仕事、友情、妊活etc…20代後半から30代のyoi読者には、モヤモヤの種がいっぱい。簡単に解決することではないけれど、マンガを読んでちょっと心が軽くなったらうれしいですよね。『女子マンガに答えがある』などの著書で、マンガを通して生き方のヒントを提示してきたトミヤマユキコさんに、読者から寄せられたお悩みに効く“処方箋”のような5冊を選んでいただきました。
『しあわせは食べて寝て待て』が描く、そこそこだって悪くない人生
お悩み:正社員じゃない自分に焦りを感じています。もっと多様な生き方が知りたいです。
「現在フリーターの25歳です。将来の姿が見えなくて悩んでいます。独立とか起業のような、大きくてすごいものではなくて、もっと小さくて多様な生き方を知りたいと思っています」
トミヤマ's 処方箋:水凪トリ著『しあわせは食べて寝て待て』
水凪トリ著『しあわせは食べて寝て待て』(秋田書店)
トミヤマさん:正社員でも、独立や起業のようすごいでもなく、もっと小さくて多様な生き方を知りたいというあなたには、水凪トリ先生の『しあわせは食べて寝て待て』を処方したいと思います。
病気がきっかけで都心のマンションから団地へ引っ越した主人公の麦巻さんは、最初は、お年寄りがたくさん住む団地特有の人間関係に不安を覚えるのですが、お互いがゆるくつながり支え合うコミュニティのなかで、マイペースに働き、健康に気をつけながら生きていくことも悪くないということにだんだんと気がついていきます。
そして、有名になるわけでも、すごいお金持ちになるわけでもないけれど『私の生き方は、これで大丈夫そうだ』という確信を得るのです。
このマンガを読む前は、“出世を目指して頑張らないといけない”、“出世街道から外れたら終わり”という強迫観念を持っていた男性たちも、不測の事態に見舞われた麦巻さんが、現状に絶望することなく、人生をソフトランディングさせていく姿を見て、違った価値観があることに気づく。「まわりの人たちとのコミュニケーションを大事にして、うまくコミュニティの中でやっていけたら、思ったほど不幸を感じずに生きられるんじゃないかと思った!」と熱く語ってくれるんです。
相談者さんも、現在25歳ということで、ちょうど若者から大人になる年齢に差し掛かり、「これから先どう生きていけばいいんだろう」という不安や恐怖を感じていると思うのですが、「それはあなたの悩みであると同時に、あなたとは一見別の世界にいるように見えるサラリ-マン男性が抱えがちな悩みでもある。まわりに同じ悩みを抱えた仲間は意外といるものだ」ということをお伝えしたいです。
元気がモリモリと湧き出てくるマンガではないけれど、どんな状況に陥っても、人生をうまく泳いでいくやり方はあることを教えてくれるマンガです。
『胚培養士ミズイロ』で、不妊治療のリアルを知る
お悩み:仕事と妊活、どちらを選ぶべき?
