製造工程で、プラスチックをいっさい使用しない世界で唯一のコスメブランド『La bouche rouge(ラ ブーシュ ルージュ)』。“ビューティで世界を変える” を合言葉に、サステナブルなコスメの新しいスタンダードを提案しています。そんな、『La bouche rouge』のファウンダー兼クリエイティブディレクターのニコラス・ジェルリエさんが3年ぶりに来日すると聞き、日本のショールームに伺いました。プロダクトへ込められた思いや、日本から受けたインスピレーション、ニコラさんが考える「美しさ」とは——。

リップスティックは”マニフェスト”。『La bouche rouge』デザイナーNicolasが考える、美しさとは?_1

●La bouche rouge
2017年にパリでスタートしたコスメティックブランド。フランスの職人によってひとつひとつ丁寧に作られたパッケージや、環境に配慮した素材使いなど、ラグジュアリーを追求したものづくりが魅力。2019年に日本に上陸し、セレクトショップやオンラインで展開されている。

子どもの頃から、日本が大好きだった




ーーお会いできてうれしいです! はじめに、今回、ニコラさんはどのような経緯で来日されたのでしょうか。

私は子どもの頃から日本が大好きで、コロナ禍に入ってから3年ぶりに来日できたことを、本当にうれしく思います。2019年に日本でローンチして以来ですが、ブランドの次のステップとして東京に直営店をオープンすることを計画しています。今回は、そのプランニングのために日本に来ました。

ーー滞在中はどこかに行かれましたか?

東京での滞在中は、必ず上野のエリアに行きます。地元の人たちが一丸となって街全体を盛り上げている雰囲気や、伝統工芸品などの職人技を大切にしているところに、すごく惹かれるんです。というのも、『La bouche rouge』のプロダクトも、フランスの職人たちによって手作りされていて、“伝統とトレンドのバランス感”をとても大切にしている。表現法がトレンドだけになってしまうのは、本当の意味でのラグジュアリーではないと信じているからです。日本に来て、その信念を再認識できました。

ーー特に「日本のこんなものから影響を受けた」というものはありますか?

すごくたくさんありますよ。例えば日本庭園。庭師の方が、気温や天候のことも考慮に入れながら手入れをし、素晴らしいクオリティで存続させている。これは、世界的に見てもなかなかできないことなのではないかと思います。

パリの郊外に『ブローニュの森』という公園がありますが、デザイナーであるリュック・アルフォンという庭師も、日本の浮世絵師である歌川広重に影響を受けていたそう。そう考えると、すごく昔からフランスと日本はつながっていたんですね。

製造工程でいっさいプラスチックを使わない、世界で唯一のコスメブランド

ーー『La bouche rouge』は、徹底的に地球環境に配慮してプロダクトを製造されていますよね。

はい。まさにそれが、ブランドの軸になっています。製造の過程で、ゴミはほとんど出さないようにしているし、
プラスチックもいっさい使わない。ラボや工場の電気も、自然のエネルギーからつくったものだけです。私たちは、『La bouche rouge』の製品によって地球全体が変わっていく、というところまで想定しているんです。

ーーそもそも、環境を意識した製品づくりを始めたきっかけはなんだったのでしょうか。

実は私は、このブランドを立ち上げる前は、大企業の化粧品会社に勤めていました。もちろん楽しかった面もありますが、環境や体のことではなく、“ひとつでも多くの商品を売る”という考え方が重要視されていたのが精神的につらくもあった。私には3人の子どもがいますが、第三子が生まれたタイミングで「このままでいいのか」と真剣に考えはじめ、「環境や体を大切にするというメッセージを、自分が納得できる形で世界に発信したい」と思い、ブランドを立ち上げるに至りました。

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リップとリマートフォンなどを入れて持ち歩くことができるレザーケース。もちろん、アップサイクルレザーを使用。21 BAG ¥28,880/La bouche rouge

