【望海風斗さん】元雪組トップスターが語る！宝塚歌劇団のシスターフッド＜インタビュー前編＞

——2003年、子どもの頃から憧れていた宝塚歌劇団に入団し夢をかなえた望海さん。出身地も年齢も異なる多くの劇団員が所属する環境で、驚いたことや苦労したことはありますか？ 

望海さん：入団して1年目は同期と協力し合うことを求められるのですが、初めはその重要性がなかなか理解できずに苦しんだこともありました。合格するために必死に頑張ってきて、これからキャリアがスタートするんだ！というときに、なぜ同期と足並みをそろえなきゃいけないの？と思ってしまったんですね。もともとマイペースに物事を進めたい性格だったこともあって、少し不服にも感じていました。 

何よりも、同期のミスで怒られるのが嫌だった記憶があります（笑）。ただ、自分のミスでみんなが怒られることもあったので、徐々に“持ちつ持たれつ”という感覚が芽生えていって。2年目の最後に同期みんなと舞台に立った頃には、同期＝仲間と思えるようになりました。

——劇団員の仲間に対して、ライバル意識はあったのでしょうか。 

望海さん：もちろん、ありました。上級生からも、「同期もライバルなんだから、いつまでも仲良しこよししてちゃダメだよ」と言われていたので。

——仲間の成功を素直に喜べずに、葛藤したことはありましたか？ 

望海さん：いっぱいありましたよ！　喜べないというよりも、自分を責めていました。例えば同期が私よりも早くいい役を獲得したら、同じスタートを切ったのに、なぜ私は遅いんだろう？と。そういうときは、先輩に相談していました。長い時間をかけてやっと役を得られた方や、早くにいい役を得た方など、いろいろなタイプの先輩に相談して、それぞれの視点で意見をもらう。ただ慰めてもらうのではなくて、自分に足りないものを教えてほしいと伝えていました。

——逆に、望海さんがいい役を得たときに、同期に気を遣うようなこともあったのでしょうか？

望海さん：特に同じ組の同期に対しては、やっぱり思うことはありましたね。自分が役を得られたのは自分だけの力ではなく、同期に助けてもらったおかげでもあるので。そうやって支えてくれる同期に感謝することを忘れずに、生ぬるいことやっていたらダメだ！と気を引き締めていました。

いい役をもらうと、舞台で先輩より前のほうに立つことにもなるので、最初はすごく緊張しました。先輩という立場的にも、きっと思うことはあったと思うんですけれど、きちんと認めてくれる方ばかりで。だから私も変な気を遣うことなく取り組めたし、もっと頑張らなきゃいけないな、という気持ちにさせてくれました。 

——トップスターになると、そういった葛藤を感じる機会は増えるのでしょうか？ 

望海さん：トップになると減りますね。やることが多すぎて、まわりを気にする余裕がないんです。出番も着替えも多いから練習に時間がかかるし、公演のほかにも取材を受けたり、次の公演のことを考えたり…とにかく忙しい。みんなと一緒にいられる時間は公演中だけ、という状態が続くので、葛藤というよりも寂しさがありました。

そんな私を気にかけて、同じ組の人たちがわざわざ顔を見せにきてくれたり、公演とはまったく関係のないことを話しかけて気持ちをほぐしてくれたりして、すごく支えられました。困っていたときに助けてもらったことも何度もありますけれど、一番に思い出すのは、そういった細やかな心遣い。トップになって仲間のありがたみを再認識しましたし、みんなの存在に支えられてトップが成り立つんだと痛感しました。

——下級生、上級生、トップスターと立場が変わるにつれて、人間関係で意識することは変わりましたか？ 

望海さん：私は、立場が上になればなるほど悩むことが増えました。先輩に厳しいことを言われたり、悔しい思いをしたり、もちろん下級生には下級生なりの大変さがあります。でも上の立場になると、下を育てるという重大な責任が増える。どんな言いかたをすれば、きちんと伝わるだろう？　どんなフォローをしてもらいたいだろう？　などと日々、頭を抱えていました。

——20代後半〜30代のyoi読者からは、職場でのポジションが上がり、後輩や部下とのコミュニケーションに悩むという声も多く寄せられています。望海さんが、下級生とのコミュニケーションで気をつけていたことはどんなことでしょうか？ 

望海さん：自分が下級生だったときに、上の人がやってくれてうれしかったことをしていました。宝塚は大きな組織なので、上下関係がしっかりしているぶん、下級生にとって上級生は怖い存在ですし、下級生が自ら心を開くのは難しい。だから自分から積極的に声をかけに行って、相手の持ち物について「かわいいね、どこで買ったの？」と聞くなど、たわいもない話をする。“上級生も自分と同じ人間なんだ！”と感じてもらい、壁を取り除きたかったんです。

また、同じ組の仲間とも、下級生に注意するべきことや伝えかたを話し合っていました。「私はこういうことが気になるんだけど、どう思う？」と、他者の意見を聞いてみたり、下級生に注意したあとに「○○にこういうことを言ったから、何かあったらフォローよろしくね」と頼んだり。そういうコミュニケーションは、密にとるようにしていました。 

——ハラスメント意識が高まったことに伴い、職場の人間関係が希薄になっているという声をよく聞きます。宝塚歌劇団では厳しい上下関係やライバル意識がある中で、どんなときに仲間との絆や信頼関係を実感しますか？

望海さん：普段は本当にサバサバした関係で、それぞれの役割に責任を持って取り組む！という意識を持つ人が多いのですが、誰かが困っているときの助け合い精神がすごく強いんですよ。

