ジェンダーギャップ・ランキングにおいて、日本は146カ国中125位。ジェンダーの問題について発信するアルテイシアさんのインタビュー、後編では私たちが連帯するためにできること、そしてフェミニズムのスローガンのひとつである「個人的なことは政治的なこと」について語っていただきました。
『自分も傷つきたくないけど、他人も傷つけたくないあなたへ』2022年 KADOKAWA
日頃から主語を男女逆で考える思考を
——女性間の分断が起こらないように、私たちが日常から意識できることはありますか?
アルテイシアさん:「主語を男女逆で考えてみる」というクセをつけると、世の中を見る解像度が上がります。私自身、若い頃は「〇〇ちゃんは女子だけど、同期でいちばん優秀なんだよ」とか言っていました。「男子だけど優秀」とは言わないわけで、私の中にも「女は男より劣っている」というアンコンシャスバイアス(無意識の偏見や差別意識)があったんです。ジェンダーを学ぶと、そうしたバイアスに気づいて「学び落とし」ができるんですよ。
若い頃はセクハラに遭っても「自分が悪い」と自分を責めていたけど、フェミニズムを学んで「性加害するほうが悪い」「それを容認・助長している社会が悪い」と気づいて、生きやすくなりました。自責や罪悪感から解放され、かつ政治や社会問題にも興味が向くのではないでしょうか。「個人的なことは政治的なこと」。これはフェミニズムのスローガンのひとつです。「被害に遭うのは自己責任、自分には関係ない」と思考停止するのではなく「人の尊厳を傷つける行為は許さない」という意識を持って、連帯していける社会がいいですよね。
——身近にセクハラやDV、そして性被害に遭った人がいたら、どのように声をかけるべきでしょうか。
アルテイシアさん:まずは相手に寄り添って話を聞くこと。それから、ワンストップ支援センターなどの相談窓口を紹介するのがいいと思います。
性暴力の被害者は「信じてもらえないんじゃないか」「責められるんじゃないか」と不安を抱えて、「私が悪かったからこんなことになってしまった」と誰よりも自分を責めています。だから「あなたは悪くない、加害者が悪い」「何があっても味方だよ」と伝えてください。支えてくれる味方がいること、被害者を孤立化させないことが大切です。
30年前の日本にもセカンドレイプに怒る女性がいたんです
田嶋陽子さん(左)とアルテイシアさん(右)
私が高校生のとき、テレビで聞いた田嶋陽子さんの言葉をよく覚えています。当時、ローマで日本の女子大生たちがレイプされる事件があって、マスコミは被害者を激しくバッシングしました。それに対して田嶋さんは、「女子大生がチャラチャラしているというけど、いくら鍵をかけていないからって人の家にドロボーに入ってもいいの?やっぱり悪いのはドロボーでしょ?責められるのは鍵をかけ忘れた人じゃないでしょ?」と怒っていました。
30年前の日本にもセカンドレイプに怒る女性がいたんです。この田嶋さんの言葉がなければ、私も性被害に遭うのは女性のせいだと刷り込まれていたかもしれません。差別は大抵悪意のない人がする、という言葉があります。差別は優しさや思いやりではなくならなくて、正しい知識を学ぶ必要があるんですよ。
『田嶋先生に人生救われた私がフェミニズムを語っていいですか!?』田嶋 陽子 (著), アルテイシア (著) 2023年 KADOKAWA
小さなことから、ジェンダーギャップを埋めていく
——ジェンダーギャップ・ランキングを見ても、日本はジェンダー後進国です。改善するために、私たちができることはありますか?
アルテイシアさん:やはり知識を得ることが大切だと思います。ジェンダーやフェミニズムの本や記事や映像などを見て、それをいいなと思ったらSNSでシェアしてみるとか。SNSでシェアして応援することも立派なアクションなので、まずは自分にできることからやってみてください。一人一人の小さな声が集まれば大きな声になりますから。
あとはやっぱり政治を変えなきゃいけないので、選挙が大切ですよね。自分の選挙区の候補者をネットで調べて、選択的夫婦別姓や同性婚や性教育やクオータ制といったトピックに賛成か反対か?とか調べてみると、誰に投票したいかわかるんじゃないでしょうか。
「最近は窮屈な世の中になって生きづらい」と嘆くおじさんは、「昔は人を踏みつけても怒られなくてよかったな~」と言ってるんですよ。昔は踏まれる側が声をあげられなかっただけなんです。「昔はおじさんが気軽にお尻を触ってきてよかったな~」って懐かしがる女性は見たことないですよね。
挨拶がわりに胸を触ってくるようなおじさんが駆逐されたのは、「セクハラするな」と声をあげてきた女性たちのおかげ。いま私たちが進学して就職して投票できるのも、ピルを服用できるのも、権利を求めて活動してきたフェミニストたちのおかげです。フェミニズムの恩恵を受けていない女は一人もいないし、そこにフリーライドしたくない。そんな思いから、私は「オッス、おらフェミニスト!」と宣言しています。
フェミニストとは、「性差別に反対する人」
——フェミニズムって難しそうとか、フェミニストって怖いというイメージを抱く人もいますよね。
アルテイシアさん:フェミニズムはバックラッシュの歴史ですが、いまだに日本ではフェミニストを名乗ると叩かれることがあります。「女に権利を与えたくない」「生意気な女の口を塞ぎたい」という人はどの時代もいますから。
だから私はなるべくシンプルにわかりやすく説明するようにしてます。「フェミニズムとは、性差別をなくそうという考え方。だから、フェミニスト=性差別に反対する人。その対義語はセクシスト(性差別主義者)です」と話すと「自分もフェミニストだと気づきました」とか「フェミニストのイメージが変わりました」と感想をもらうんですよ。
私自身、フェミニズムに出合って救われました。フェミニズムを学ぶことは人権を学ぶことなので「自分はこんな目に遭っていい人間じゃない」と怒れるようになった。理不尽な目に遭って怒れるのは、まっとうな自尊心がある証拠ですよね。まずは自分が自信をもって生きるために、フェミニズムを役立ててほしいです。
女性差別が強い国ほど女性の自己肯定感が低いと言われていますが、国民の幸福度ランキング上位は、ジェンダー平等が進んでいる国なんです。女性や性的マイノリティが差別されない社会は、みんなの人権が大切にされる社会であり、みんなが生きやすい社会なんですよ。
日本社会は「家のことを妻に丸投げして長時間労働できる男性」を基準に作られているけど、それって男性もしんどいですよね? フェミニズムと聞くと「権利を奪われる」と考える男性がいるけど、そうじゃなく「奪われていた権利を取り戻す」と考えてほしいです。家族や友人と過ごす時間とか、子育てして子どもの成長に立ち会うとか、心身の健康を大切にするとか、そういう権利を取り戻すんだって。
『ヘルジャパンを女が自由に楽しく生き延びる方法』の帯にも「男と女、どっちがつらい? そんな不毛な争いはやめて、みんなでジェンダーの呪いを滅ぼそう!」と書きましたが、ラピュタのように手を取り合って「バルス!」と滅ぼしたいですよね。
取材・文/高田茉莉絵