ーーサステナビリティへの取り組みとしては、具体的にどのようなことをされているのでしょうか。

例えば、リップスティックのパッケージは、プラスティックではなくアップサイクルレザー(他社製品の製造工程で余ったレザー)で作られていて、リフィルを交換すれば何度でも繰り返し使えます。マスカラのボトルに使用しているガラスはリサイクルできるし、新製品のスティックチークやハイライトのパッケージは、生分解するトウモロコシ繊維を使っている。また、多くのコスメには「マイクロプラスチック」という、微細なプラスチックが含まれているのですが、これも一切使っていません。目や口から体内に入ると、有害とされているためです。プロダクトを形成する際の「型」からも、マイクロプラスチックが溶け出す可能性があるため、シリコンなどは使っていません。ここまで徹底しているのは、世界中を探しても『La bouche rouge』だけです。

ーー環境へ配慮した選択をするときに、「まずは、できることから始めたい」と思う一方で、「自分の一歩では何も変わらないのでは…」と途方に暮れてしまうこともあります。ニコラさんも、そのような気持ちになることはありますか?

まず伝えたいのは、誰も完璧にはなれない、ということ。でも、それでいいんです。自分一人のアクションで、世界を一気に変えることは難しいから。でも、リップスティックって、多くの人がだいたい一本はバッグの中に入れていますよね。それが少しずつ変わっていけば、たとえ小さなアイテムでも地球を変えていけるはず。製品を作って終わりではなく、これは私たちのマニフェストなんです。

美しさとは、ヘルシーでいること

リップスティックは”マニフェスト”。『La bouche rouge』デザイナーNicolasが考える、美しさとは?_3

ーーでは、日々美容やコスメと向き合っているニコラさんにとって、「美しさ」とはどのようなものだと思いますか?

世界中、もちろん日本でも、それぞれ肌の色やコンディションは違いますよね。そして価値観も違う。例えばフランスは、多くの人が夏になると日焼けをしたがります。バカンス明けに日焼けをしていることが、ホリデーを楽しんだ証拠、と考えられているからです。逆に日本では、日焼けをしないようにケアを念入りにされていますよね。

だから、美しさに「これ」という正解はないんです。ひとりひとりに、唯一無二の美しさがある。大切なのは、本来持っているその肌が「ヘルシーに保たれている」ということだと思います。『La bouche rouge』では、どんな国籍、年代、性別、肌状態でも、その人にとっての美しさを楽しめるように、製品をつくっています。

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4月21日より発売のチーク。SENSE OF HUMOURの店舗、オンラインにて同時発売。スティックチーク レフィル Nude Red ¥6,500/La bouche rouge

ーー新製品のスティックチーク&ハイライトも、どんな人にでもマッチしそうなカラーリングでした。

チークはどんな肌色・肌状態の方にもなじみますし、ハイライトは自然なつやで、彫刻的な印象が演出できる。もちろんマイクロプラスチックフリー。どちらも、“クリーンな美しさ”を演出するというブランドの理念で設計されています。パッケージも、今回はレザーではなく紙に変更。価格帯も抑えて多くの人に楽しんでもらえるようにしました。繰り出し部分には、100%自然界に存在するアルミニウムを採用し、土に埋めても完全に自然の環境に戻る素材にこだわりました。製品としてすごく新しいものではないですが、環境への配慮と使い心地のバランスを試行錯誤し、完成させるまでに3年もかかったんです!

“La bouche rougeな人=発言力がある人”として、自信を持って自分を愛して

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ーーyoiは、体と心のつながりをコンセプトにしたサイトです。ニコラさんは、どのように体や心のケアをされていますか?

自分自身のことをぐるぐる考えていると、どうしても暗い気持ちになってしまいますよね。でも、家族や友人、環境のことを思って「もしかしたら、こんなことができるかも⁉︎」と考えると幸せな気持ちになるし、心も体も健康になる。だから、私にとっては『La bouche rouge』のプロダクトをつくることがメンタルケアになっているんです。製品を使った人にも、そんなポジティブなエネルギーが伝わってほしいと思っています。

ーー最後にyoi読者にメッセージをお願いします!

『La boouche rouge』というブランド名には、裏のメッセージが込められているんです。フランス語で直訳すると“赤い口紅”という意味ですが、「君、la bouche rougeだね」と言うと、“あなたには発言力がある”という意味になる。皆さんには、“la bouche rouge”な人として、自信を持って、自分を愛していただきたいです!

取材・文/岡島みのり 企画・編集/種谷美波(yoi)