日本気象協会によると、今シーズンの花粉飛散傾向は、例年に比べ、九州・四国・中国・東海・北陸・関東甲信はやや多い、近畿・東北は多い予想、北海道はもともとスギの木が少ないですが、例年よりは多く飛散する予想です。飛散の開始も全国的に暖冬傾向なので、例年より早めですね。花粉症治療は先手必勝。花粉症治療の第一人者、耳鼻咽喉科専門医、大久保公裕先生に治療について伺いました。
日本医科大学大学院医学研究科頭頸部・感覚器科学分野教授
日本医科大学卒業、同大学院耳鼻咽喉科卒業後、アメリカ国立衛生研究所留学、日本医科大学医学部講師、准教授を経て、2010年より教授。花粉症、特に舌下免疫療法など新しいアレルギー性鼻炎の治療、研究を進めている。著書に『シリーズ専門医に聞く「新しい治療とクスリ」4 花粉症』(論創社)ほか多数。
重要なのは、花粉がたくさん飛ぶ前に薬を飲み始めること
増田:いよいよ、つらい花粉シーズンが来ましたが、薬で凌げばなんとかなるでしょうか?
大久保先生:重要なのは、薬を飲み始めるタイミングです。最大の効果が現れるのに1週間程度かかり、ひどい症状が出てからでは効果が出にくいのです。そのため、花粉がたくさん飛ぶ直前から薬を飲み始める「初期療法」が非常に有効です。症状を軽くし、症状が出る時期を先のばしできて、薬の量も減らせます。
増田:今、症状をあまり感じていなくても、花粉は飛び始めていますから、すぐに飲み始めたほうがいいのですね。病院での治療は、今どのように行われていますか?
大久保先生:病院ではまず、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、目のかゆみなどの症状がアレルギーなのかどうか? を調べます。アレルギーだとわかったら、花粉症なのか、ダニやハウスダストなどのほかのアレルギーなのかを調べます。花粉がアレルゲンだとしても、スギなのか、そのほかの植物(ブタクサ、ヒノキほか)なのか、も特定します。アレルゲンの特定は、病院で「皮膚反応検査」で調べます。また「血中IgE検査」で抗体を調べると、将来発症するかどうか、いつ頃発症するかどうかもわかります。
アレルゲンが特定できたら、それに合わせて、治療薬を処方します。後ほどご紹介しますが、根治療法である「皮下免疫療法」や「舌下免疫療法」を行うこともあります。
花粉症は何歳になっても突然発症することがあります。なぜ、発症する人としない人がいるかはわかっていません。アレルギーは、体質遺伝的な要素が大きいので、両親ともに花粉症の人は6~7割が花粉症を発症します。ただし、両親ともに花粉症がなくても、約3割の人は発症します。ですから、現時点で花粉症を発症していなくても、将来、発症する可能性は誰にでもあります。今、花粉症でない人も気をつけるに越したことはありません。
進化した抗ヒスタミン薬は、副作用がかなり軽減
増田:薬局、薬店、ドラッグストア(以下、薬局)で買える市販薬(スイッチOTC)と、病院の処方薬では、効果が違うのでしょうか?
大久保先生:医師から処方される医療用医薬品のうち、副作用が少なく安全性の高いものを市販薬(OTC医薬品)に転用(スイッチ)したものを「スイッチOTC医薬品」と言います。
現在、病院の処方薬と、薬局で買える市販薬(スイッチOTC)の成分は、同じものが多いのですが、数多くの薬の中から副作用を最小限にし、自分に合った薬を選択するには、まず耳鼻咽喉科で診断を受けましょう。病院では、症状の度合いや出方、ライフスタイルを総合的に判断し、最適な薬を処方しています。
増田:花粉症の薬というと、眠気、口の渇きなどの副作用が気になりますが、今のお薬はどうなのでしょうか?