みんな誰かに救われた経験があって、何かあれば頼れると知っているから、厳しい日常にも耐えられる。上下関係やライバル意識は、信頼関係の上に成り立っているのだと感じます。 宝塚は体育会系だとよく言われますが、在団中はほかの職場を知らないから、いまいちピンときませんでした。

自分の言動に責任を持つことも、何かあったら助け合うのも、仕事だから当然だよね！という感覚だったので。仕事のしかたや向き合いかたは人それぞれ違うと知った今は、確かに宝塚ならではの感覚だったのかな、と思います。

——以前、別のインタビューで、宝塚時代の仲間は特別で、今も会うと自然と笑顔になれるとおっしゃっていましたね。退団後は、どれくらいの頻度で会っていますか？　 

望海さん：同期や同じ組で仲良くしていた下級生とは、しょっちゅうごはんを食べに行ったり、お茶したりしています。私は前々から予定を決めるのが苦手で…話したいことが溜まってきたな、と感じたら「今どこにいる？」「明日ひま？」と連絡して、予定が合えば会う。宝塚の仲間は気を遣わなくていいから、すごく誘いやすいんです。短時間でも、直接会って話すだけで気分が晴れます。

——在団中と比べて、仲間との関係性は変化しましたか？

望海さん：在団中、特にトップになってからは、誰かと一対一で出かけることは避けていたんです。トップという立場上、自分から誘う場合は組のみんなに声を掛けていたから、予定を合わせるのが大変で。退団後は一対一で会えるようになり、集まる機会が増えましたね。

また、より気楽につき合えるようになったと思います。一緒に仕事をしていた当時は、オフとはいえ、お互いに気を遣うこともあったので。 近々退団する同期がいて、それに向けて同期みんなで集まる機会が増えたんですけど、今も驚くほど息がぴったり。時間がたってもこうやって一致団結できるのは、同期と協力し合うことを徹底的に叩き込まれたから。当時はちょっと嫌だったけれど（笑）、我慢して乗り越えてよかったです！

——望海さんの同期には、現役生として活躍中の人もいれば、結婚・出産して引退した人、望海さんのように退団し芸能界で活躍する人も。yoiには、読者からライフステージの変化によって友達と話が合わなくなってしまった、関係が変化してしまった、という悩みが頻繁に寄せられますが、そういったご経験はありますか？ 

望海さん：私以外は全員お母さんというメンバーで集まると、話題は子育てのことになってしまい、“話にまったくついていけない！”と感じることもあります。そういうときは、ちょっと寂しさを感じますね。昔は一緒にワイワイ騒いでいたのにな〜、って。

でも、それだけで関係を断とうとは思わないかな。 一対一で会うと昔のように話せたりもするし、子育てが落ち着けば、また関係が変化する可能性もありますよね。いつかお母さんの役を演じるときに生かせるかもしれない！と思考をスイッチして、聞き役に徹しています（笑）。

——友情を継続させるための秘訣を教えてください！ 

望海さん：遠慮せずに甘えること！　私は人に誘われると無条件にうれしいので、自分も遠慮なく誘っています。予定が合わなかったとしても、「私と会いたいと思ってくれたんだ！」と知ることができるだけで心が満たされるんです。相手が私と同じように感じているかはわからないけれど、誘われて嫌な気持ちになる人は、いないんじゃないかな。

例えば、お子さんがいると想定外のハプニングが起きやすく、迷惑をかけないために自分から誘わなくなった人もいるはず。やむなくドタキャンしたとして、嫌な顔をする人もいるかもしれないけれど、理解してくれる人も必ずいます。嫌な顔をされることを恐れて、関係が途切れてしまうのはもったいないですよね。

ライフステージが変わって共通の話題がなくなってしまったら、悩みを言い合うだけでもいい。悩んでいる事柄は違っても、悩みがない人はいませんから。「私の悩み聞いて！」と素直に甘えてみたら、そこから新たな共通点が見つかるかもしれません！

＜あらすじ＞
世界中のオペラファンを虜にした、20 世紀最大の歌姫マリア・カラス。引退後のカラスは、ニューヨークの名門 音楽学校のジュリアード音楽院で、若きオペラ歌手たちにマスタークラス(公開授業)を行う。授業では、ユーモアを交えつつ、的確だが辛辣な言葉で、芸術に向き合う術を惜しみなく伝えてゆく。生徒の歌声を聴くカラスには、 過去の輝かしい舞台や想い出がよみがえってくる。愛を求め、挫折を乗り越え、芸術に人生を捧げたカラスの秘めていた過去が、解き明かされてゆく。

作：テレンス・マクナリー
翻訳：黒田絵美子
演出：森新太郎
キャスト：望海風斗/池松日佳瑠、林真悠美、有本康人、石井雅登/谷本喜基

日程・会場：
《東京》2025 年 3 月 14 日(金)~23 日(日) 世田谷パブリックシアター
《長野》2025 年 3 月 29 日(土)~30 日(日) まつもと市民芸術館 主ホール
《愛知》2025 年 4 月 5 日(土)~6 日(日) 穂の国とよはし芸術劇場 PLAT 
《大阪》2025 年 4 月 12 日(土)~20 日(日) サンケイホールブリーゼ

公式サイト：https://masterclass.westage.jp/

ドレス¥231000（レンタル価格）／ATELIER Pureté（Vérité）　チョーカー¥77000／セシル・エ・ジャンヌ 青山店（セシル・エ・ジャンヌ）　イヤカフ¥8470／ソムニウム　靴¥70400／サンダースジャパン（サンダース）　グローブ／スタイリスト私物 

撮影／安川結子　ヘアメイク／yuto　スタイリスト／高野麻子　取材・文／中西彩乃　企画・構成／木村美紀（yoi）