世界に倣うのがベストではない。独自の発展を選んだほうが魅力が高まるんじゃないでしょうか?
『CHICCA』をやっていた頃、年に6回は日本に来ていました。ホテルから、おもちゃ箱のような景色の東京をパチリ。NYと東京を行き来していると、そのうち自分がどこに住んでいるのかわからなくなります。
収束した、とは言い難いけれど、新型コロナウイルス感染の鎮静化を見据えて、日本でも海外から来る人々の受け入れが始まりました。世界各国で「行きたい国」にランクインしている日本ですが、中で暮らしていると、意外と外からの見え方を知らないもの。40年近くアメリカに住んでいる吉川さんからは、日本ってどんな国に見えるんでしょう?
「僕が働いているインターナショナルなファッション業界はアート業界ととても近しいので、日本文化のプレステージはすごく高い。日本の美意識からインスパイアされてクリエイトされるものが多々あるからです。ただ、一般的に海外から見た日本のイメージは、浮世絵や着物など、昔ながらの伝統的なものが多いんじゃないかな。
そもそも日本は、自国のよさを伝えるのが苦手だなっていうのが僕の意見。海外のジャポニズムも、日本から積極的に発信したのではなく、たまたま旅行者の戦利品や土産として海外に渡って広がっているものが多く、文化に対する説明が日本からはあまりされていないような気がします。これはすごくもったいないこと。その点韓国は、エンターテインメントをはじめ、自国のカルチャーをとても上手に伝えているなあ、と思います。
今、世界的にダイバーシティが叫ばれていますが、島国である日本は地形的、また国民の気質的に、みんながみんなインターナショナルになるのは正直、難しいんじゃないかな。なぜなら、“場の空気を読む”“本音と建て前”など、日本特有の常識というか、慣習があるから。正直、これは世界では理解されにくいですよね。とはいえ、これがあるから、日本は独特の深い文化をつくってきたとも言えるので、否定だけされるべきものでもありません。
現代を生きるうえでダイバーシティはもちろん大切ですが、すべて世界基準に感化される必要はないと思うんです。なぜなら、その国特有の価値や考え方、魅力は、その国の“個性”だから。とかく日本人は“没個性”と言われがちですが、国単位で見たら十分個性的」
日本のモミジが僕の家の裏庭に咲いています。そこに行くと、やっぱり日本を感じます。
「日本は島国という環境下で、知恵を駆使して発展してきたという歴史があります。だからこそ、通り一遍の“グローバル化”」をしようすると、逆に日本のよさが損なわれてしまう気もします。外から見て、特徴ある日本というのは、とてもインパクトがありますからね」
常識に縛られず、いろいろな可能性を探ることで、日本はもっと面白くなるはず!
日本におけるグローバル化は“英語を話して、世界基準に合わせる”ことだと思い込んでいましたが、それが絶対的に正解ではないのかもしれない…とは目からウロコです。
「テクノロジーの恩恵が大きい現代社会だけれど、そのマイナス面として、どの国の印象も同じになってしまった部分もあります。食にしてもファッションにしても、世界中にチェーン店ができるのが最高にいいことなのかな? すでに奥深い文化と思考を持っている日本の強味として、島国ならではの独特な神秘性があり、これを利用することでいろいろなことができる可能性があるのでは、と僕は思います。
そのひとつにアニメや漫画がありますよね。ある意味、クローズドな文化、オタク文化だったものが、今では日本が誇るエンターテインメント、アートとして世界中に認知されています。ひと昔前であれば“オタク”もネガティブな印象でしたが、今はそれも薄れ、どちらかと言えば“その分野に深く入り込み、才能を生かした人”という印象になっている。好きなことを極めるって、自分らしく生きるのにとても大切なことなんだな、と改めて感じますよね。そこが世界の認識と共通だからこそ、グローバルに“オタク”という言葉が理解されたんじゃないかな。
今はすっかり遠のいてしまったけれど、僕が10代の頃に夢中になっていた音楽を続けていたら、もしかしたらすごいことになっていたんじゃないかと思うことがあります(笑)。『楽譜が読めないから無理』と、自分の中の常識で将来を狭めてしまったけれど、もし、そこを『楽譜が読めないから自由』と開き直れたら、未来が変わっていたかもしれません。だからこそ、皆さんも自分の常識に縛られず、いろいろな可能性を探ってみて。そうしたら日本は、もっとユニークで独創的な国になると思います」
何かと閉鎖的なところもある日本。生きていくうえで同調圧力も強く、無意識に自分をセーブしがち…という声も。でも、ちょっと見方を変えてみたら、ほかとは違う魅力にあふれた、いろんな可能性を秘めた国なのかもしれませんね。
取材・文/藤井優美(dis-moi) 撮影/Mikako Koyama 企画・編集/木下理恵(MAQUIA)