子どもの頃に経験した人もきっと多くいるはずの、ぬいぐるみとのおしゃべり。当時、どんなことを語りかけていたか覚えていますか?

映画「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」の舞台は、通称「ぬいサー」と呼ばれる大学のぬいぐるみサークル。壁一面にぬいぐるみが飾られた部室を訪れる部員には、ある共通した目的があった――。

そんな「ぬいサー」に入部する新入生の麦戸美海子は、あるでき事を目にしたことで生きることがつらくなり、引きこもりに。繊細で共感力が高いがゆえに、生きづらさを感じてしまう主人公を演じた駒井蓮さんは、麦戸の心情をどのように理解して演じたのでしょうか。映画の大きなテーマとなっている“人とのコミュニケーション”において気をつけていることや、本作への出演を経て学んだ「本当のやさしさ」の定義についても語ってくれました。

駒井連さん

俳優

駒井蓮

2000年12月2日生まれ、青森県出身。中学生のときにスカウトされて芸能活動をスタートし、2016年3月、映画『セーラー服と機関銃-卒業-』でデビュー。2018年に映画『名前』で初主演を飾り、以降、映画『町田くんの世界』(2019年)やドラマ『束の間の一花』(2022年)などの作品に出演。2021年に主演した映画『いとみち』で、第34回 日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞 新人賞、第35回 高崎映画祭 最優秀新進俳優賞を受賞。

相談するのとはちょっと違う、「負の感情を言葉で表す」ということ

「ぬいサー」は、ぬいぐるみを作るサークルだと思って部室を訪れる新入生たち。しかし実際には、ぬいぐるみに話しかけることで、安らぎを得るためのサークルでした。彼らがぬいぐるみに話しかける理由は、自らのしんどさを誰かに話すことで、その相手がしんどくなってしまうと考えるから。だから、人格のないぬいぐるみに話しかけるのです。一見異様にも見える「ぬいサー」の活動を心の拠り所にするメンバーたちには、どのような思いがあるのでしょうか?

――映画『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』の脚本を初めて読んだときの感想を教えてください。

「ぬいサー」に所属する部員が、自分の中の“しんどさ”を言葉にして表現する様子に圧倒されました。悩みを相談することはあっても、心の奥底にある負の感情をありのままに発言する機会って、実はなかなか無い気がして。よい、悪い、などの感情はなく、ただ素直に驚きました。

――「悩みを相談する」のと「負の感情を言葉で表す」ことの違いについて、詳しく聞かせてください。

私が友達や家族に対してグチや悩みを言うときって、相手とわかり合いたい気持ちが根底にあるんです。共感してもらうことで、自分の苦しみをやわらげているんですよね。

でも「ぬいサー」の子たちは、言葉を持たないぬいぐるみに対して語りかけていて、答えを求めていないんです。もしかしたら、ぬいぐるみに人格を与えて、彼らの声が聞こえているのかもしれません。だとしても、結局それは自分自身から出た言葉ですよね。誰か別の人に共感してもらいたくて「悩みを相談する」ことと、ぬいぐるみに話すことを通して「負の感情を言葉で表す」こと。自分の思いを話すという点では同じような行為ですが、まったく違うなと感じました。

――ぬいぐるみサークルの部員が、人ではなくぬいぐるみにしんどさを打ち明けるのは、相手を傷つけないため。駒井さんは、相手を傷つけてしまう恐れから相談を躊躇した経験はありますか?

すごく意識しているわけではないけれど、あると思います。ちょっと重めの相談をするときは言葉を選びますし、内容によっては相談する相手も選んでいますね。何も気にせずに打ち明けられる相手は、双子の妹くらいかも。友達を信頼していないわけではなくて、大切だからこそ傷つけたくない、という思いは私にもありますね。

駒井連さん

ダメだったのは、天気のせい! そんな“言葉”をくれる友達に助けられています

相手を思いやるやさしさが人一倍強いからこそ、誰かに悩みを打ち明けることが苦手なサークルメンバーたち。悩みを言葉にして口に出すだけで心が軽くなることもあるけれど、ぬいぐるみが“言葉”を返してくれることはありません。駒井さん自身が悩み、返ってくる“言葉”を求めたときには、どうしているのでしょうか?

――駒井さんが悩んだとき、「この人なら相談したい」と感じる相手は、どんな相手ですか?

