年齢、身体の硬さなどに左右されることなく、誰でも簡単にでき、不調の改善を感じることができる「ハンナ・ソマティクス・エクササイズ」。日本で唯一(!)の公認ハンナ・ソマティック・エデュケーターとして活動をしている平澤昌子さんにエクササイズのやり方をレクチャーしてもらい、yoi編集木村とライター菊池が体験しました!
「ハンナ・ソマティクス・エクササイズ」とは?
アメリカ出身のトーマス・ハンナ博士によって生み出された、神経生理学に基づく独自の技法のエクササイズ。心と身体は密接につながっているものとして、身体を動かすときに、身体の中で何が起こっているのかということに意識を向けながら動くボディワークを提唱し、従来のエクササイズとは違う、心と身体の統一を目指したものとして誕生。一度収縮させた筋肉をゆっくり戻していく過程で、脳の運動皮質を使い筋肉をリセットするための動きを行う。
公認ハンナ・ソマティック・エデュケーター、公認心理師、臨床心理士、心理学博士
心理学を学ぶためにアメリカに留学し、ヨガ心理学の講座で、ハンナ・ソマティクスを初めて体験。帰国後、精神科心理士として勤務しながら、ハンナ・ソマティクスのトレーニングを受講するため3年間、日本とアメリカを往復。2008年にトレーニングを終了し、公認ハンナ・ソマティック・エデュケーターとなる。2011年にはセイブルック大学院で心理学博士号を取得。現在は自身の主催するプレシャス・ソマティクスのオンライン講座を開催している。
毎日15分やるだけで不調が改善! 簡単すぎる「キャット・ストレッチ」
──「ハンナ・ソマティクス・エクササイズ」は、どんなときに行うのが効果的なのでしょうか?
平澤さん:「ハンナ・ソマティクス」は、毎日継続して行うことで、これまでに溜まったストレスを解消するだけでなく、日々のストレスを身体にためず解消していくことができます。15分ほどでできる「キャット・ストレッチ」というプログラムがあるので、日々の暮らしの中に取り入れてみてください。朝にやれば1日がスッキリした気持ちで始められるし、夜やれば使った筋肉の疲れをリセットすることができます。朝晩2回行えると理想的ですが、最初はどちらかだけでもかまいません。
──初心者でもできる「キャット・ストレッチ」のメニューを教えてください!
平澤さん:今回紹介する「キャット・ストレッチ」は6つの動きを順番に行っていきます。それぞれ3回繰り返し行うのがおすすめです。
①アーチとフラット
②アーチとカール
③うつ伏せでアーチ
④斜めのアーチとカール
⑤体幹の側屈
⑥体幹のひねり
まずはあお向けになり、身体の状態を確認!
平澤さん:まず始める前にあお向けになって今の状態を意識するところから始めてみましょう。肩、肩甲骨、背中や腰がどんなふうに床に接しているのか、左右で違いがあるのか、呼吸の深さなどを確認しておくと、終わった後に違いがよくわかります。体が疲れている人は力が入っているのでマットから離れている部分が多いんですよ。
木村:最近、肩こりがひどくなってきているせいか、やっぱり肩が浮いている気がする。どう変わるか楽しみ!
「ハンナ・ソマティクス・エクササイズ」のキャット・ストレッチを実践!
平澤さん:ではここから、実際に「キャット・ストレッチ」をやっていきましょう。ポイントは、「ゆっくりと意識して筋肉を緩めていく部分が大切」ということです。
【キャット・ストレッチ①】アーチとフラット
平澤さん:あお向けになり両膝を立て、足は腰幅くらいに開いてください。まず息を吸ってお尻を床に軽く押し付けながら、背中から腰にかけての筋肉をアーチ状に反らせて収縮してください。この感覚がわかりづらい人は、お尻の真ん中にある尾骨をマットに立てる感じで動いてみてください。そうするとベルトラインの上あたりの背中がちょっと浮く感じになります。そこから背中を意識して、息を吐きながら元の状態へとゆっくりと戻します。
今度はお腹をびたーっとマットに押し付けます(フラット)。尾骨は膝の方に持ち上げるイメージです。その後、意識しつつお腹を緩めながら元の状態に戻します。
菊池:尾骨は、お尻の割れ目の少し上にあります! 触ってみると、丸っぽい骨があるのがわかります。
【キャット・ストレッチ②】アーチとカール
平澤さん:両膝を立ててあお向けになり、頭の後ろで手を組みます。息を吸いながらゆっくりと尾骨をマットに立てる感じで背中をアーチ状に反らしたら、息を吐きながらゆっくりと背中を元の位置に戻し、続いて上半身を少し起こして腹筋を収縮させます。このとき、上半身は思い切り上まであげる必要はありません。腹筋が収縮していることを感じることが重要なので、少しだけ上げればOKです。腹筋が緩み体がラクになるのを意識しつつ、ゆっくりと元の状態に戻します。
【キャット・ストレッチ③】うつ伏せでアーチ
平澤さん:うつ伏せになります。顔を右に向け、右手の甲の上に左の頬を乗せ、左手はお尻のそばに伸ばしておきましょう。息を吸いながら右手、右肘、頭(右半身)と、左足を上げます。縮めながら背中右側に力が入っていることを意識してください。頭は右肩越しに後ろを振り返るように上げ、左足はまっすぐ伸ばしたまま上げてください。
その後、息を吐きながらゆっくりと下ろしましょう。これを3回繰り返したら、左側も同じように3回繰り返します。これも頑張ってたくさん上げようと思わないで、ラクな状態で行ってください。
【キャット・ストレッチ④】斜めのアーチとカール
