自然との調和によってありのままの姿に戻っていく。ありのままの姿が美しい。そんな瞬間を表現したかった——。

自身初の自費出版写真集『as is』のコンセプトをこう綴ったモデルの矢野未希子さん。ロケーション選びやスタッフへの依頼、写真のセレクトなどすべてを自ら手がけた渾身の一冊が、1000冊限定で販売されました。6月20日〜25日に開催した写真展は連日大盛況で、特に初日と最終日は、オープン前から外に行列ができるほど。写真展開場で販売し、写真展終了後にオンラインで販売、オンライン販売初日に即完となりました。

写真集の制作にいたったきっかけは、モデルとして求められる姿を表現するなかで抱いた「自分が好きなものをゼロから表現したら、どんな写真が完成するのだろう?」という興味。30代になって感じた心と体の限界や、なりたい自分を追い求める日々、矢野さんが感じる「ありのまま」の定義などを、丁寧に語ってくれました。

矢野未希子 写真集 as is カメラ目線 

矢野未希子

モデル

矢野未希子

1986年12月4日生まれ、大阪府出身。高校生のときに『teen girl』でモデルデビュー。以降、『ニコラ』や『non-no』、『MORE』の専属モデル、『Oggi』、『VERY』の表紙モデルとして、数多くの表紙を飾ってきた。プライベートでは2012年に結婚し、生活の一部をSNSやYouTubeで公開している。

30代になり、心と体が限界に。「自分の人生を生きることに向き合いたい」と思った。

ーー10代からモデルとして第一線でご活躍されてきた矢野さん。ご職業がら、ご自身の体と長年向き合ってこられたのではないかと想像します。これまでと現在で、体に対する意識や行動は変化しましたか? 

すごく変わりましたね。20代前半は元気が有り余っていて、仕事のあとにそのまま友達とお酒を飲みに行くこともしょっちゅうでした。1度目の変化は20代後半、『Oggi』の専属モデルとして通年でカバーを任せていただくことになったとき。すごくプレッシャーを感じて、このままじゃダメだ! と意識をガラリと変えたんです。

当たり前ですが、撮影の前日はお酒を飲まないようにしたり、食事に気をつけたり。ストイックに体づくりにも取り組み、週に4〜5日はジムに通っていました。当時は撮影のためだけに生きていたといっても過言ではないかも。せっかく大きな仕事を託していただいたので、結果を残したい、期待にこたえたかったんです。

そんな生活を続けながら30代に入ったら、ある日心と体の限界が訪れたんです。そこで初めて、もっと自分の人生を生きることを大事にしたいな、と感じて生活や仕事との向き合い方を改めるようになりました。それが2度目の変化ですね。

矢野未希子 写真集 as is 寝転がり

ーー心と体の限界は、どのように感じ取ったのでしょうか。

当時は忙しさがピークで、毎朝4〜5時に起きて撮影に行っていました。真冬に薄着で撮影をしなければいけない日が続いていたときに、通っていた漢方サロンの先生から「どうしてそんなに体に過酷なことばかりしているの?」と聞かれて。「もっと体を大切にしてよ」とまっすぐ言われたときに、はっと我に返り、思わず涙が出そうになりました。

私は結婚して11年になりますが、夫の家族が大好き。91歳のおばあちゃんは今も元気に畑仕事をしていて、畑で採れたお野菜で自炊しながら暮らしています。そんなおばあちゃんの暮らしを見ていたら、とっても幸せそうで。昔はなんとも思わなかったのに、その頃から、私もいつか彼女のように暮らしたいと強く感じるようになったんです。

でも今のままでは、彼女のような大人になれそうにない。刻々と年を重ねていくなかで、意識的に何かを変えないといけないと気づき、無理することをやめようと決めました。なりたい自分に近づくために失うものがあってもいい、とも。

矢野未希子 写真集 as is 全身 座り

ーーそれまで全力を投じて積み上げてきたものを失う可能性に対して、悔しさや不安はありましたか?

