20代・30代の政治家を増やし、支えるために活動するFIFTYS PROJECT。2023年の統一地方選挙が初めてのチャレンジの場となりました。1期目の活動を振り返りながら、代表を務める能條桃子さんが感じていること、そして目指す未来とは。

能條桃子

FIFTYS PROJECT代表

能條桃子

2019年に若者の投票率が80%を超えるデンマークに留学し、若い世代の政治参加を促進する「NO YOUTH NO JAPAN」を設立。Instagramで選挙や政治、社会の発信活動をはじめ、若者が声を届け、その声が響く社会を目指して、アドボカシー活動、自治体・企業・シンクタンクとの協働などを展開。活動を続ける中で同世代の政治家を増やす必要性を感じて「FIFTYS PROJECT」を立ち上げる。『TIME』の「次世代の100人 2022」選出。「アシタノカレッジ」(TBSラジオ)、「堀潤モーニングFLAG」(TOKYO MX)出演中。

選挙や政治に関心を持つことを当たり前にしていきたい

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──FIFTYS PROJECT 第1期の取り組みとなる2023年の統一地方選挙で29人の候補者を支援し、24人が当選して議員となりました(2023年末までの選挙では34人の候補者を支援し、27人が当選)。また、選挙結果全体を見ても20代・30代の地方議員の女性比率は2015年の15%から24%にアップしています。

能條さん 特に年代別で見ると、今まで女性議員比率が20%を超えていたのは50代だけでしたが、60代以下の全世代で初の2割超えが実現しました。これは、各方面から「女性議員が必要」という声やアクションがあったことの成果でもあるので、その波を引き続き大きくしていきたいと思っています。

──初めての取り組みを振り返って、どんなふうに受け止めていらっしゃいますか。

能條さん FIFTYS PROJECTとして初めて挑戦した2023年の統一地方選挙は、自分たちが思っていた以上にメディアやSNSでも盛り上がり、「若い女性候補者を応援しよう」というアクションや票につながりました。ただ、4年ごとに行われる統一地方選挙で実施される選挙の数って、実は4年間に実施される選挙の3割ぐらい。残る7割の選挙は、統一地方選挙以外の3年11カ月の間に行われているんですよね。

だからこそ、今回の盛り上がりを一時的な広がりで終わらせないで、どうやって当たり前にしていくか。そこは本当に考えなければいけない部分だと感じています。立候補してくれたメンバーも今はそれぞれ状況が違うので、2期目も含めてこれからどう構築していけるかを考えているところです。

──その動きを加速させる意味も込めて、2023年10月からはジェンダー平等について基礎から学ぶ「FIFTYS PROJECTゼミ」もスタートしています。参加者の方の反応はいかがですか?

能條さん ゼミには320人を超える申し込みがありました。ジェンダー平等についてともに学ぶ場をつくることで、このコミュニティから「候補者になりたい」と考える人を増やしていけたら。

参加した人たちからは、「一人で聞くと重い話も、みんなで共有できるのが助かる」「興味関心が近い人たちと横につながれるのがいい」といった声をもらっています。オンラインとリアルの同時開催で、リアル会場では交流会もあるので、会って話すことで「一人じゃない」って感じられることも大きいのかなと感じます。

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自分と政治をつなげるカギのひとつは、推したい議員を見つけること

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──政治への関心や選挙の盛り上がりを当たり前にしたいというお話もありましたが、日常的に意識を向け続けるには、どこから始めたらいいものでしょうか。

能條さん おすすめは、推しの議員を見つけることですね。推したい人が見つかると、その人が議会でどんな発言したのか気になるし、SNSをフォローするだけでも情報は入ってくるので、まずはそこからスタートするのがいいのかなと。もちろんFIFTYS PROJECTでも色々情報発信をしているので、自分の関心にあわせてSNSのフォローだけでもいいから何かつながりをつくっておくと、情報も入りやすくなると思います。

──FIFTYS PROJECTのマンスリーサポーターになるというのも選択肢のひとつですね。一方で、政治の現状に絶望や諦めを感じる人や、日々に精一杯でなかなか自分ごとに感じられない人も多いのでは…とも思います。

能條さん 私がFIFTYS PROJECTを立ち上げてからずっと感じているのは、「意外と無力じゃない」っていうこと。もちろん、すべてがうまくいくわけじゃないけれど、できることはある。それは人の輪に入って誰かとつながることで感じられることでもあるので、どこかのコミュニティに参加したり、イベントへ行ってみたりするのもいいと思います。ゆるやかなコミュニティに自分の身を置くだけでも、意識が変わったり前向きになれたりするんじゃないかな。