私がよく相談している友達は、悩んでいる理由を私から引き離すのが上手な人。私は、“どうしてあのときあんなことしちゃったんだろう…”と、自分自身の過去の行動に対する後悔が多く、“自分が悪い”“自分が失敗した”という自己嫌悪を引きずってしまいがちなんです。

それを相談すると、“天気のせいだよ!”とか、“占いの運勢が悪いからじゃない?”という感じで、私以外の何かに責任を転嫁してくれるんです。それを聞くと私も心を落ち着かせることができて、“自分が悪い”と思い込みすぎずに、冷静に自分と向き合えるようになるので、とても感謝しています。

――では逆に、駒井さんが人の相談に乗る際に気をつけていることや、心がけていることはありますか?

人の相談に乗るのは嫌いじゃないのですが、必ずあとで、“もうちょっとうまく伝えられたんじゃないか”って後悔するんですよね…(苦笑)。相談を受けたとき、まずは相手に共感してあげられる人と、意見をしてしまう人の2パターンの人がいると思うんですけど、私は後者で。相手との関係が近ければ近いほどアドバイスしたくなっちゃうんです。でも自分を含めて、ただ話を聞いて共感してほしいこともある。そう気づいてからは、意見する前にまずは共感を伝える“言葉”をかけるようにしよう! と心がけています。

駒井連さん

SNSにあふれる“痛み”とは、物理的に距離を取るのもひとつの手

やさしすぎるがゆえに、あるでき事を目にしたいうショックから引きこもりになってしまう麦戸。たとえ自分が被害を受けた当事者でなくても、世の中にあふれる悲しみや怒りを知ることで心に傷を負ってしまう…。SNSやネットニュースが身近になった現代では、麦戸と同じように、他人のつらい経験を自分ごとのようにとらえてしまうという悩みが増えています。仕事がら、SNSなどを使う必要もある駒井さんは、世にあふれる“痛み”と、どのように距離を取っているのでしょうか?

――現代はSNSやネットニュースなどで、自分以外の体験がどんどん情報として入ってきて、自分ごととしてつらさを感じやすい時代になっていますよね。そんな現代を生きるなかで、他人の経験を自分ごととしてとらえて悩んでしまう、麦戸のようなつらさを経験したことはありますか?

まさにSNSの炎上は、あまり見ないようにしています。心無い言葉が飛び交っていたり、揚げ足を取り合ったりしていることがあるので、気が滅入ってしまうんです。だからこそ麦戸役を演じているあいだは、彼女の気持ちやしんどさを理解するために、あえて積極的にチェックしていました。実際かなりしんどくて、これをネット上のことだけではなく、日常のありとあらゆる場面で感じてしまう麦戸は、心底苦しいだろうなと思いました。

引きこもる麦戸

繊細でやさしすぎるがゆえに、自分が当事者でない問題についても深く傷ついてしまう麦戸。

――SNSと適度に距離を保つ秘訣があれば、教えてください。

私もふと気づいたらSNSを開いていることが多々あって、完全に引き離すのは難しいですよね。ただし撮影現場ではスマホをまったく見ないので、そのあいだは、自然とデジタルデトックスできています。スマホを見ない理由は、作品の世界から自分の世界に引き戻されてしまうからなのですが、そのおかげでうまく距離を取れています。

――確かに、駒井さんのように、この時間はスマホを見ないと決めたり、スマホを置いて出かけるなど物理的に距離を取るのもいいかもしれませんね。もし駒井さんが傷ついたり疲れを感じたときは、どのようにリフレッシュしていますか?

おいしいものを食べる! パワーフードは大好きなラーメンで、撮影で新しい街を訪れたときには、人気のお店を調べて食べに行くのが楽しみのひとつです。それと、運動ですね。去年、体力づくりのためにジム通いを始めたところ、体とともに心もほぐれる感覚が心地よくて。もっと本格的に取り組みたいと思っているところです。

駒井連さん

相手の成長につながる行動を取ることが、本当の“やさしさ”なのかも

それぞれに生きづらさを感じている「ぬいサー」の部員は、お互いを穿鑿・干渉しないのが暗黙のルール。ありのままを受け入れ合う一方で、手を差し伸べ合うこともありません。そんな彼らの人間模様を描きながら、“やさしさとは弱さなんじゃないか”“やさしさと無関心は似ている”など、“やさしさ” のさまざまな解釈が表現されています。映画のなかでも登場人物の数だけ描かれる“やさしさ”の正解を、駒井さんはどうとらえたのでしょうか?