うーん…なかったですね。それほど限界だったんだと思います。私は昔から健康なイメージを抱かれることが多くて、心身ともにボロボロなのにまわりからは元気だと思われるギャップすらも、しんどく感じるようになっていた。これ以上頑張るのはもう無理だし、今だったらラクに手放せそうだな、と思いました。それが3年前くらいかな。

それから夫やマネージャーさん、友達に相談しながら、長い時間をかけて、少しずつ生活を変えてきました。その都度、自分の気持ちに「これでいいよね?」と問いかけながら。あのときに決断できたことを、改めて本当によかったなと感じています。同じペースで突き進んでいたら、心がパンと弾けていたかもしれないなって。

スキンケアをしながら、日々頑張る自分の体に「ありがとう」を伝える

矢野未希子 写真集 as is 上半身 

ーー矢野さんのYouTubeでは、ヘルシーでおいしそうな食事シーンがとても印象的です。普段の食生活で意識していることを教えてください。

私はそれほど料理が得意ではなくて(笑)、魚を焼いてお味噌汁を作る程度。普段の食事は粗食というかきわめてシンプルですが、自分で作ったお味噌を使ったりはしていますね。先日は、建設中の新しい自宅の庭で梅の実を収穫して、初めて梅干しと梅シロップを仕込みました。

ーーお仕事で終日外出することもあるかと思いますが、その際に気をつけていることはありますか?

バタバタしていても、食事は抜かないようにしています。やっぱり何かしら食べないと体によくないと聞いて。今日も、自分で作ったおにぎりを持ってきました。あとは、その時々の体調や気候に合った漢方茶を空き時間に飲んだり。無理なく取り入れられるもので、バランスを整えるようにしています。

ーー現在、特に効果を感じる・自分に合っていると思うスキンケアや美容法などがあれば、教えてください。

職業がら、新商品に触れる機会が多く、アイテムはこれと決めずにいろんなものを使うのが好きです。でもちょうど最近、スキンケアに変化がありました! 先日沖縄を訪れた際に、90歳を超えて元気なおばあちゃんが、「ありがとうね、頑張ってくれて」と自ら体に語りかけていると聞いたんです。水にポジティブな言葉をかけつづけると、結晶の形が美しくなるという実験結果を思い出して、同じことなのかな、と。

改めて考えたら、体って毎日すごく頑張ってくれているんですよね。自分の体に感謝するという意識も行為も素敵だなと感じて、日々のスキンケア時に取り入れるように。「ありがとう」と体に語りかけながら、スキンケアする際は優しく肌に触れています。効果はすぐには目に見えないけれど、意識そのものが大切だと思うし、単純に気持ちも上がります!

自然に触れてリラックスしているときの、“ありのまま”の表情が最も美しい

矢野未希子 写真集 as is 傘 笑顔

ーー写真集のコンセプトとして、「自然との調和によってありのままの姿に戻っていく。ありのままの姿が美しい。そんな瞬間を表現したかった」と語っていらっしゃいました。矢野さんにとって「ありのまま」でいることとは、どのような心と体の状態だと思いますか?

気が張っていない状態や、リラックスして呼吸が深くなる瞬間、ワクワクして楽しいと心から思えるときなどかな。仕事が忙しくて頑張りすぎちゃったときって、呼吸が浅くなっている感覚がありませんか? そんな合間にのんびり畑仕事をしたりすると、むちゃくちゃ疲れていたんだなぁ、って気づくんです。

ふと気持ちが解放された瞬間にしていることって、つまり自分を癒してくれたり、心地よくしてくれたりすること。それらを自分にとって大切なものとして、きちんと把握するようにしています。そうやって大切なものが増えていくと、心や体の負担をリリースする方法も増えて、自然とリラックスしている自分でいられるようになるので。

ーー「ありのままの姿が美しい」と自覚したのはいつですか? また、どんなきっかけがあったのでしょう。

生きていると、気が張る瞬間が多々ありますよね。頑張ったり踏ん張ったりしなきゃいけないことが重なってしまったとき、私は海や山などで息抜きをするんです。自然あふれる場所に行くだけで体がふわ〜っと軽くなり、リラックスできる。そんな瞬間がいちばん心地いいし、そうなっている人のありのままの姿を「すごく可愛い!」と感じるんです。

お友達と海に行って、その子が本当にやわらかい笑顔を浮かべたときに、心の底から美しいと感じたことがきっかけかな。頑張っている人も大好きだけど、頑張った後に緊張感や肩の力がリリースされる瞬間が実はいちばん輝いていて、すごくきれいだなって。

ーー「ありのまま」でいることを意識することで、日常の生活やお仕事、人間関係などに変化はありましたか?