「現在32歳で社会人10年目。仕事にはある程度満足した結果が出せたので、まだ体力もある今のうちに転職や部署移動などで別のことにもチャレンジしてみたい…と思っています。そして、妊活・出産をするタイミングもそろそろ考えなければとも思っています。ただ、今妊娠してしまうと、仕事でチャレンジしてみたいことができないのではないか…そのジレンマで、日々悩んでいます」
トミヤマ's 処方箋:おかざき真里著『胚培養士ミズイロ』
おかざき真里著『胚培養士ミズイロ』(小学館)
©おかざき真里/小学館
トミヤマさん:まず、いただいたお悩みを読むと、仕事に関することからは、「やりたい」という願望を、妊活・出産については、「せねば」という義務感を強く感じました。つまり、仕事と妊活・出産、この2つが同じ熱量で天秤にかかっていないんですね。さらに、この2つのどちらか一方に全振りしなければならない、と二者択一で考えている印象を受けます。そんなあなたに紹介したいのが、お仕事マンガの名作『サプリ』の作者、おかざき真里さんが、不妊治療の最前線の現場を描いた『胚培養士ミズイロ』です。
腕利きの胚培養士である水沢さんのクリニックには、死期が近いおばあちゃんにどうしてもひ孫の顔が見せたくて治療を頑張っている人や、血筋を絶やさないために子どもを産もうとしている梨園の妻など、さまざまな事情を抱えた人が訪れます。そのなかに、女優をやりながら不妊治療を続けている人がいるんです。相談者さんには、この話を特に読んでいただきたいです。
仕事と不妊治療を同時並行することは、すごく大変なこと。でも、それに取り組んでいる人がいる。相談者さんも本当に、仕事と妊活のどちらかを取って、どちらかを捨てなければいけないのか、また、自分はどうしたいのかをこの女優さんのケースを見て、今一度考えてみてはいかがでしょうか。
ここからはちょっとネタバレになりますが、この女優さんは、どちらかひとつではなくて、不妊治療と仕事の両輪があるからこそ、前進できる人として描かれています。やりがいのある女優の仕事も続けていきたいけれど、子どもを産むこともあきらめたくない。この2つの願いは、彼女に二者択一を迫るものではなくて、彼女の背中を力強く押し、前に進む力をくれるガソリンなんです。
相談者さんも、自分の願望、つまり「I want」の「want」の部分が何であるかをマンガで再確認して、その「want」を大事にするためにはどうすればいいか作戦を立ててみてはどうでしょうか。そうすれば、今いる暗いトンネルみたいなところから抜け出せるかもしれないなと思います。
『スキップとローファー』に学ぶ、相手と自分の“違い”の面白がり方
お悩み:大人になってから、地元の幼馴染と話が合わなくなってしまった
「26歳です。友人と話が合わなくなってしまったことに悩んでいます。幼稚園からの幼馴染は、みんな地元で就職していて、私だけ上京しています。話が合わないなと感じたのは社会人になってからです。実家暮らしで結婚も考えている地元の友人たちと、東京で一人暮らし、恋愛話は無いもののある程度キャリアアップに向けて仕事をしている私、といった形で、ライフステージや環境のズレがここに来て大きく違うように感じてしまい、話が合わないなと感じることが多くなってしまいました」
トミヤマ’s 処方箋:高松美咲著『スキップとローファー』
高松美咲著『スキップとローファー』(講談社)
トミヤマさん:相談者さんは、地元が一緒とか、小さいときから一緒にいるとか、「同質性」で友達かどうかを判断しているように感じました。つまり、同質性を持っていない人とは友達になれないと考えているのではないかなと。でも、それって本当でしょうか。世の中には、生き方や考え方が違っても、仲良くなれる相手がきっといるはずです。
現在26歳とのことですが、ライフステージの変化が激しい20代後半から30代に突入する前に、“自分と相手の違いを面白がる練習”をしておくとよいかなと思います。まったく似てない誰かと、お互いの違いを受け入れて、友達になる経験ができたら、同質性をもって友達になった人との間にズレが生じたときも、うまく軌道修正できる可能性がありますよね。そこで、高松美咲先生の『スキップとローファー』をおすすめしたいと思います。
この作品で描かれる、まったくタイプの異なる女子高生たちが仲よくなり、共に支え合い、切磋琢磨しながら生きていこうとする姿が素晴らしい! 特に、バラバラの個性への向き合い方が上手なみつみちゃんから、“違うこと”の受け入れ方や、折り合いのつけ方、面白がり方を学んでみてください。
