大人気のマンガ連載『17.3 about a sex 〜私たちのリアル〜』の完結を記念し、10/12より3週連続でスペシャル企画を公開中! 原作のABEMAドラマ『17.3 about a sex』で主演をつとめた永瀬莉子さんと性教育プロデューサーの中島梨乃さんの対談、原作ドラマの脚本家 山田由梨さんのインタビューに続き、スペシャル企画のトリとして、作画の泉条ちえり先生のインタビューと描き下ろしミニコミックをお届けします。
マンガの連載中に先生が考えていたことや本作品を通して得た新たな気づき、最終回を迎えた今のお気持ちなどについてお話を伺いました。
マンガを通して、もっと多くの人に知ってもらいたい物語だと思いました
——まずは連載の完結、おめでとうございます! 素敵なマンガ作品に仕上げていただき、本当にありがとうございました。本作はABEMAオリジナルドラマ『17.3 about a sex』が原作となっていますが、この作品をコミカライズしてほしいという依頼があったときに、どう思われましたか?
最初にタイトルだけ聞いたときには、「セックスの話をするのかな? もし、面白半分に取り上げるような内容だったら嫌だな」と思ったのが正直な気持ちでした。なので、シナリオや原作のドラマも3話まで観て、それからお返事させていただきました。
——ドラマを初めて観たときの印象はどうでしたか?
セックスについて面白半分に取り上げているんじゃないか、という私の心配とはまったく違い、性の問題について女子高生たちがまっすぐ向き合っていく姿が描かれていて、この物語はもっと広められなければいけない、マンガにしなければいけない! と強く思いました。
——ドラマでは描かれないモノローグが入るのが、コミカライズ版の面白さのひとつですよね。原作ドラマでは描かれない登場人物の心情などを、どう膨らませて想像しましたか?
キャラクターたちの生い立ちだったり、普段どんなことを考えて過ごしているのか、どうしてこのような言葉が出てくるのかなど、ドラマでは描かれない部分も補足的に考えて、そのキャラクターにできるだけ寄り添うというか、なりきるようなイメージでモノローグを考えていきました。
あとは、身近な人に置き換えてみたりとか。メインキャラの3人は全然違う個性の持ち主だと思うのですが、ちょうど私の身のまわりの友人に、それぞれのキャラに近い人がいたんですよね。それは、もともとキャラクターの人物像がしっかりと、説得力を持って作られているからなんじゃないかと思います。彼女たちの話も参考にしたりしつつ、キャラクターの性格や心情をイメージしていきました。
——泉条先生ご自身は、キャラクターのなかでは誰にいちばん近いと思いますか?
私は咲良ですね。自分で言うのも…ですが、根がまじめなんですよ(笑)。冒険心で「やってみよう!」みたいなのはできないタイプです。 大勢から“それてしまう”のを怖がったり、「怒られちゃうかも…」と思っちゃう(笑)。咲良の心情には共感できるし、想像しやすかったので、スムーズにネームが作れましたね。
第3話より、泉条先生が最も感情移入し、悲しくなったという咲良のモノローグ。
自分とは違う誰かの気持ちを想像することの難しさ
——自分と違うタイプのキャラクターの心情を想像するのは難しかったですか?
そうですね…特に紬が難しかったです。どう思っているのかが全然想像できなくて…。アセクシュアルについてネットで調べたり、ドラマを何度も観返して、自分も俳優さんと一緒に演じるような気持ちで観たりもしてみました。
紬が幼なじみの康太と映画に出かける6話からのエピソードで、紬が彼をまったく意識していない心情を想像するのが大変でしたね。康太が紬に気があるということに、さすがにちょっとは気づくんじゃない? って思ってしまって…。咲良も「デートじゃん!」という反応ですし、私もそう思ってしまう。恋愛に興味がある人だったら、相手が自分に好意があると気づくタイミングだと思うけれど、紬は「そんなことない」と言いきってしまう。その気持ちを想像するのが難しくて、どんな流れで描けば自然なのかすごく考えました。
第7話より、康太と待ち合わせをする紬。
映画に行く日、紬が康太を待っているシーンのモノローグも、最初にネームを描いたときは全然違うものだったんです。「もしかして、康太って私のこと好きなのかな…。でも私にとっては友達だし、絶対ないないない!」みたいな感じでした。その後、ネームを脚本の山田由梨さんにも見ていただいたら「そうじゃないんです。紬は本当に何も意識していないんです」と言われて、アセクシュアルの人の感じ方ってそうなのか…と。
——確かに、修正前のモノローグだと、“普段恋愛はしているけれど、恋愛対象ではない相手と出かけるときの気持ち”に近いですよね。紬の気持ちはそれとは違うのかもしれませんね。
そうなんです。意識すらもしていないという。
自分にとっての当たり前と、誰かにとっての当たり前は違うことを知りました
——紬の気持ちを想像するために、アセクシュアルについてネットで調べたりドラマを観返す以外にしたことはありますか?