たくさんありましたが、一番大きなことは住む場所を変えることです。自分の心地いい瞬間をリストアップしていたら自分の好きなことがどんどんわかり、「私はこういう場所に住みたいんだ」と気づけたんです。現在、東京近郊の自然あふれる場所に新居を建設中。来年には引っ越せるといいな、という気持ちで楽しみにしています。

矢野未希子 写真集 as is 足元

ーー矢野さんにとっての「ありのまま」を表現するために、写真集の制作でこだわったことを教えてください。

私は15歳からモデルとして、ファッション誌それぞれが掲げる女性像を表現してきました。もちろんそれも大好きなんですが、ゼロから自分が好きなものを表現したらどういうものが完成するんだろう? と興味を抱き、この写真集を制作するにいたりました。自分の好きなことを好きなように詰め込むために、自費出版を選んだのがひとつめのこだわりです。

もうひとつはロケーション選びですね。自然には人を癒す、強いエネルギーがある。それと人肌が調和する瞬間が自分にとって最も美しいと感じるので、自然が豊かなロケーションを厳選しました。フォトグラファーの東さんと相談しながら、ロケーション選びから、ヘア&メイクさん、スタイリストさんへの仕事依頼、ロケバスの発注までをすべて自分たちで行い、何もかもが新しい経験でした。実は、今回ご一緒したヘア&メイクさんやスタイリストさんたちの半数は初めてご一緒する方々。新しい自分を表現したかったので、あえて普段の自分を知らない方にお願いしました。

人と比べてしまうのは、悪いことではないから。欲しいものがあるならば、それを持っている人に聞けばいい

矢野未希子 写真集 as is 笑顔 上半身

ーーyoiでお悩みを募集すると、人と自分や、理想の自分と現実の自分を比べて落ち込んだり、劣等感を抱いてしまうという声を多く聞きます。矢野さんにも、ありのままの自分を好きになれなかったり、人と比べて落ち込んでしまうということはありますか?

人と比べることは、しょっちゅうありますよ! でも落ち込むのではなく、「いいな、あんなふうになりたいな」というポジティブな感情を抱きます。そう感じたら必ず「なぜ私はあの人を羨ましいと思うんだろう?」と自分自身に問いかけて、ここでも自分の好き探しをするんです。新しい発見につながるので、いい意味で人と比べる視点はつねに持つようにしています。

例えば夫のおばあちゃんに対する憧れを紐解いていったら、「いつも家族に囲まれていて幸せそう」「畑で採れた新鮮な野菜を食べられていいな」という自分の理想が見つかった。そこから自分がそうなるにはどうしたらいいんだろう? と考えて実現させていくプロセスが、個人的にめちゃめちゃ楽しいんです。

今はちょうど、最近出会って「いいな」と感じた人におすすめしてもらった国を訪れたいと考えているところ。自分が好きな人、憧れる人が好きな場所に行くことで、自分にないものを吸収できるんじゃないかな、と感じたことが理由です。そういう作業を日々、趣味のように行なっています(笑)。

ーー素敵な考え方ですね…! 人と比べることを前向きにとらえられるような、考え方のヒントがあれば教えてください。

人と比べて「私には、あの人にあるものがない」と思うことは私にもありますし、それはごく普通の感情だと思います。でも、そもそも人はそれぞれ持っているものが違うから、自分にないものがあって当たり前だし、悪いことではないとも思う。

きっと、それが自分の欲しいものだからこそ、ネガティブな感情が芽生えてしまうんですよね。ちなみに私のモットーは、「欲しいものがあるならば、それを持っている人に聞けばいい」。そういう人と出会ったら、容赦無く質問をしています(笑)。今の状態になるために何をしたのか、なぜそれをしようと思ったのか…それらの回答を参考に、なりたい自分になるためには何をするべきかを、日常でずっと考えています。この瞬間は今しかないし、時間は貴重だから。人生を目一杯、楽しみたい気持ちが人一倍強いんだと思います。

取材・文/中西彩乃 撮影/井手野下貴弘 企画・編集/種谷美波(yoi)