興味がある人は、ぜひFIFTYS PROJECTに参加して議員になった人たちに会いに行ってもらえたらうれしいです。みんな「議員になりたいから」じゃなくて、「誰かがやらなきゃだけど、誰もできないっていうから自分がやるしかないか」と動いた人たち。だから、すごく自信があるわけでもないし、それぞれに等身大で活動しているから、自分たちと同じ感覚で生きている人たちだってことが伝わるはず。

抑圧され、声をあげても無視されていく現実は日本にもあるから

──本人に会うことはもちろん、街頭演説などを聞いてみるのもいいきっかけになりますよね。こうして動き出したからこそ感じるというか、今の能條さんが特に意識を向けているトピックについても伺えますか

能條さん 2023年10月から日々深刻な状況になっているパレスチナのことですね。これはただ遠い国の話ではなくて、パレスチナの人たちのように抑圧され、声をあげても無視されていく現実は日本にもあるし、そういう不条理なことが国際社会の国単位で起きているのは心が苦しいです。

ドイツやアメリカ、イギリスなど、多くの国がイスラエル寄りの態度や発言をしたり、イスラエル軍を支援したりするのを見ていて思うのは、欧米中心的な価値観の中でのダブルスタンダード。今、パレスチナで起きていることに対して、白人やキリスト教圏に対する人権や国際法の話と同じ基準での話がなかなか出てこないですよね。

──確かに、パレスチナで生きる人たちの「人権」についての話は、それほど多くない気がします。

能條さん FIFTYS PROJECTがなぜジェンダー平等を大事に考えているかというと、そこにはすべての人が平等であるという「人権」がベースにあるからです。私がこうしてFIFTYS PROJECTをやったり、パレスチナのことを考えたりするのも、自分たちに返ってくる問題だと思っているからなんですよね。

だって、自分の生まれた場所がたまたまガザじゃなかったっていうだけだから。私も今まさに学びながら考えているところなので、すべてを知っているわけではないけれど、日本政府はイスラエルへの経済制裁は行っていないし、イスラエル側に立った報道も多く見かけます。そして、日本政府が上げてきている軍事費の一部は、確実にこういった戦争に使われていくという流れがあると私は思います。

だからパレスチナのことがすごく気になっているし、今まで気候変動に関して先進国の責任を感じてきたけれど、同じように日本人であることの特権性と責任を感じるというか、考え続けています。フェミニズムやジェンダーのことに関心を持っている人にも一緒に動いてもらえたらうれしいなと思います。

10年後に「いい道つくってたね」って言えるのが理想

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──まさに前回のお話にあった「No one is free until we are all free.(みんなが自由になるまでは誰も自由になれない)」ですね。現状を知って考えることは、自分が立っている場所を再確認することにもつながるはずです。自分たちの活動を広げていった先に、どんな変化が生まれたらいいなと思いますか?

能條さん まずひとつは、選挙には「投票する」以外にも「立候補する」「候補者を応援する」という選択肢があることを知って、動いてくれる人が増えたらいいなと思います。政策的な話でいうと、日本は本当にジェンダー平等のための政策が進んでいなくて。選択的夫婦別姓も同性婚も、包括的性教育もそうですし、緊急避妊薬や中絶に配偶者同意が必要な話とか、いろんな場面で「女性は管理下に置くもの」「女性の自己決定はあまり重要ではない」という価値観が植え付けられているなと思うんですよね。

今までジェンダー平等につながる政策が通らなかった大きな理由は、反対する保守勢力が政治の世界では大きな影響力を持っているから。私たちは、候補者を送り出しながらその影響を薄めていくことで、新しい風と政策変化の波をつくっていこうと考えています。でも実は目の前のものと戦うっていうより、10年後からみたときに「いい道つくってたね」っていうのが理想ですね。

──私たちの意識や行動が変わって、政治家や政治に変化が生まれて、それが当たり前のこととして根づくには、数年単位での時間が必要ですよね。自分なりに行動するうえで、その時間感覚も忘れずにいたいなと思います。

能條さん そうですね。それから、これは変化とは違うかもしれないけれど、楽しいコミュニティであるといいなと思います。まだまだ男尊女卑的な価値観が残る政党も多いので、政治に参加しようと思っても、女性が安心して自分らしくいられる場ってそんなにないんですよね。だからFIFTYS PROJECTは、楽しく学んでみんなでつながって、元気になれる場でありたいなと思っています。

写真提供/能條桃子 画像デザイン/坪本瑞希 前原悠花 構成・取材・文/国分美由紀