今日はごろごろしながら部屋で配信ドラマが観たい! そんなときは日本ドラマの過去作を観るのはいかが? SNSで話題のドラマウォッチャー、編集者の綿貫さんが今回紹介してくれたのは、ごはんを食べることを通した「セルフケア」を描いた作品。疲れている日こそ観たい、3作品の魅力を語ってもらいました。

綿貫大介
綿貫大介

編集者、コンテンツディレクター、ライター、テレビっ子。エンタメを中心としたカルチャー分野で編集・執筆をしているほか、コンテンツ制作や企業ブランディングも行う。『ボクたちのドラマシリーズ』などZINEも精力的に制作。

「かしましめし」(2023年放送)

3人が集まることで1対1では生まれない「ケア」が芽生える

ドラマ 綿貫大介 かしましめし

STORY
前田敦子演じる千春と、成海璃子演じるナカムラ、塩野瑛久演じる英治の3人は、同級生の自死をきっかけに再会。それぞれの人生に悩みながら食卓を囲み、やがて一緒に暮らすことになる。

綿貫さん:多くの人が憧れを持っているであろう、「美大」卒の同級生という設定が秀逸です。ただ、主要登場人物たちはみんな苦悩を抱えていて、キラキラした要素はありません。

千春(前田敦子)は、憧れのデザイン事務所に入社したものの、上司からパワハラされて心を病んで退職。ナカムラ(成海璃子)は婚約者から婚約破棄された挙句、左遷までされてしまう。そして、英治(塩野瑛久)は彼氏との関係がうまくいっていないという状況。まさに3人そろって、仕事も恋も人間関係も大きな壁にぶつかっています。

そんなボロボロになったアラサーたちが、ひょんなことから共同生活をするという最高のフォーマットを用いた物語です。「ひょんな」って言葉、いいですよね。

このドラマのカギとなっているのは、タイトルにもあるように、かしましい会話とごはん。「丁寧な暮らし」に寄りすぎていないけれど、決して栄養補給という意味ではない食事の側面が細やかに描かれています。

たわいもない会話と、おいしい食事を通して、心の傷を少しずつ癒していくという、まさに今私たちが観なくてはいけない物語のひとつだと思います。男女二元論の枠組みを軽々と超えて、性別に関係なく寄り添って生きていく3人の様子に元気をもらえるはずです。 

「かしましめし」
出演者:前田敦子、成海璃子、塩野瑛久ほか
U-NEXT、TELASAほか各種動画配信サービスにて配信中

「ランチの女王」(2002年放送)

おいしいごはんとあたたかい居場所が心を癒してくれる

ドラマ 綿貫大介 ランチの女王

STORY
30年以上続く洋食店「キッチンマカロニ」を舞台に繰り広げられる、竹内結子演じる麦田なつみと店を切り盛りする鍋島一家との、笑いあり、涙あり、恋愛ありのホームラブコメディ。

綿貫さん:大傑作ラブコメのひとつですが、セルフケアとしてのごはんを描いた作品としてもはずせません。

麦田なつみ(竹内結子)が抱えていた、父親に捨てられてしまった過去や、大切な人に騙されて違法薬物の運び屋として犯罪に加担させられてしまったトラウマが、「キッチンマカロニ」という場所によって、和らいでいきます。

「キッチンマカロニ」の鍋島四兄弟を演じるのは、堤真一、江口洋介、妻夫木聡、山下智久、そして住み込みの見習いコックは山田孝之。びっくりするくらいの豪華キャストなのも見逃せません。それにしてもすごいメンバーです!

「yoi」の読者世代は、小さな頃に「ランチの女王」を観たことがある方が多いと思います。大人になった今改めて観ると、血のつながりはなくても「家族」であること、おいしいごはんとあたたかい居場所が心を癒してくれることをこの物語は伝えたかったことに気づくでしょう。

また、コロナ禍を通して、大切なお店がいつまでもあるわけではないという現実と向き合うことになりましたよね。通わないと、どんなお店だってなくなってしまう。そんなことも改めて教えてくれる作品です。

竹内結子がオムライスを食べるシーンだけでも観てほしい! このドラマのプロデューサーを務めていた山口雅俊さんは、のちに伊藤理佐さんの原作漫画をもとに「おいハンサム!!」を制作。2024年に公開された映画版について「竹内結子に捧げる気持ちで作りました」と語っています。 

「ランチの女王」
出演:竹内結子、江口洋介、妻夫木聡、山下智久、堤真一ほか
FODほか各種動画配信サービスにて配信中

「弁当屋さんのおもてなし」(2023年放送)

迷えるお客さんたちを次々幸せにしていく「魔法のお弁当」

ドラマ 綿貫大介 弁当屋さんのおもてなし

STORY
縁もゆかりもない北海道への転勤が決まり、そのうえ彼氏の二股をかけられていたことがわかり心がボロボロになってしまった久保田紗友演じる小鹿千春は、飯島寛騎演じる大上ユウが作った弁当を食べたことで癒される。

綿貫さん:弁当屋さん「くま弁」の店員である大上ユウ(飯島寛騎)は、客の気持ちに寄り添った「魔法のお弁当」を作れるという設定。北海道テレビ(HTB)開局55周年特別企画で制作された作品で、全編北海道ロケで撮影されています。

ユウは、悲しみに打ちひしがれた状態で訪れた小鹿千春(久保田紗友)に、注文したものとは違う、千春が「今本当に食べたい」おかずを詰め合わせた弁当を提供し、傷ついた心を慰めます。

これだけ聞くと「注文と違うものを勝手に作るとかやばくない……?」と感じるかと思うんですが、それはご愛嬌。お弁当を通して迷えるお客さんたちを次々と幸せにしていくので「魔法のお弁当」と呼ばれて愛されています。

『深夜食堂』のように、主人公が作ったものを食べた人が、元気になっていくという設定はよくありますが、この物語の面白いところはその食事がお弁当であるという点です。

お弁当は、移動中であったり、思い出の風景が広がる場所だったり、好きな場所、好きな時間で食べられるんです。その特徴を生かした映像がとにかく素晴らしい。ハートウォーミングなストーリーと、北海道の美しい景色、そして地元の食材をふんだんに使ったお弁当の組み合わせ、いいに決まってますよね。

ある悩みから占いができなくなってしまった人気占い師・カタリナ(遠藤久美子)が、ユウの作ったホッケ弁当を海辺で泣きながら食べるシーン(シーズン1の第3話)は必見です。 

「弁当屋さんのおもてなし」
出演:久保田紗友、飯島寛騎、戸次重幸ほか
U-NEXTほか各種動画配信サービスにて配信中

イラスト/よしいちひろ 取材・文/高田真莉絵 構成/渋谷香菜子