3月8日の国際女性デーを記念したインタビュー、宝塚歌劇団の元トップスターである望海風斗さんの中編は、年齢とキャリアに焦点を置いてお話を伺いました。37歳で退団するまでの約18年間、タカラジェンヌとして活躍していた望海さん。結婚して家庭を持つことに憧れた時期もあり、何度も退団を考えたそう。人生が変わる大きな選択とどう向き合ったのか、そして当時の決断を、今はどう感じているのでしょうか。
俳優
1983年10月19日生まれ、神奈川県出身。2003年、宝塚歌劇団に89期生として入団。2017年、雪組のトップスターに就任する。2021年の退団後は、『DREAMGIRLS』、『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』などミュージカルを中心に活躍。2024年には、1stアルバム『笑顔の場所』をリリース。今年3月から上演される舞台『マスタークラス』では、初のストレートプレイに挑戦する。
何ひとつ計画通りじゃない!? 理想の人生設計とは違った、宝塚時代

—— 2003年に入団してから2021年に退団するまでの約18年間、宝塚歌劇団でご活躍された望海さん。在団中、キャリアとプライベートのバランスについてどのように考えていましたか?
望海さん:私が宝塚にいた20代と30代って、女性は色々と考える時期ですよね。私も宝塚の外の世界に好奇心があり、辞めたら何をしよう?と考えることが多々ありました。語学を学んで海外に行ってみようかな、と思ったこともあるし、結婚して家庭を持つことに強く憧れた時期もありました。
でも、辞めることを考えるたびに、「こんなに頑張ってきたことを、ここで手放していいの?」という迷いが生まれて、結局「もうちょっと頑張ろう」という気持ちに。それを繰り返しながら頑張り続けたけれど、なかなかトップになれず…「私はこのままここにいて、本当にいいんだろうか」という不安が大きくなっていったんです。
それでも私の心は、「いろいろなことを我慢してきたんだから、最後まで諦めないで頑張ろうよ!」と言い続けた。きっと、意地になっていたんですよね。辞めずにここまできてしまったからには、自分の選択を後悔しないために、必ず目的を達成しなければ!って。
——結婚するために退団を決める人は、多いのでしょうか?
望海さん:そういう方もいらっしゃいます。結婚して子どもを産みたいから辞める!とスパッと決めて、退団していく仲間の姿を見て、すごいなあ〜と。憧れたけど、私にはその決断ができなかった。
宝塚に入ってからの人生設計は、何ひとつ理想通りに進まなかったですね(笑)。これくらいの年齢でトップになって、30代の前半には宝塚を辞めて、結婚して子どもを産んで…という風になんとなく思い描いていたけれど、あっという間に30歳を過ぎてしまい、トップにもなれていない。あれ!? みたいな(笑)。
辞める選択ができなかったのは、タカラジェンヌ以上の天職はないという確信があったから

——当時を思い返して、今の自分だったらこうするな…などと感じることはありますか?
望海さん:当時は自分なりに悩んだつもりでいたけれど、今思い返すと、後先考えずに突っ走っていたなーと思います。もっと先のことを考えたほうがいいよ、と大人にアドバイスされても、私には今が大事だから!とまったく聞き入れなかった。それが大人になり、あのときのアドバイスを聞いていれば…ということが、次から次へと出てきたんです。
今となっては、自分の選択をよかったと思いつつ、「こうしていたら、もっといい結果になったんじゃないか?」と思うこともたくさんあります。
「あのときに辞めていたら、辞めて良かった!と思える人生を歩んでいるのかな?」とも想像しますね。もちろん、どんなに考えても答えは出ないのだけれど。
——早くに辞めていたら、どんなお仕事をしていたと思いますか?
望海さん:それが、まったく思い浮かばないんです。タカラジェンヌ以上に自分に合っていることはない!と確信があったから、なおさら辞める選択ができなかったんだと思います。夢をかなえて、その仕事が天職だと感じられるなんて、奇跡的ですよね。
新たな役と出会うたびに成長することが、モチベーションにつながった

