インフルエンサー花上惇さんの動画で高い人気を誇るのが、寄せられた悩みに回答する“BITCH!”シリーズ。ネガティブな気持ちを肯定しながら、ポジティブに転換して投げかける。自分が欲しい友達像を再現したという動画で、観る人に元気と勇気をもたらし続けています。恋愛や友人、職場など、多岐にわたる人間関係の悩みに的確なアドバイスを届ける花上さんに、人と付き合ううえで大切にしていることをインタビュー。
花上惇さん インフルエンサー トランスジェンダー

花上惇

インフルエンサー

花上惇
1992年1月19日生まれ、富山県出身。コロナ禍にTikTokで動画投稿をスタート。独自の切り口でポジティブマインドを発信するオリジナル動画が話題を呼び、現在のSNS総フォロワー数は約78万人にも及ぶ。また、2020年には『THEカラオケ★バトル』で優勝した経験も持つ。

@junpi92


こんなに悩んでいる人がいるの? 動画がバズって少し不安になりました

——SNSでの活動を初めて約3年が経ちますが、お悩み相談シリーズがバズったときの心境を教えてください。

花上さん:よっしゃ!という気持ちももちろんありつつ、不思議な感覚のほうが強かったですね。動画の向こう側にいる人って、顔が見えないので。会ったことも喋ったこともない人が私を知っていて、“いいね”をくれていることが不思議だったし、なかなか慣れなかったです。

それと同時に、ちょっと心配にもなりました。自分と同じように悩んでいる人が、この世の中には、こんなにたくさんいるんだ!って。みんなそんなに悩んでるの?大丈夫?みたいな気持ちになった記憶があります。

——自分と同じように悩んでいる人の存在は、励みになりましたか?

花上さん自分の悩みと人の悩みは、別物としてとらえていますね。それぞれ境遇が違うし、まったく同じ悩みなんてないと思うから。でも悩みを抱えているという点は共通しているから、共鳴し合える存在だとは思う。一緒に頑張ろうね!みたいな感覚で動画を作っています。

あくまで自分の物差しだけど、自分が言われて嫌なことは言わない

花上惇さん インフルエンサー トランスジェンダー ロケ写真

——動画や対面での会話において、意識していることはありますか?

花上さん:自分ができる限りの、人に不快感を与えない言葉選びと喋り方です。あくまで私の物差しだし、“私がこういう言い方をされた嫌だな”っていう範疇は越えられないんですけど。自分が持っている常識の中で、不快に思わせるようなことは絶対に言わない!をルールにしています。

その上で、落ち着いて話すこと、相手の目を見ること、自分をよく見せようと思わないこと。対面では特に、この3点を意識しています。

——その3点について、詳しく教えてください。

花上さん:本来の私は、ロジカルに話を組み立てて話すのが苦手なんですよ。パッと言葉が出てこなかったり、“えっと…”と考えちゃうこともたくさんあるんですけど、相手を待たせてもいいや!って気持ちで話しています。だって焦って適当な言葉で話すよりも、適切な言葉で話したほうが、絶対に伝わるから。

目を見ることも、想いをきちんと伝える手段のひとつ。目には感情が表れるから、自分の気持ちはもちろん、相手の感情を読み取ることにもつながると思います。そして自分をよく見せようとすると、焦って落ち着きがなくなるし、目にもそれが表れて相手も落ち着かなくなる。取り繕ったっていつかバレるから、最初から堂々と自分を見せちゃったほうがラクなんですよね。

いい意味で、自分なんて大した人間じゃない。そう思えば、取り繕うこともなくなります

花上惇さん インフルエンサー トランスジェンダー 目線外し

——相手に好かれたい、嫌われたくない、と思えば思うほど、焦って自分を取り繕ってしまうことがありますよね。

花上さん:そうなんですよ。もちろん、相手にどう思われるかって誰しもが不安に思うし、自然なこと。私もコンプレックスの塊だった時代は、すごく気にしていました。嫌われたかな?とかって相手の気持ちを勝手に想像して、それを軸に動いちゃうような子でした。