大久保先生:近年、花粉症治療薬は、どんどん進化しています。くしゃみ、鼻水、目のかゆみを抑える「抗ヒスタミン薬」は、以前はよく効く半面、口の渇きや眠気の副作用が気になりました。
けれども、「第2世代」の抗ヒスタミン薬が出て、副作用がかなり軽減されました。また、「遊離抑制薬」というヒスタミンを出にくくする薬は、副作用がさらに少なく、くしゃみ、鼻水に効きます。このほか、鼻づまりに効く「抗ロイコトリエン薬」、点鼻として使う「血管収縮薬」、症状が強いときに使う「鼻噴霧用ステロイド薬」などを組み合わせることで、症状をさらに軽減できます。
また、2019年に医師処方薬で、皮膚に貼るタイプの薬「アレサガテープ」が出ました。この薬は、血中濃度の上昇が飲み薬に比べて緩やかなため、眠気の副作用が出にくく、効果が安定して長い効き目が期待できるという特徴があります。皮膚に貼るタイプのアレルギー性鼻炎、花粉症治療薬は世界初です。
現在、第2世代の抗ヒスタミン薬のスイッチOTC医薬品には、下記のようなものがあります。
【スイッチOTCで発売されている、眠気と口の渇きが起こりにくい第2世代の抗ヒスタミン薬】
※当該成分で最も早く発売されたOTCを掲載
※2006年以前は、メキタジン(4mg)が内服アレルギー薬として1990年に承認を取得しOTC薬が販売されているが、発売年月は不明
出典:①日本OTC医薬品協会 内閣府 規制改革推進会議医療・介護ワーキング・グループヒアリング②各社HP等
【第2世代抗ヒスタミン薬の強さと眠気の関係】
参考資料/『シリーズ専門医に聞く「新しい治療とクスリ」4花粉症』(論創社)大久保公裕著
花粉症の根治療法、皮下免疫療法と舌下免疫療法とは
増田:花粉症を根本的に治したい人向けには、根治療法がありますが、どのような治療なのでしょうか?
大久保先生:根治療法には、「皮下免疫療法」と「舌下免疫療法」があります。これらは花粉が飛び始める前に行う必要がありますから、来シーズンのための治療になります。
皮下免疫療法は、アレルゲンを含んだエキスを皮下に注射する治療法で、初めの3か月ほど週1~2回の通院が必要ですが、それ以降は1か月に1回の注射治療です。効果が出るまで約半年ほどかかり、治療は2~3年続けます。
スギ以外にもイネ、ブタクサなど複数のアレルギーがある人は、注射で治療します。皮下免疫療法のみの費用の目安は1回あたり約600円(3割負担の場合。診察料などは別)で、ほかの治療と比べると比較的安価です。
舌下免疫療法は、スギ花粉のアレルゲンを含んだ薬剤を毎日、舌の下に置き、口の中に1分そのまま溶けるまで放置しておく治療法です。ほかにダニアレルギーの人の用もあります。治療開始時期は、花粉シーズンが終わったあとの夏、秋口からが目安です。最初は2週間後に、その後は月1回通院し、3~5年間継続することが必要です。費用の目安は、診察料、薬剤料で年間2万4千円程度です。
舌下免疫療法のこれまでの臨床試験では、症状がまったく消えた、大幅に軽減した人は併せて80%を超え、鼻だけでなく目の症状も改善されました。一方で、効果がなかった人が10%以下おり、いくらかでも症状が残る人がいることも確認されています。しかし、患者さんの中には、症状が完全になくならなくても、飛散量がピークのときの重い症状をなんとかしたい方もいます。舌下免疫療法によって、抗ヒスタミン薬の対処療法だけでない選択肢が増えたことは確かです。
ほかには、鼻の粘膜にレーザー照射し1シーズンだけ症状を抑える「レーザー手術」などもあります。これも花粉が飛び始める前に行うと効果的な治療です。
増田:自分の症状を見極めて、対処療法か、根治療法かを賢く選択することが大切ですね。同時に前回紹介したセルフケア(⇒Vol.81で紹介)もしっかり行うことが、最先端の花粉症の撃退方法だということがよくわかりました。
取材・文/増田美加 イラスト/大内郁美 企画・編集/木村美紀(yoi)