——「自分にはこれしかない!」と確信を持つきっかけや出来事はありましたか?
望海さん:ほかの仕事をしている自分のイメージが、まったく湧かなかったんですよ。子どもの頃って、いろんな夢を抱くじゃないですか? どの夢も漠然としていたけれど、タカラジェンヌになりたい!と思った瞬間に、ステージに立つ自分の姿が鮮明に頭に浮かんだ。それは大人になってからも変わらなかったですね。
——精神的にも肉体的にも大変な環境だと想像しますが、迷いを抱える中で、どのようにモチベーションを維持していたのでしょうか。
望海さん:芸の道には終わりがないと言いますが、まさにそのとおりで、役をもらえばもらうほど課題が見つかるんです。私にはこういう役が合うはずなのに、なんでもらえないんだろう?と思っていても、実際にその役をもらうと、私にはこれが足りない、あれが足りない、と次々に出てくる。それを繰り返す中で、少しずつ自分の成長を実感し、それがモチベーションになっていたのだと思います。
男役の研究を心から楽しめていたことも大きいかな。女性として男性を演じていて、かっこいい男性の俳優さんを見ると、めちゃめちゃ悔しいんですよ。なぜこんなに素敵なんだろう?と感じた俳優さんをじっくり観察して、目線や仕草を取り入れてみたりする作業が、楽しくて仕方なかった。仕事の醍醐味のひとつでした。
キャリアを手放すことも、18年間を過ごした環境を離れることも、すべてが怖かった

——2017年に雪組のトップスターに就任し、入団当初から掲げていた目標を達成されました。いつ頃から退団を考え始めたのでしょうか。
望海さん:トップになることが人生最大の目標だったから、トップになってからの目標がなかったんですよ。インタビューで「どんな組にしたいですか?」、「どんなトップになりたいですか?」と聞かれて目標がないことに気づき、新しい課題が生まれました。 でもトップとして初めての作品に取り組み始めたら、やることがあまりに多すぎて…じっくり考える暇がないまま初日を迎えてしまいました。
公演中も、舞台ではしゃべって歌って踊って、舞台からはけた瞬間に急いで着替えて、と息をつく暇もない。ようやく最後、体が潰れそうなほど重い羽を背負ってステージの階段を登ろうとしたときに、泣きそうになっちゃったんです。大変すぎて、これを続けるのは無理かもしれない、と。
とはいえトップに選んでいただいたからには、すぐには手放せない。ゴールがないと走れないと感じて、ここまでは頑張る!という期限を設定したとき、初めて現実的に退団を考えました。最初に定めたのは2020年でしたがコロナの影響で延びて、2021年に退団しました。
——それから退団までの間、決意が揺らぐことはなかったのでしょうか。
望海さん:劇団に辞めると言わなければいけない期限が近づくにつれて、本当にいいのかな?という迷いが生まれました。宝塚で築いたキャリアを手放すことも、18年も過ごした環境を出ていくことも、全部が怖かった。
すごく悩みましたが、ある日「ここで辞めないと、一生こうやって悩み続けるんだ」と気づいて。そこでやっと決心がつき、「辞めます!」と宣言したんです。

望海風斗さん主演舞台『マスタークラス』3/14から上演!

<あらすじ>
世界中のオペラファンを虜にした、20 世紀最大の歌姫マリア・カラス。引退後のカラスは、ニューヨークの名門 音楽学校のジュリアード音楽院で、若きオペラ歌手たちにマスタークラス(公開授業)を行う。授業では、ユーモアを交えつつ、的確だが辛辣な言葉で、芸術に向き合う術を惜しみなく伝えてゆく。生徒の歌声を聴くカラスには、 過去の輝かしい舞台や想い出がよみがえってくる。愛を求め、挫折を乗り越え、芸術に人生を捧げたカラスの秘めていた過去が、解き明かされてゆく。
作:テレンス・マクナリー
翻訳:黒田絵美子
演出:森新太郎
キャスト:望海風斗/池松日佳瑠、林真悠美、有本康人、石井雅登/谷本喜基
日程・会場:
《東京》2025 年 3 月 14 日(金)~23 日(日) 世田谷パブリックシアター
《長野》2025 年 3 月 29 日(土)~30 日(日) まつもと市民芸術館 主ホール
《愛知》2025 年 4 月 5 日(土)~6 日(日) 穂の国とよはし芸術劇場 PLAT
《大阪》2025 年 4 月 12 日(土)~20 日(日) サンケイホールブリーゼ
公式サイト:https://masterclass.westage.jp/
ドレス¥231000(レンタル価格)/ATELIER Pureté(Vérité) チョーカー¥77000/セシル・エ・ジャンヌ 青山店(セシル・エ・ジャンヌ) イヤカフ¥8470/ソムニウム 靴¥70400/サンダースジャパン(サンダース) グローブ/スタイリスト私物
撮影/安川結子 ヘアメイク/yuto スタイリスト/高野麻子 取材・文/中西彩乃 企画・構成/木村美紀(yoi)