平澤さん:③で背中を反る動きをしたので、今度は丸める動きを行います。両膝を立ててあお向けになります。まずは①でやったように、息を吸いながら背中にアーチを作ります(尾骨を床に立てるイメージ)。ゆっくり戻ってきたら、右手を頭の下に置き、左手で左膝を抱えます。息を吐きながら左足をお腹のほうに寄せ、頭を上げながら右肘を左膝のほうに寄せてください。肘と膝をつけるのではなく、寄せる感覚がわかる程度で大丈夫です。ゆっくりと腹筋の収縮を緩めながら元の位置に戻ります。これも右側を3回繰り返したら、左側も同様に3回繰り返してください。
菊池:通常のエクササイズであれば上半身をもっと起こしてグッと脇腹を捻るけれど、ソマティックではNGなんですね…! 筋肉を使っている感覚は、これくらいでもわかります。
【キャット・ストレッチ⑤】体幹の側屈
平澤さん:今度は脇腹と腰の筋肉を使います。右半身を上にして左側を向いて横になったら、左腕を伸ばしてその上に頭を乗せてください。両足は直角に曲げて椅子に座っているような形にしましょう。右手を左の側頭部に置いて頭を支えたら、ゆっくりと上半身を上げてください。同時に、両膝をつけたまま、右の膝下を上げてください。右の脇腹が収縮していることを感じられると思います。息を吐きながらゆっくりと上半身と右足を下ろしてください。これも右側3回、左側3回ずつ行います。
【キャット・ストレッチ⑥】体幹のひねり
平澤さん:最後に身体をひねって、体幹の筋肉を柔らかく伸ばして終わります。両膝を立ててあお向けになり、両腕は左右に水平に広げます。このとき、右手のひらは天井に向け、左手のひらは伏せてください。息を吸いながら両膝を左側に倒し、反対方向に首を回します。筋肉が伸びていることを感じられればOKなので、ストレッチのように伸ばさないよう気をつけてください。息を吐きながら、両膝と頭を元の位置に戻したら、次は反対側も同じように行います。これは片側ずつではなく交互に6回行ってください。慣れてきたら手のひらを返すとき、肩甲骨から動かすようにゆっくり回すと効果がアップします。
これでひと通りの「キャット・ストレッチ」が終了しました。最初と同じように両手両足を広げてあお向けになり、最初とどれくらい変わったかを感じてみてください。
木村:なんだか身体が軽くなった気がする!? 初めに寝転んだときに感じていた疲れがスッキリしている感じがします。たった1回の「ソマティック・エクササイズ」で、こんなに変わるとは思ってなかった!
菊池:身体の凝りを解消するのに必要なのは、ストレッチやマッサージだと思っていたけど、その考えを根底から覆された感じ(笑)。
木村:わかる! 身体が硬くても運動が苦手でもできるのもいいよね。
菊池:手軽にできて効果絶大って最高。逆に運動習慣のある人は、ストレッチのように身体を使ってしまうから、最初は大変かも(笑)。
木村:力を入れないことが大切だからね。だからこそ疲れた夜でもできるし、習慣化しやすいのかも。
菊池:確かに! 筋肉の動きに意識を集中することで無になれるのもいいね。
木村:そうだね。エクササイズ中、マインドフルネスのような効果も感じた! 1回でこれだけ効果を感じられたのだから、続けたらどうなるのか楽しみ!
菊池:まずは3日、1週間、10日と、頑張ろう!
【番外編】疲れ目&肩こりに効く「ソマティック・エクササイズ」
番外編として、疲れ目と肩こりにピンポイントで効く「ソマティック・エクササイズ」をご紹介! 日中、疲れが気になったタイミングでサクッと行うのにぴったりなお手軽エクササイズです。
疲れ目に効く「ソマティック・エクササイズ」
平澤さん:目は、自動的に首と一緒に動きたがります。そのようにプログラムされているからです。このエクササイズでは、そのような無意識の設定をリセットします! 設定が解除される過程では、思うように動かなくてじれったく感じることもあるかもしれませんが、そこは忍耐強く練習してください。いったん解除されれば、目も、首も、自由自在に動かせるようになります。スマホやPC作業で、長時間一点を凝視していると、どうしても、目や首、肩の筋肉も凝り固まってしまいます。時々、ほぐしてあげるとスッキリしますよ!
1.顔を上に向けながら、目を下に向けていく。
2.ゆっくりと戻し、次に首をゆっくりと下に向けながら、目を上に動かす。1と2の動きを3回繰り返す。
3.顔を左に向けながら目を右に動かす。
4.ゆっくり戻し、反対側も同じように行う。3と4の動きを3回繰り返す。
木村:すごく簡単で単純な動きなのに、目がスッキリした気がする! 仕事の合間にやれば、リフレッシュもできて一石二鳥!
肩こりに効く「ソマティック・エクササイズ」
平澤さん:肩こりに効く、簡単なエクササイズです。始める前に、手を肩に当てて、肩の筋肉を感じてください。終わった後にもう一度肩を触ってみると、柔らかくなっているのがわかると思いますよ。エクササイズ終了後に、肩が軽くなっているのを感じると、つい肩をぐるぐると回したりしたくなってしまうと思いますが、それをするのは逆効果。柔らかくなった筋肉の状態をキープするため、終了後はあまり動かさないようにしてください。
1.左手を右肩に置き、顔を少し左側に向け、右肩を上げる。
2.後頭部を肩に乗せるようなイメージで、目線を斜め上に。
3.顎と肩の位置を戻し1〜3の動きを3回行い、最後に顔を正面に戻す。反対側も同様に3回行う。
菊池:肩のこわばりが緩んでいるのがわかります! 信じられない!! 騙されたと思って一度やってみてほしい!
イラスト/たかはしななこ 取材・文/菊池美里 企画・構成/木村美紀(yoi)