私が開催しているマンガ講座でこの作品を紹介すると、50代の方が泣きながら読んでいるということも。どうせ高校を舞台にキラキラした恋愛を描いた少女マンガでしょ…と思うかもしれませんが、騙されたと思って読んでみてください。本当に心が洗われる作品ですので。
『シジュウカラ』に励まされ、自己肯定感と主体性を取り戻す
お悩み:離婚してから人間不信に。このままずっと孤独なのかと不安です
「30歳です。元夫に浮気をされて離婚して以来、恋愛することが怖いです。アプリなどで何人かとデートしたり付き合ったりしてみたものの、相手が体の関係目的だったり、すぐに連絡が取れなくなって自然消滅したりしてしまい、より人間不信に陥ってしまいました。このまま一人で、結婚もせず子どもも生まず生きていくのかな…と思うと不安でいっぱいになります」
トミヤマ's 処方箋:坂井恵理著『シジュウカラ』
坂井恵理著『シジュウカラ』(双葉社)
©坂井恵理/双葉社
トミヤマさん:相談者さんは、“元夫に浮気をされたことによる呪い”を、まだ断ち切れていないような気がします。それゆえに人間不信になっているところがあるのではないでしょうか。だからまず、その呪いから解放される必要があるかなと。ご本人は、心の扉を開いているつもりかもしれませんが、文面を見る限りは、また以前のように傷つくのが怖くて、扉を上手く開けられていない。半ドア状態になっているように思います。それゆえ、新しい相手と出会っても、上手くいかないということを繰り返してしまっている気がします。
また、誰かと生きることで、過去を断ち切ろうとしている様子を見ると、一人でいる今の自分のことが、あまり好きではないように感じます。そんな相談者さんには、坂井恵理先生の『シジュウカラ』をおすすめします。タイトルの通り、物語は40歳からの話。自己肯定感がかなり低い主人公が、自分のことを好きになり、主体性を獲得していく姿が描かれます。
自己肯定感や主体性を、“家族”という存在に頼らずに、自分のスキル=マンガの力で回復していき、さらには、自分から好きだと思える存在を見つけて恋をする。主人公の人生は、40歳から大冒険の様相を呈していきます。でも、最初から冒険に向いているタイプとしてではなく、いい意味でも、悪い意味でもどこにでもいそうな人として描かれているところがいい。ごく普通の人が、だんだんと家族にも意見できるようになって、ちょっとずつ人生の主導権を取り戻していく。その主人公の成長ぶりに励まされるんです。
『服を着るならこんなふうに』で出会う、“変われる自分”の楽しさ
お悩み:太っている自分が好きになれない…
「太っている自分の見た目が好きになれません。
ダイエットをしてもうまくいかず、ますます自分が嫌いになります」
トミヤマ's 処方箋:縞野やえ著・企画協力 MB『服を着るならこんなふうに』
縞野やえ著・企画協力 MB『服を着るならこんなふうに』(KADOKAWA)
(c)縞野やえ・MB/KADOKAWA
トミヤマさん:「太っている自分の見た目が好きじゃない」。この悩みは、多くの人が1度は抱いたことがある悩みなんじゃないかと思います。私は相談者さんの文章を読んだときに、「ますます自分が嫌いになる」という部分が気になったのですが、これって、“太っている自分”ではなく、“変われない自分”が好きじゃないのではないでしょうか。だからまずは、痩せる以外の方法で、“自分が変われること”、また、“変わること”がどれほど面白くて、ドキドキすることかを味わってみるとよいと思います。
そんな相談者さんには、『服を着るならこんなふうに』を処方します。
このマンガは、ブランドショップで高いものを買えばおしゃれになれるわけではなくて、「ユニクロ」でも人はおしゃれになれる。ファッションにおいて重要なのは、自分のスタイルに合う服選びだと伝えています。
この作品は、主人公が男性というのもポイント。女性の主人公がきれいになる話だと、この人は私より痩せているとか、私よりきれいだ…とか、同性であるがゆえに比べてしまい、参考にするよりも前に落ち込んでしまうといったケースも多いと思います。しかし、この作品は、異性が変化する姿を描いているので、変に比べて落ち込むことを回避できると同時に、「彼らがここまで変われるのなら私も変われるかも」と思えるんじゃないかなと。
ダイエットを考える前に、まずはこの作品を読んで、今の体型でも魅力的に変身できることを実感してもらえたらうれしいです。