でもね、そんな私が学んだことをストレートに言うと、みんな期待されるほど大した人間じゃないんですよ。悪い意味じゃなくて! 言い換えると、誰にでも弱点はあるし、完璧な人間なんていない。“自分なんて大した人間じゃない”と思っていれば、無理して取り繕ろうとしないですよね。それに、精神的にもラクだと思う。

——花上さんは、動画では、悩みを決して否定しませんね。聞く人の自己肯定感が上がるような褒め言葉の発想力も、とても素敵です。

花上さん否定されるよりも肯定してもらったほうがうれしいし、気持ちいいですよね。求められている言葉とは違うと思いますが、観ていて気持ちいい動画にしたほうが、視聴維持率も上がると思ったので(笑)。

そもそも、いろんな意見があっていいと思うんです。意見も考え方も生き方も、それぞれ違っていいいし、私に否定する権利なんてない。そう思って生きているので、プライベートでも否定はしません。相手の意見を不快に感じたら、その人と関わらなければいいだけですから。

——花上さんが他人の言葉を不快に感じたり、傷ついたとき、相手に正直に伝えますか?

花上さん:言いますが、相手によるかな。そんなに仲良くない人ならば言わないです。“ああ…そういう感じね”と心を閉じて、その後は関わらずにフェードアウトするタイプ(笑)。仲がいい相手とは縁を切りたくないし、だからこそ伝えるようにしています。

ただし、伝え方には注意しますね。冗談っぽいトーンで「ちょっと!今のひどくない?」「傷ついたんだけど!」って言うかな。相手が必要以上に傷ついて、関係がギクシャクするのは避けたいので。それでわかってもらえない場合は、真剣に話す。

私がこれからも仲良くい続けたい人は、お互いに持ちつ持たれつな関係を築けている人ばかりなので。フェアな関係をキープするためにも、いいことも悪いことも伝えることを大事にしています。

人にやってもらえなくて当然。期待しなければ、傷つくこともありません

花上惇さん インフルエンサー トランスジェンダー バックショット

——動画では「人に期待しない、信じ切らない」ことを徹底しているとも明かしていました。それは、大切な人に対してもですか?

花上さん:はい。家族も友達も恋人も、すべての人に対して意識していることです。こう思うようになったきっかけは、芦田愛菜さんがテレビで話していたことを聞いて。要約すると、人が人を信じるとき、多くの場合は、その人に期待する姿や態度を信じている。だから信じていたのに裏切られた、と感じても、実は相手の知らない一面が見えただけで、相手は裏切ったつもりはないのでは?という内容でした。

それを聞いて、確かに!と深く納得して。人に期待するから、そのとおりにならないとガッカリするし、しんどくなるけど、逆に期待しなければ、ネガティブな感情はまったく抱かない。私が人に期待しない、信じ切らないのは、自分のメンタルヘルスを保つためなんです。

でも、勝手に信じ切らないだけで信用はしているし、“この人を信じたい”という気持ちは、絶対に失わないようにしています。“やってもらえなくて当然”と思って生きている、というほうが正確かな。何事も自分の責任だと考える。悲しくなることもイライラすることもないから、関係が悪くなることもないですし。

——yoiでは、言いたいことがあっても相手のことを考えて言えない、空気を読んで人に合わせてしまう、という人間関係にまつわる悩みが多く寄せられます。そういった悩みを抱える方に、アドバイスをお願いいたします。

花上さん:まず、言いたいことが言えなかったり、空気を読んでしまったりすることについて悩むのは、自己嫌悪を抱いているからでしょうか? “あ、また私ったら流されてしまったわ!”みたいに感じているのかな。合わせられない私からすれば、人に合わせられるのって立派な長所だと思うけど。優しい人でなければ、できないことだもの。

仕事以外で人に合わせる必要なんてないし、疲れているのなら、気を遣うことをやめる努力をしてもいいかもしれない。でも、そうでないなら気にする必要なくない? 先ほども言ったけど、それぞれに、その人らしい生き方がある。世間の決めたよし悪しで、自分を責めないで。それもあなたのいいところ!

撮影/熊木優(io) ヘア/小澤桜 画像デザイン/前原悠花 取材・文/中西彩乃 構成・企画/木村美紀(yoi)