家族間で生じる問題からサバイブする女性たちの姿を描いた映画『愛されなくても別に』。俳優の南沙良さんは主人公の宮田陽彩を演じています。インタビュー前編では、「自分が陽彩に少し似ていると感じた」という意外な一面、さらに人間関係において大切にしていることについて、時折チャーミングな素顔をのぞかせながら打ち明けてくれました。

南沙良 俳優 愛されなくても別に インタビュー

南沙良

俳優

南沙良

2002年6月11日生まれ、東京都出身。映画『幼な子われらに生まれ』(2017年8月公開)で俳優デビュー。初主演映画『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』(2018年7月公開)で報知映画賞、ブルーリボン賞ほか数々の映画賞を受賞し、その演技力が高く評価される。主な出演作にドラマ『ドラゴン桜』『鎌倉殿の13人』『女神の教室~リーガル青春白書~』『君に届け』『光る君へ』、映画『女子高生に殺されたい』『この子は邪悪』などがある。

『愛されなくても別に』 あらすじ
宮田陽彩(南沙良)は、奨学金を受けて大学に通い、それ以外の時間は同居する浪費家の母に代わって家事とコンビニでのアルバイトに明け暮れる毎日。親にも友人にも、何かに期待して生きてきたことがない。そんなある日、同級生の江永雅(馬場ふみか)の父親が殺人犯だという噂を耳にする。ほかの誰とも普通の関係を築けないと思っていた二人は、おたがいと出会ったことで自分の人生を変えていく。

負の感情に支配されそうなときは、“寝ること”を選びます

南沙良 インタビュー ポートレート プライベート

——南さんが映画『愛されなくても別に』で演じられた宮田陽彩は自分の感情を表に出すタイプではないぶん、演じることが難しかったのではないかと思います。役作りでは、どんなことを意識されましたか?

南さん:陽彩は、不安であることに重きを置いている、そして不安であることが安心につながっている女の子。なので、彼女が持つ不安定さみたいなものはつねに大事にしていました。クランクイン前にいただいた、陽彩の年表や映画では描かれないシーンの台本といった資料も、役を作っていくうえですごく助けになったと思います。

——誰しも多かれ少なかれ、陽彩のように自分の不幸と人の不幸を比べて優越感や敗北感を抱く瞬間があると思います。南さんも、似たような感情に支配されることはありますか?


南さん:あります。さっきお話しした陽彩の「不安であることが安心につながる」ところは、少し共感できる部分であり、自分の嫌いな部分でもあったんです。だから、最初は陽彩のことをあまり好きになれなくて……。といっても、私は陽彩ほどひねくれてはいないんですけど(笑)。

——そういった感情に陥ったときは、どのようにして抜け出されるのでしょうか?

南さん:そういうときって、どんなことをしても気が紛れないんですよね。だから、何も考えなくていいように、寝るということに集中します。私はそれくらいしか方法が見つけられていないので、皆さんがどういうふうに気持ちを切り替えているのか、すごく気になります。全員に聞いてまわりたいくらい!

——映画では三者三様のいびつな親子の形が描かれますが、南さんとお母様はどのような関係ですか? 

南さん
:友達や姉妹に近いと思います。楽しいことがあったらすぐに報告しますし、買い物とか旅行とか、どこかに出かけるとなると母を誘うことが多いですね。最近も、二人でハマっている陶芸を習いに行ってきたばかり。何を作ってもいいフリースタイルの教室だったので、私は飼っている2匹の犬の小さな置物に挑戦しました。母は、実用的なコップを作っていたんですけど(笑)。 

自分の価値観で他人の幸せや不幸を測ってはいけない

南沙良 愛されなくても別に インタビュー 友人

——映画からは「他者に愛されること、他者を愛することがすべてではない」というメッセージを受け取りました。南さんは、今作を通して気づかされたことはありましたか?

南さん
:私も人生において愛されることがすべてではないと感じましたし、自分の価値観で他人の幸せや不幸を測ってはいけないとも思いました。人はみんなそれぞれ何かを抱えて生きていて、それを分かち合うことはたとえ家族であっても難しいはずなので。

原作の小説に「人間はとても簡単に、人間を傷付けることができることを私は知っている」という陽彩のセリフがあって、本当にそのとおりだなと思ったんです。私自身も無意識のうちに人を傷つけてしまっている可能性がある。そのことはつねに頭の片隅に置いておかなければいけないと考えています。

——yoi読者の中には大人になってから友達を作ることの難しさに悩んでいる人も多いのですが、南さんが新しい友人関係を築く上で意識していることはありますか?

南さん
:私は友達が多いほうではなくて、そう呼べるのは幼なじみと学生時代からの友人くらいかもしれません。でも、もっと友達が欲しいとは思っているので、例えば食事のお誘いを受けたら積極的に行くようにしたり、「面白いよ」っておすすめしてもらった映像作品などは絶対に見るようにしたり……。

最近は、撮影現場で共演者の方に少しだけ自分から話しかけられるようにもなってきました。ただ、それだけで距離をぐっと縮めるのはやっぱり難しくて。どうしたら友達ができるかは、私にとって永遠の謎かもしれません(笑)。 

南沙良 写真 愛されなくても別に 家族

映画『愛されなくても別に』
出演:南沙良 馬場ふみか 本田望結 基俊介 (IMP.) 伊島空 池津祥子 河井青葉 監督:井樫彩 原作:武田綾乃『愛されなくても別に』(講談社文庫) 脚本:井樫彩/イ・ナウォン 企画・プロデュース:佐藤慎太朗 製作幹事・制作プロダクション:murmur 配給:カルチュア・パブリッシャーズ Ⓒ武田綾乃/講談社 Ⓒ2025 映画「愛されなくても別に」製作委員会 
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撮影/新田君彦(えるマネージメント) スタイリスト/藤井希恵(THYMON Inc.) ヘア&メイク/藤尾明日香 取材・文/吉川由希子 企画・構成/福井小夜子(yoi)