その人の経験は、“たまたまそうだっただけ”。すべての人にその経験が当てはまるわけではありません

ボードウォークと自然との境界線

人が歩くためのボードウォークと自然との境界線が、若い植物で少しずつ埋められていきます。

使い捨てカメラや純喫茶などの「昭和レトロブーム」に続き、平成に流行った曲に振付けしたSNS投稿がバズったり。トレンドは昭和→平成→令和の時代を行ったり来たり。それぞれの時代のいいところや悪いところが俯瞰的に見られたりもして、まさに多様性あふれる時代の象徴のようなブームが起こっています。

そんななかでも感じることがあるのが、ジェネレーション・ギャップ。もちろん今に始まったことではありませんが、違いが当たり前に受け入れられる時代になりつつあるなか、なかなか解決できない問題のひとつです。さまざまな世代と接することが多い吉川さんも、ジェネレーション・ギャップを感じることはありますか?

「ジェンダー・ニュートラルの話にもつながるけれど、『男(女)は男(女)らしく』「女(男)の子なのに』なんてセリフは、昭和世代が若い世代に言いがちで、ある意味、ジェネレーション・ギャップを最も感じさせるセリフかもしれませんね。わかります。そういう言葉を口にする人たちは、その発言の何が悪いのかなんてまったく考えもつかないんじゃないかな。だって、ほんの数年前まではそれが当たり前の価値観で、その常識のなかで生きてきたのだから、普通に口に出してしまう」

家を覆う植物

混じり合わない人と自然のコントラストも、朽ちていくことで自然に還ります。

「人って、自分が経験して、理解して、対処し、自分なりに結論を出したことが正解だと思いがち。例えば、『この仕事はこうやるのが正しい』とか、『こんな人とつき合わないほうがいい』『それはあなたには無理』などなど。相手に失敗をさせないために、自分の経験をアドバイスしようとする。これって一見、相手のことを考えているように見えますが、僕には決してそうとは思えません。あくまでもその人が“たまたまそうだった”だけであって、人には人の数だけ感じ方があるのに、あたかも自分の経験がすべての正解だとばかりに話すのは、やっぱり違うと思うんです。

自分の狭い経験のなかでアドバイスしようとするから、相手からは『そんなこと聞きたくないよ』という反感が生まれるし、そこに上下関係があったりしたら、それが壁になってくるんじゃないかな。『自分のほうがいろいろ経験しているから』が考えのベースでは、どんなアドバイスも一方的になりがちで、そこに会話は生まれにくい。言われたほうは理不尽さを感じ、そこにジェネレーション・ギャップが生まれる。

世の中のルールには、地位の高い人が、他人を従わせるために作っているものも多いと思うんです。それでも徐々に、年齢や属性に関係なく『この考え方はおかしい』と話し合えるようになるといいですよね。それにはやっぱり、経験者の『自分はわかっている』という視点から始まる会話が変わらなければ、難しいかもしれません」

自分の経験の正解をルールにするから、違和感や壁が生まれるんだと思います

野原とコンクリートの境界線

野原とコンクリートの境界線が植物で柔らかく。

「愛にあふれた子育てにおいても、ジェネレーションギャップは生まれます。『失敗させたくないから』は、子どもが成長するきっかけを奪ってしまっているようなもの。経験は絶対したほうがいいのに、『こんなことになっちゃうから』と、先回りしてその機会を取り上げてしまう。我が子とはいえ別の人間なのに、『こんなことになっちゃう、失敗しちゃう』ってどうしてわかるの? 本当に子どものことを考えているのなら、自分の経験なんて語らず、今しようとしていることを一緒に考え、応援してあげたほうがよっぽど有益だと思うんです。

例えば人間は、自分たちがほかの動物より優れていると勝手に考えているけれど、他者とのコミュニケーションの取り方が違うだけで、実はそんなことないと思うんです。どんなにか弱く見える小鳥でも、生きるためのスキルをしっかりと持っているし、会話もしています。不測の事態が起きたときには、意外と人間よりも生き延びたりするかもしれない。これは子どもだって、若い人だって同じ。みんな生きるためのスキルを持っているんです。つまり、年齢を重ねている=経験を積んでいるほうがエラいということはないんですよね」

確かに、昭和、平成、令和と価値観が大きく変わった今、若かりし頃の武勇伝を語る側は気持ちがよくても、聞いているほうは「う~ん」となりがちです。

「どんなに経験を重ねていたとしても、自分が見ているのはどうやっても物事の一部分でしかありません。年齢を重ねても知らないことは多いし、結局、自分がどうにかマルにこぎつけたことが、確かなこととは限らないんですよね」

ジェネレーション・ギャップというと、職場の上下関係や親子関係に生じやすいと思いがちですが、自分の経験をさも正解のように語ってしまうのは、友人やパートナーなど、同世代でもよくあること。「自分の経験がすべての正解であるかのように語らない」ことは、どんな相手とのコミュニケーションでも、大切なことかもしれませんね。

「そう、基本はみんなエゴイストだから、自分の考えや意見を正解にしがち。でも、それをすべての正解として発信すると、やっぱりそこに違和感が生まれる。それは、違うのがジェネレーションだろうが、ジェンダーだろうが同じですよね」

吉川康雄

メイクアップアーティスト

吉川康雄

1983年にメイクアップアーティストとして活動開始。 1995年に渡米。2008年から19年まで「CHICCA(キッカ)」のブランドクリエイターを務める。現在は、ニューヨークを拠点に、ファッション、広告、コレクション、セレブリティのポートレートなど、トップメイクアップアーティストとして活躍中。自身が運営するウェブメディア「unmixlove(アンミックスラブ)」で美容情報を発信する中、2021年春に「UNMIX」を立ち上げる。

取材・文/藤井優美(dis-moi)  撮影/Mikako Koyama 企画・編集/木下理恵(MAQUIA)

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