会話とは自分と相手とのつながり。一方的な自分語りでは会話が続かないのが当たり前
8月に入り、日本はまさに盛夏! 吉川さんの住むアメリカのコネチカット州は、「こちらも7月ごろからずいぶん暑くなってきていますよ。北海道みたいなところだから、日本ほど猛暑ではありませんが。今は、9月の帰国予定に合わせ、いろいろと準備に明け暮れています」とのこと。お久しぶりにリアルでお会いできる日が来るのかも⁉と、yoiスタッフも楽しみになってきました。
水面に映る空と水草。きれいに映り込み、混ざり合ったその様子はイリュージョンのようです。
リアルと言えば、まだまだ新型コロナウイルス感染の不安はありますが、日本でもオフィスワークに戻る、旅行を楽しむなど、対面で人と会う機会が戻ってきました。久しぶりに会った人たちとついつい話し込んでしまう、という光景があちらこちらで見られる中、「SNSでは盛り上がるのに、リアルでは何を話していいのかわからない」なんて声も…。
「今はSNSがあり、いろいろな人とつながれるけれど、僕はそれがコミュニケーションを取っていることになっているとは思っていません。だってSNSは、自分が一方的にしゃべっているだけだし、そこにレスポンスがあったとしてもタイムラグがあるでしょ。レスポンスだって、自分のことしか話していない場合も多いんじゃないかな。お互いが自分のことしか話していないなら、それは会話にはなっていません。なのに“会話”だと勘違いして、リアルライフにそのまま持ってくれば戸惑うのは当然。会話とは、自分と相手とのつながりだと思うんです」
「人の話を聞くのはとても難しいことだとずっと感じてきました。僕は、メイクアップアーティストとしての仕事や、運営している『unmixlove』を通して、 “話を聞く”ことに関して自分なりに勉強をしてきました。仕事の場合は、そこにお題があるから意外と話すことには困りません。問題は、プライベートで会ったときの会話。“誰かに会う”ということは、根底に“その人に会いたい”という気持ちがあると思うんです。自分が会いたいということは、その人と会話したいわけですよね。そこには相手を知りたいという思いが存在するから。もちろん、自分の話を聞いてほしい、意見を伝えたいという思いもあるかもしれないけれど、前提として、会話をする際には相手の意見をリスペクトする、という気持ちが大事だと僕は考えています」
きれいなスカルプチャーのような小屋を見つけた。つい、中をのぞきたくなる。そんな気持ちでシャッターを切ります。
自分と相手とでは感じ方が違う。その理由をすり合わせようとするから会話が成立するんです
「どんなに気が合う人だったとしても、相手と自分とでは悩み方や感じ方が全然違う。人はとかく自分の話に賛同してもらいたいものだから、違う意見を受け付けにくいこともありますが、自分が会いたくて話している以上、相手の意見を否定するのは違うかな、と思います。
別にリップサービスで肯定しておけばいい、というわけではないんです。相手が自分とは違う意見になったとき『どうしてそう考えるのかな?』と、相手のことを理解したくて質問をします。自分の考えと違うからこそ、質問が出てくるんです。僕はこれをよくやります。意見が違う人に会うということがさまざまなインスピレーション源になったり、勉強になったりする。その気持ちも相手に伝えます。これが僕の会話の基本。
人と話していて感じるのは、興味のポイントが人それぞれ違うということ。だから話を聞いたあとに、『こうしなよ』ではなく、『それ、おもしろいね』と言えると、お互いに会話が楽しく広がっていくんじゃないかな。自分と同じ意見ばかりじゃあおもしろくない。違う意見があるから『えー、そうなんだ!』と発見があって、会話が楽しめる。さらに、自分の感性と近ければ『そうそうそう!』と話も盛り上がるし。会話にはアドバイスはいらなくて、たとえ共通点がなくてもそれを楽しむことが大事だと思います。
人と自分は違うから、仮に相手から異なる意見を押し付けられたように感じても“そうします、変わります”とはなかなかならないですよね。何か言われて、自分の中でその言葉を消化し、納得したときにはじめて人は変わるんであって、否定的なことを言われるだけでは反抗的な気持ちしか出てきません。だからこそ、問い詰めない、追い詰めない、自分の意見をプッシュしすぎないことが大切。
この連載でも何度か話題にしていますが、相手を変えようとした瞬間、関係は悪くなります。それは、自分にとって都合のいい人にしたいだけだから。自分だって相手から否定的な意見を言われたらイヤですよね。自分が言われたくないことは相手にも言わない。この“自分がされてイヤなことは人にはしない”は、僕の中で踏み絵みたいになっています。
そして、最初にもお話ししましたが、会話は “自分が会いたい人”とするのが基本なわけだから、興味のない人には無理やり会う必要はありません。ここが楽しい会話をするための取捨選択ポイントになるんじゃないかな」
自分のことばかり話す人は多いけれど、人はそれほど自分の話を聞きたいとは思っていません
都会のタンポポは、境界線に咲くことが多い感じがします。そして境界線がやわらかくなります。
相手の話を聞きたくて会ったはずなのに、話している最中から自分の話をかぶせてくる人=“会話泥棒”をする人の話もよく耳にします。
「いますね、そういう人。会話泥棒って言うんですね(笑)。自分のことしか話さないで、人の会話は耳に入ってこないというのは、実は多くの人がそうだと思います。ほとんどの人が自分のことしか興味がない。実は僕もそうで、そのことを悩んでいた時期もありました。だって、自分のことばかりでは会話になりませんからね。以来、僕は“人はそれほど自分の話を聞きたいとは思っていない”と考えるようにしました(笑)」
人の話にじっくり耳を傾けるイメージが強い吉川さんが、過去に会話泥棒をしてしまい、そのことを悩んでいたとは意外すぎます!
「近年は、“自分を大切にする”というカルチャーがポピュラーになってきていますが、自分のことだけにフォーカスしすぎると、単に自分勝手な人になってしまう場合も。自分を大切にすることで、相手も自分の気持ちが大切なんだと気づけたらいいですよね。これがないと会話は成り立ちませんよ」
これまであまり考えることがなかったけれど、会話はコミュニケーションの基本。コロナ禍によって、私たちは改めてそのことに気づかされたのかもしれません。リアル会話の難しさは、SNSのように言いっぱなしにできないこと。だからこそ、「相手をリスペクトする」という姿勢を、今一度心にとどめておきたいですね。
取材・文/藤井優美(dis-moi) 撮影/Mikako Koyama 吉川康雄 企画・編集/木下理恵(MAQUIA)