多様性のある社会に必要なのは「相手を攻撃しないこと」だと僕は考えます

8月に、自身が手がけるメイクアップブランド「UNMIX」の新製品発表のため半年ぶりに日本に滞在し、忙しい日々を過ごしていた吉川さん。今はコネチカット州の森の中にある自宅兼オフィスで、次なるメイクアップ製品を開発中。そんな吉川さんの今回のお話は、”ジェンダーレス・多様性”について、今思うこと。

仕事や家庭での多様な性の垣根をなくし、いろいろな考えが認められることを目的にしたムーブメントだけど、現実はどうなんだろう。このムーブメントの先進国であるアメリカに身を置く吉川さんが語る”ジェンダーレス・多様性”、今回はそれを「どうとらえるか」という、ほんの始まりのお話です。

吉川さんがリモートワークしている森の中の住まい

森は僕の心の平和に不可欠だから、リモートワークができる現代のテクノロジーに感謝!

「”ジェンダーレス”は今に始まったことではなく、さかのぼれば1960年代後半から70年代にかけてヨーロッパやアメリカ、日本などの国々で起きた女性解放運動(ウーマン・リブ)に端を発しているムーブメント。それこそフェミニズムの始まりはここからなんじゃないかな。

男性と同じ権利を女性が必要としているという運動だったのですが、新しいことが起きるときって、往々にして一部に極端な言葉が発信され、それが行き過ぎてしまうために反対パワー、特にこれまで優位に立っていたであろう人たちとの戦いに発展してしまう。でもそれって、1回目にお伝えした”キレイ”の話と同じで、どちらのサイドだとしても優位に立つためのルールを優先しようとするからだと思うんです」

相手にNOと言わず、自分のオピニオンを伝える方法を練習しよう

確かに私たちは、誰かが設けた”こうあるべき””女だから・男だから”にとらわれるがあまり、そのルールから脱する人に対して、もしくは脱しようとしている人に対して、つい躍起になって相手を論破しがち。それはこれまでの自分を正当化するためかもしれないし、自分を守るためかもしれない。でも、それがいい結果につながらないことも、実はみんな気づいています。

「そもそも男性と女性の”体”は違う。これは差別ではなく”性差”のことです。例えば、一生懸命走っても男性のタイムを女性が追い越すのはなかなか難しい。だからといって、男性のほうが優れているというわけではなく、役割が違いすぎて比べようがない。どちらの性も、どんな性も大切なんです。つまり、自分がとらわれている枠をはずす最初のステップは、”違いを認めるということ”。そうすれば自然と性による差別がなくなると思うんです」

吉川さんの家の庭の柵を包むように咲く花

庭を仕切る柵すらも綺麗な額縁にしてしまう花たち

”認めること”は、簡単なようで難しい。相手の考えが自分と違うと、素直に「そうだね」とはなかなか言えないもの。この悶々とした自分の気持ちはどうしたらいいんでしょうか?

「” 認める”ということは、決して自分の意見を押し殺すことではありません。違うからといって自分の考えやエモーションは隠す必要もなく、むしろ相手にそれを伝えることでお互いの存在が尊重される。そうじゃないと、たとえその時は我慢ができたとしても、きっとどこかで爆発しちゃいますから。まわりのバイブレーションを壊さず、自分の感情をいかに出せるか。僕は、大切なのは『相手を攻撃しないこと』だと思っていて。みんなが『自分のオピニオンだけが正しい』と思ったら、そこから戦いになってしまう。自分と意見が違うときでも、相手にNOを出さない。だって“答え”ってひとつじゃないと思うから。僕はこのことを自分との約束ゴトにしています。

とはいえ、相手を否定せずに、自分の意見を伝えるのは難しいのも事実。これは、自分でいろいろなことを感じながら学んでいくしかないんです。

ジェンダー問題に限らず、生きている以上、時代のムーブメントにかかわらない人はいない。「私はこうだから」と、そのムーブメントに流されないと決めたのなら、それはそれでいい。でも、時代は動いているんです。意固地になって抵抗するよりは、その波の中にいるためのムード作りをどんどんしたほうがいいと僕は思うんです。みんな得意なところが違うのだから、自分ができるところを伸ばしたほうが楽しいし、できないところはそれが得意な人とコラボすればいい。そう思ったら“違い”ってなかなか悪くないって思いませんか?

もっと肩の力を抜いて、今、まわりで何が起こっているのか素直な目で見てみて。きっとやるべき答えが見えてくるはずだから」



次回の吉川さんは何を語ってくれるのでしょうか。どうぞお楽しみに!

吉川康雄

メイクアップアーティスト

吉川康雄

1983年にメイクアップアーティストとして活動開始。 1995年に渡米。2008年から19年まで「CHICCA(キッカ)」のブランドクリエイターを務める。現在は、ニューヨークを拠点に、ファッション、広告、コレクション、セレブリティのポートレートなど、トップメイクアップアーティストとして活躍中。自身が運営するウェブメディア「unmixlove(アンミックスラブ)」で美容情報を発信する中、2021年春に「UNMIX」を立ち上げる。

撮影/Mikako Koyama 取材・文/藤井優美(dis-moi) 企画・編集/木下理恵(MAQUIA)