2023年7月26日、およそ2000人を会場に無料招待し、ファンの前で自身のセクシュアリティを公表した與真司郎さん。これまでを振り返って感じる自身の変化や、アーティストとしての思い、心と体のウェルネスなど、與さんの“今”についてじっくり伺いました。
距離を置くのは勇気がいるけど、世界は意外と広いから
――「自分のことを好きになれなかった」とお話しされている過去のインタビューを拝見しました。拠点をロサンゼルス(以下、LA)に移されてからの気持ちの変化について、あらためて伺えますか。
與さん だいぶ自分を許せるようになったというか、自己肯定感はすごく上がった気がします。「自分に自信を持っていいんだ」という感覚は、日本にいた頃は持てなかったので。これは多くのLGBTQ+の人が経験することだと耳にするのですが、少数派な分、どうしても「自分は認められていない存在だ」と感じやすいので、自分自身を受け入れるまでにも結構時間がかかるんですよね。そして、そういうときこそ、まわりの人たちの存在が重要だと思います。
――與さんは、たびたび周囲の人たちへの感謝を口にされていますよね。
與さん 僕は、カミングアウトを決めるまでのプロセスも含めて、本当にまわりの人たちに支えてもらっているので。特にLAで出会ったアメリカ人の友達、もちろん日本人の友達もそうですが、彼らが本当の自分を認めてくれたことがすごく大きかったと思います。
――――まさにyoiは、「わたし(I)」と「あなた(You)」が「わたしたち(Our)」となって認め合う社会を作ることがコンセプトで、媒体名の由来でもあります。セクシュアリティに限らず、相手をジャッジしたり揶揄したりしない関係性は、お互いのウェルビーイングにもつながると思うのですが、與さんが人間関係を築いていくうえで意識していることはありますか?
與さん ネガティブオーラを放っている人は避けますね。社会とかまわりの文句ばかり言っている人たちとは距離を置きました。距離を置くって勇気がいることだし、僕も20代の頃は「自分の場所はそこしかない」と思い込んでいたから怖くてできませんでした。でも、世界って意外と広いから、勇気を出してそこから抜け出してみると、自分と感覚が近い人たちに出会えたりするんですよね。
それから、日常的にメールや電話で連絡を取り合う人たちは特に大事にしようと思っています。自分が落ち込んだときにまわりが離れていくのか、助けてくれるのかってすごく大きいじゃないですか。でもそれって相手が困っていたら助けるとか、メッセージを送るとか、普段から関係性を築いていくことが大切だと思うんですよね。やっぱり“類は友を呼ぶ”ので。僕の周りは明るい人がめっちゃ多いし、すごく心地いい関係を築けていると感じています。
「これは仕方がないことだ」と思って生きてきた
――異性愛が前提とされがちな日本で活動する中で、本来の自分とは違うイメージや役割を求められることもあったのではないかと思います。そんなとき、ご自身の心とどうやって折り合いをつけてきたのでしょうか。
與さん 自分のセクシュアリティを隠すことが普通だったというか、異性愛者のように生きていくことが当たり前になっちゃっていたから、インタビューで「どういう女性が好きですか?」とか聞かれても、落ち込む感じはまったくなかったんですよね。
――それは本当に平気だったというよりも、落ち込まないように心のスイッチをオフにするような感覚ですか?
與さん そうですね、脳が勝手に答えを用意している感じ。「これは仕方がないことだ」と思って生きてきたので。
――ご自身のセクシュアリティについてお話しされた2023年7月のファンミーティングでは、「自分らしく表現しながらやっていきたい」という言葉もありました。アーティストとしての表現や意識は、どんなふうに変わりましたか。
與さん 今までよりもっと自分自身を作品に投影できるようになっているかもしれません。歌詞をつくるときも「こういうことを歌ってみたい」「ちょっと強い言葉だけど、これは入れたい」って、ちゃんと自己表現するように意識しています。自分のまんまで、何も隠さずに言いたいことを言えるので、今はプロデューサーたちと一緒につくっていくプロセスがすごく楽しいです。
歌い方も自信を持って歌えるようになったというか、「もっとこうやって歌ってみよう」とか「こんなふうに表現してみよう」とか、「あ、こういう声も出せるんだ俺」って、チャレンジしながら幅が広がっている感じです。
最期のときに心の底から泣いてもらえる人間になりたい
――カミングアウトまでの長い葛藤も含めて、さまざまな経験を経た今、「與真司郎」という個人として目指したい世界はありますか。
與さん 僕は、自分が死んだときに、みんなが心の底から泣いてくれるような人間になりたいと思っています。それぐらいの関係性をみんなと築いて、優しく、ハッピーに生きていきたい。ただ、カミングアウトしてから2〜3カ月は、あんまりメンタルの状態がよくなくて、「本当に伝えたいこと」がわからなくなった時期でもありました。
今までは、ライブやアルバムの発売に追われながら仕事をしていたけれど、今はプライベートも仕事もちょうどいいバランスでやらせてもらっているので本当にありがたいです。
心のバランスが取れるぐらいプライベートな時間を持てる活動ペースでもファンの方が応援してくれる環境があるのは、ファンの方はもちろん、スタッフさんや友達、家族など、まわりの人たちのおかげ。だから仕事のときは100%頑張ろうって思えるし、プライベートな時間に「あ、これやりたい!」ってクリエイティブのスイッチが入ることもありますね。
写真/松岡一哲 スタイリング/SUGI(FINEST) アシスタントスタイリスト/Shiori Nagayama(FINEST)、 Sayaka Suzuki(FINEST) ヘアメイク/Maki Sato 取材・文/国分美由紀 構成/渋谷香菜子