萎れてうなだれる、花瓶に生けられた花

僕は生けた花の捨てどきがわからない。毎日変化していく様子に見入ってしまうから。

心に蓋をしないで。自分の中に湧き上がる感情に目を向けてみませんか

つねに“自分の幸せのあり方”について語ってくれる吉川さん。「自分らしくありたい」「自分の求める幸せを見つけたい」と思っていても、人からイヤなことを言われたり、苦手なことにぶつかると、自信をなくしたり、自暴自棄になったり…。自分を認めることができず、ありのままの自分がなんなのか、自分の愛し方がわからないという人も多いのではないでしょうか。 

そう問いかけると、吉川さんからはちょっと意外な答えが返ってきました。

「 “自分は強い”だなんて思わないほうがいいですよ。調子がいいときや自分の人生が絶好調なときは、なんでもできちゃう気になるし、そういうときは我慢だってできる。なぜなら、その我慢の先に、人から褒められるとか、仕事につながるとか、お金がもらえるなど、ご褒美があることがわかっているから。だからどんなにつらくても心に蓋をして、 “私は強いからへこたれない”と信じ込もうとしがち。だけど僕は、人はそれほど強くない気がする。自分の感情に蓋をして気づかないふりをするより、もっと自分の感情に素直になったほうがいいと思うんです。

皆さん、“泣いたあとにすっきりした” という経験をしたことはありませんか? 悲しくて泣いていたのに、それがイヤな感覚ではなかったという…。こういった動物的な感覚はみんな持っているはずなのに、毎日生きていくのに精いっぱいだから、無意識のうちに自分自身で消してしまうんです。特に自分が絶好調なときは、心や体の声を聞かないで、感情を無視して突っ走りがち。気づいたときにはとんでもなく沈んでいる自分に戸惑ったりして…。僕もあります。だけど、もしもそうなって涙が出てきたら、泣くことを我慢しないし、無理に気持ちを引き上げようとするのではなく、自分の気持ちを聞いてあげたい。そういうときは、気持ちが沈んでしまっていることを自覚して、自分をどう元気づけられるのかを考えてみる絶好のチャンスでもあるんです」

気になることにどんどんチャレンジし、自分の本当の感情に気づく訓練をしてみよう

自然の中でカメラを構える吉川さん

気分が冴えないときは、仕事を休んで写真を撮りに行く。僕はフォトセラピーと呼んでいます。

落ち込んだとき、沈んでいるときは、いろいろとあがいてなんとか這い上がろうとしがちだけれど、吉川さんは「そんなときこそ、まずは自分の本心を大切に」と言います。

「僕は化粧品を作るのは好きだけれど、それ以外の会社運営的な業務はどちらかといえば苦手で、気持ちもダウンしがち。でも、そのイヤだという気持ちを押しやって、“責任を果たす”ために“自分のお尻をたたくガンバリ”に頼るのは違うと思うんです。苦手でもイヤでも、前に進むためにはやらなくてはいけないんだけれど、そこを無理に我慢するのではなく、『どうしたらそんな自分を元気づけられるのか』を模索します。

そのためには、いろいろなことを経験して、いろいろな“本当の” 自分の感情を知ることが大切。例えば、『イケメンのパートナーが欲しい』と思ったとして、その願いが成就して改めて自分の気持ちを確認してみたときに、その状況が本当に “幸せ”か、それとも意外と満足していなかったのか。もし、満足していないのであれば、心の声に従ってその原因を考えてみるんです。すると、自分がパートナーに求めていたのは顔ではなかったことに気づくかもしれない。

とにかく、自分が喜ぶものはなんなんだろう? 何をしていると楽しいのか? を考えて行動し、それが実現したとき、自分のリアルな感情に気づく。この繰り返しの訓練が必要だと思うんです。

そのためには、やりたいと思ったことはどんどんやればいいと思います。それがもしかして長く続かないものでも、まずはやってみたほうがいい。“三日坊主” なんて言葉に縛られる必要はないんです。だって、楽しいことは自然に続けられるものだから。その自分の野生の感性を信じて。仮に“失敗した”って思っても、それも新たな気づきになるんですから。失敗は前に進むための当たり前のものとして、自分を恥じたりしないで、受け入れるつもりでトライできたらいいですよね」

枯草の中に一凛咲いたタンポポの花

タンポポの種がふわふわ飛んで一輪咲いたのかな? 寂しいというより頼もしい。

心の声を聴き、自分を楽しませるクリエイションで、人生を楽しみましょう

「もし、それに対して批判されたり『自分勝手』と言われたとしても、気にしないでいいと僕は思う。そもそも他人が他人を簡単にジャッジする、人を直そうとすること自体が、大きな問題だと思うんです。どんな人もそうだけれど、直されることを好む人はいませんよね。人が変わるのは、自分がそのことに気づいて変えようと思ったときだけです。

『自分勝手』と『自分の気持ちに素直である』ことは、似ているけれど違います。気になること、やってみたいことをやってみた先に見つかる、自分が喜ぶこと、うれしいこと。それを知らないと、落ち込んだときに自分を元気づけることもできないと思うんです。そして、自分の本当の気持ちを知ることの大切さに気づいたら、他人の感性もできるだけ尊重しなきゃって僕は思ってしまう。そんな心の連鎖と『自分勝手』は、似ても似つかぬものだと思うんです」


人とうまくやっていくために、何かと自分の感情を抑えがちな私たち。でも、自分の感情に素直なのは、決してわがままではなく、素の自分を愛するための大切なプロセスなのかもしれません。

吉川康雄

メイクアップアーティスト

吉川康雄

1983年にメイクアップアーティストとして活動開始。 1995年に渡米。2008年から19年まで「CHICCA(キッカ)」のブランドクリエイターを務める。現在は、ニューヨークを拠点に、ファッション、広告、コレクション、セレブリティのポートレートなど、トップメイクアップアーティストとして活躍中。自身が運営するウェブメディア「unmixlove(アンミックスラブ)」で美容情報を発信する中、2021年春に「UNMIX」を立ち上げる。

撮影/Mikako Koyama 取材・文/藤井優美(dis-moi) 企画・編集/木下理恵(MAQUIA)

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