダニエル名義でTwitter(現:X)アカウントを作ったのが2019年の秋。当時、学生をしつつアメリカと日本を行き来しながら音楽エージェントとして活動している中で、音楽業界と社会のつながり、文化の盗用やアーティストのメンタルヘルスの問題とかいろいろ思うことがあって、それをツイートしてたら注目を集めるようになりました。
2020年にパンデミックが起きて、若者が社会的にも精神的にも大きく影響を受けていると思ってからは、アメリカのZ世代の話をするようになった。それ以降、いろんなところから寄稿依頼が届くようになったという感じですね。
政治のトピックを扱うようになったのは2020年、アメリカ大統領選があった頃。いろんなアーティストが自分の立場を表明していて、それに対してどのような反応があるのか、こちら側から見えることを発信することが増えたんです。アメリカの政治はものすごく複雑だからすべて理解しているわけでもないけど、現地ではどんなことが起きていて、その背景にはどういう問題があるのかを伝えようと思って。
——そう思ったのはなぜですか?
ダニエルさん 日本でミスインフォメーションが広まっていると感じることが多々あったからかなあ。翻訳が誤っていたり、一部の動きをメインストリームのように扱っていたり。自分はそういう風潮を見逃す構造に加担したくなかったし、少しでも自分の経験が役に立つならという気持ちがありました。
日本を“欧米みたい”にしたいわけじゃない。発信の際に気をつけること

——能條さんは政治や社会、人権について関心を持つ人を増やすためには、どんなことが必要だと感じますか?
能條さん 『NYNJ』の活動を通して、関心がない人にいかに情報を届けるかを考えることが大切だと感じています。でも、それがすごく難しいんですよね。『NYNJ』は、2020年のBLM(Black Lives Matter)とコロナ禍を機にそれぞれフォロワーが増えたんですが、テレビや新聞の正確な情報を要約して発信していたことが、多くの人にシェアしてもらえた理由だと思います。それぞれがシェアしてくれたことで、普段はニュースを見ない、新聞を読まない、『LINE NEWS』の見出ししか情報に触れてないという人にも詳しい情報が届いていった。
ちなみに以前、選挙に行かない人たちにその理由をヒアリングしたとき、「芸能人が投票に行こうと呼びかけるよりも、仲のいい友達が投票に行っていると知ったときのほうが焦る」という意見が多かったんです。友達同士のシェアを通して無関心層にも届いていくことが、フィルターバブル(過去の検索履歴などによってパーソナライズされた情報のみが届くことによって、ユーザーが偏った価値観を持ちやすくなってしまう事象)を超えていくきっかけになると改めて気づかされました。
——ダニエルさんが海外の情報を伝える際、日本の方にも“自分ごと”としてとらえてもらうことに難しさを感じることはありますか?
ダニエルさん 最近は難しいと感じることが多いですね。私は客観的に情報を発信するように心がけていて、決して「アメリカ上げ/日本下げ」しているわけではないんだけど、誤解して受け取られることも多い。アメリカにももちろん差別や政治などの問題はいろいろあるから、それも含めて「“絶望の国”だ」とも言っているんだけど、極端な意見で感情を煽るような投稿をするアカウントが多いこともあり、そういうところは伝わらなかったりもするんだよね。
能條さん すごくわかります。『NYNJ』も、デンマークの政治について発信しているからといって、日本をデンマークのようにしようと思っているわけではないから、伝え方に迷うこともある。
——本意ではない受け取られ方を避けるために意識してることはありますか?
ダニエルさん 自分は一次情報や事実に基づいたコンテクストに即して書くようにすること。あとは、間違って翻訳された情報について、どこがどう間違っているのか、論理的に訂正することも意識しているかな。
能條さん 客観的なデータを使って伝えることも大事だよね。例えば今、国会議員立候補の年齢を18歳に引き下げようという運動をやってるんだけど、この場合も漠然とメッセージを伝えるのではなく、データを使って「OECD加盟国では、3分の2の国で被選挙年齢は18歳からですよ」と訴えるほうが効果的で伝わりやすいとか。
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画像デザイン/前原悠花 構成・取材・文/浦本真梨子 企画/木村美紀・種谷美波(yoi)