スキンケア研究家として、スキンケアブランド「dr365」をプロデュースしている三上大進さん。三上さんは「左上肢機能障害」という障がいを持ち、左手の指が2本で生まれてきました。このたび、初の著書『ひだりポケットの三日月』(講談社)を上梓することに。前編では、障がいやご自身のセクシュアリティに向き合いながら生きてきた人生を明るく照らすことになる「美容」との出合いについてお伺いします。

三上大進
三上大進

大学を卒業後、外資系化粧品会社でマーケティングに従事。2018年に日本放送協会(NHK)入局。NHKパラリポーターとして活躍。生まれつき左手に障がいがあり、自身のセクシャリティがLGBTQ+であることを公表している。現在、スキンケア研究家として活動。スキンケアブランド「dr365」をプロデュース。初の著書となる『ひだりポケットの三日月』(講談社)発売中。

この体に生まれた意味が、ちょっとだけわかった気がする

三上大進 dr365 スキンケア インタビュー

——大学卒業後、化粧品メーカーに入社。その後NHKに入局し、業界初となる障がいのあるキャスター・リポーターに。平昌に続き、東京2020パラリンピックのリポーターを務め、現在はスキンケア研究家としてご活躍されています。今回、本をご執筆されるにあたり、ご自身の歩んできた道を振り返ってみてどのような気持ちになりましたか。


三上さん:まさか自分が本を書くなんて思ってもみなかったですし、日記帳を見せているような恥ずかしさを感じています。こんな長文を書くのなんて、NHK時代に書いた反省文以来かも(笑)。

本の執筆は自分という存在ときちんと対峙することからスタートしました。今までの人生を振り返りながら『何やってんのよ!』とツッコミたくなったり、自分を叱ってやりたくなったり、はたまた『こうやっていろいろな経験をしてきたから、今ここに私が立っていられるんだ』と褒めたくなったり。さまざまな感情が渦巻いた経験でしたね。

自分自身の力で、困難を乗り越えてきたつもりになっていたけれど、改めて当時のことを思い出してみると、まわりの人たちの協力があってこそだったんだと気づくことがたくさんありました。差し伸べてくれた手があったからこそ、ここまで生きてこられたんだと感じています。


——自身の障がいのこと、セクシュアリティのことなどを隠すことなく書いていらっしゃいます。いわば、”さらけ出す”ことに覚悟のようなものはありましたか。


三上さん:人との違いを持ち続けてきた人生だとずっと自覚はしていたのですが、なかなかそれを言葉にする機会はなかったので、自分自身を“さらけ出す”ことに決心は必要でした。

自分の気持ちを綴ろう、そしてそれを読んでもらおうと決心がついたのは、リポーター時代に、障がいのあるお子さんを育てている親御さんからたくさん応援の言葉をもらったことがきっかけかもしれません。「子どものキャリアに対して漠然とした不安を抱えていたけど、三上さんの活動をみたら、子どもの将来にも前向きな気持ちで接することができるようになった」というコメントをいただいたときに、私自身、勇気をもらえたんです。


なぜこの体で生まれたのか、その意味をさっぱり見いだせなかったのですが、もしかしたら障がいのある子を育てる親御さんや当事者の方々の心に少しでも何かのメッセージを届けるためだったのかもしれないなってちょっとだけ思えるようになりました。人との違いをあえて打ち出す必要なんてないのかもしれないけれど、書くことがだれかへの恩返しになっていたらうれしいですね。

三上大進 dr365 スキンケア インタビュー 2

美容があったからこそ、明日が来るのが怖くなくなった

——著書では、ポジティブになれた大きなきっかけとして「美容」を挙げられています。美容が三上さんの心に変化を与えた理由を教えてください。


三上さん:美容に興味を持ったのは、中学生の頃に恋をしたから! まわりの女子全員が狙っているようなイケメンを、私ももれなく大好きになっちゃったんです。

中学生って、自分自身の体の変化と対峙する時期じゃないですか。そのときに私は、体の違いと性の違い、ふたつの違いと向き合わなければいけなくって。その「違い」が恋愛において、とっても不利に感じたんです。

不利な要素を抱えている自分が、ライバルたちに差をつけられる方法は何だろうと考えたときに、「せめて肌ぐらいはあの子たちに負けるわけにはいかない!」って思いついて。お小遣いで買える「肌水」を買って、そこから熱心にスキンケアを始めました。


肌がきれいになっていくことでどんどん自己肯定感も上がっていって「あの子たちにはメイクや美しい長い髪があるけど、私にはきれいな肌があるんだ」って、そう思えるだけで明日が来ることを怖く感じなくなりました。1本の化粧水が、前を向くきっかけを与えてくれたんです。

三上大進 dr365 スキンケア 美容

——美容がお守りのような存在になっていったんですね。


三上さん:そうですね。思春期には人との違いに勝手に苦しんで、勝手に傷ついていたんですが、美容がその傷をかばうどころか美しくしてくれたと思っています。

左手の障がいを「大ちゃんらしさ」と受け取っていただくことが多くて、私を印象づける代名詞のようになっていたんですが、 香水をつけることで「いい香りだね」、丁寧にスキンケアすることで「肌がきれいだね」と言ってもらえることが増えてきて、障がいじゃないところに「自分らしさ」を与えてくれたのも美容です。だから今にいたるまで、美容の力をずっと信じています。


——著書では、「美容は自分を許すこと」ともおっしゃっていますね。


三上さん:移植手術をして、左手がずっとボロボロだったんです。100針ぐらい縫った傷跡が目立って、移植した爪もうまく育たたず。「痛々しい」「誰かに見られたくない」って悩んで、左手はポケットに入れて隠していました。

でもスキンケアのついでにハンドクリームなどを毎日丁寧に塗ることで、本当に少しずつですが、傷跡が薄くなっていき、爪が定着していきました。それによって今まで受け入れられなかった左手を、直視できるようになっていったんです。


それは私だけでなく、皆さんにも当てはまること。例えばですが、髪がボサボサでもヘアケアをしていくことで艶やかな髪になるかもしれないし、血色があまりよくない日でも、チークを塗ることでハッピーな印象を与えられるかもしれない。 こうやって、受け入れることが難しかった自分のことを許せるようになるために、美容は存在しているのだと思います。

ポジティブでいるためのパワーの源はInstagram

三上大進 dr365 スキンケア ひだりポケットの三日月

——好きになれなかった自分を、ちょっと好きになれる手助けを美容がしてくれているのかもしれませんね。ポジティブでいるためのパワーの源って、美容以外にありますか?

三上さん:Instagramです。Instagramは、私の翼! 自分をブランディングして美しく発信していくのがInstagramの正しい使い方なのかもしれませんが、私はダメな自分も全部、おおっぴろげにしちゃってます。寝癖があってボロボロの状態でもインスタライブをするし、ストーリーにもバンバンあげちゃう。その姿を、「ありのままでいいよ」と受け入れて、応援してくださり、さらに信じてくれるファンの方(通称・姫ズ)がInstagramの先にいると思うと、もっと頑張ろうと思えるんです。

ファンの方とシェアすれば喜びが倍増するし、しんどくても分かち合って一緒に乗り越えられる。だから自分が自分らしくいられるのはInstagramの先にファン、姫ズの方々がいてこそ。姫ズのみんなとは、同じマンションに住んでいるご近所さん同士、みたいな感覚ですね。この人たちのためだったら頑張れると思える、かけがえのない存在です。

撮影/玉村敬太(TABUN) ヘア&メイク/ナディア 取材・文/高田真莉絵 企画・構成/渋谷香菜子