――タイトルにも『やさしい』という言葉が入っているように、映画を通して“やさしさ”とはなんなのかということが大きなテーマになっていますね。麦戸役を演じたことで、駒井さんが考える“やさしさ”の解釈・概念は変わりましたか?

かなり変わりましたね。撮影が始まった当初、“やさしさ”とは、相手の持っている繊細さをそのまま受け入れることだと思っていました。もちろんそれも、“やさしさ”として間違ってはいません。でも人とのコミュニケーションによって変化する麦戸を演じて、相手の変化や成長につながる行動を取れることが本当の“やさしさ”なのかもれしれない、と感じました。傷ついている人に意見したり、その人が抱える問題を話し合ったりするのは、とても勇気のいることですが、ただ見守っているだけでは問題は解決されません。いつか、自分もそういった行動を取れる人間になりたいと強く感じました。

ぬいサーのメンバーたち

「ぬいサー」のメンバーは、同じ空間でサークル活動していても干渉し合うことはない。

――人とかかわり、誰かに変化を与える勇気を持つことも、“やさしさ”のひとつですよね。駒井さんが人と接するうえで、心がけていることや気をつけていることがあれば教えてください。

自分から支えに行き、そして、自分から支えられに行くこと。実は昔から極度の人見知りで、新しい人間関係を育むのが苦手なんです。学校でもクラス替えのたびにつらい思いをして、一人ぼっちで過ごすことも多かった。その結果、一人でいるほうが楽になってしまいました。ずっと、“家族や友達、恋人がいたとしても結局、最後は一人だし!”と割りきっていましたが、数年前に、“本当にこのままでいいのかな?”と疑問を抱いて。努力もせずに、一人で寂しく人生を終わらせたくないと感じ、積極的に自分をさらけ出すようになりました。

――疑問を抱いたきっかけはあったのでしょうか。

2年前、今のマネージャーさんとの出会いです。私とは真逆で、“いろんな人とつながっていこう!”というタイプの彼女と多くの時間を共有するうちに、人間関係に対する意識が変化しました。積極的に人と出会い、それぞれの考えから学ぶことで、少しずつですが成長を実感できています。

次なる挑戦は、コメディ作品で!

――2021年に公開された映画『いとみち』で、第34回 日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞 新人賞、第35回 高崎映画祭 最優秀新進俳優賞を受賞。今後ますますの活躍を期待される駒井さんですが、新たに挑戦したいことはありますか?

もともとシリアスな作品が好きで、本作のように何かしらの問題を描いた作品に出演してきたのですが、今度はコメディ作品に出演してみたいです。コメディにはシリアスな作品とは違った難しさがあるので、挑戦しがいがあるなと。ドラマ『ブラッシュアップライフ』のような、テンポのよい会話劇に憧れます!

駒井連さん

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駒井蓮「本当の“やさしさ”とは、相手の成長につながる行動を取ること」【映画『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』スペシャルインタビュー】_8

映画『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』
「おもろい以外いらんねん」「きみだからさびしい」をはじめ、繊細な感性で話題作を生み出しつづける小説家・大前粟生氏による同名の短編小説を映像化。京都のとある大学の「ぬいぐるみサークル」を舞台に、“男らしさ”“女らしさ”のノリが苦手な大学生・七森(細田佳央太)、七森と心を通わす麦戸(駒井蓮)、そして彼らを取り巻く人びとを描く。

4月14日(金)より 新宿武蔵野館、渋谷 ホワイト シネクイントほかロードショー
製作・配給:イハフィルムズ
監督:金子由里奈
脚本:金子鈴幸、金子由里奈
原作:大前粟生
出演:細田佳央太、駒井蓮、新谷ゆづみ、ほか
公式HP:https://nuishabe-movie.com/

©︎映画『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』

取材・文/中西彩乃 撮影/浜村菜月(LOVABLE) ヘアメイク/里吉かなで スタイリスト/尹 美希 衣装協力/CHARLES & KEITH、clear、Three Four Time、MÊME ROAD 企画・編集/木村美紀(yoi)