紬に似ている友人に「こんなことがあったらどう思う?」と聞いてみたりしましたね。これまでは友人たちとセックスについて話すことはあまりなかったのですが、この作品をきっかけに、友人たちとも恋愛やセックスについてこれまで以上に深く話せるようになったのもいい変化でした。
——それはうれしいですね! 友人たちと話すなかで、新鮮だったことや気づいたことなどはありますか?
同じ出来事でも、人によってここまで感じ方が違うんだ! というのは驚きでした。例えば、7話の最後で紬が康太にキスされるんですが、このあとの展開の予想や感想が人によって全然違って…。「紬がもしアセクシュアルだったらかわいそう! こんなに強引にキスされるなんて…」「紬は康太にビンタしちゃうんじゃない?」という意見もあれば、「康太はこんなに頑張ってるんだから、結ばれてほしい! キスされたら絶対好きになっちゃうよ〜!」という意見の人もいたんです。
——友人たちの感想を聞いたり、自分の感覚とは違うキャラクターの気持ちを想像してみて、先生の実生活や今後のキャラクター作りに影響はありましたか?
私自身がこの作品を通して、知らなかったセクシュアリティや自分とは違う考え方についてたくさん勉強させてもらいました。今はまだ新しい作品には取り組んでいませんが、これから作る作品は、男女間だけではないいろんな恋愛の形や、またはそういった感情を持たないキャラクターが登場するようなものが作れたらなと思います。
当たり前が当たり前じゃないんだよ、ということ。誰かの当たり前と、あなたの当たり前は違うんだよ、ということを伝えられたらいいなと思います。
マンガだからこそリアルに表現できた、婦人科受診のシーン
——逆に、先生ご自身の経験に近いと思うエピソードはありますか?
13話で祐奈が婦人科を受診するシーンは、私の実体験が生きています。ドラマでは、診察台の上で実際にどういったポーズを取るのかなど、そこまで細かく描かれないのですが、マンガではできるだけ詳しく伝えたいと思って描きました。
婦人科に行ったことがない女子高生に読んでもらえるかもしれないので、できるだけ忠実に、嘘がないように描きたかったんです。ウィーンって動く椅子とか、動きながら倒されていくのとか、脚を開いたりとか…私が初めて婦人科を受診したときは本当に怖かったし、「これ、前情報欲しいよ!」と思ったので、こういう形になりますよ! というのをリアルに絵で伝えることで、これから受診する人の参考になればと思いました。
——そうだったんですね。おかげで、コミカライズした意義がとてもあるシーンになりましたね!
ドラマでは足元のポーズなどは映っていなかったので、マンガの祐奈には頑張ってもらいました!
キャラクターのことが大好きに! みんなの“その後”を妄想してます
——最終回を描き上げた今のお気持ちを教えてください。
最初にドラマ1話分=マンガ5話分を描き終えたときは、「本当にこれを自分の力量で最後まで描ききれるのか?」と思いました。それまで連載もしたことがなかったので、不安でしたね。でも、いざ終わってみると、まだ何話でも描けるような気持ちです。あっという間でした。
「特に毎回の扉絵を描くのが楽しみでした!」と泉条先生。
——担当編集さんによると、どんどん執筆のスピードが上がっていったそうですね。
はい。キャラクターをいろいろと動かしたくなっていって。3人のことが大好きになりました。本編は終わってしまいましたが、その後の3人のことを二次創作的に想像したりしています…♡
泉条先生の愛が詰まった『17.3 about a sex ~私たちのリアル〜』は、現在yoiで全話無料公開中です。
未読の方はもちろん、もう読んだ! という方も、この機会にぜひ読み返して、まわりの大切な人にシェアしていただけたらうれしいです。
マンガ/泉条ちえり 撮影/山崎ユミ 企画・編集・文/木村美紀(yoi)