人間に生まれつき備わっている回復力や強みに注目するストレスコーピング、「BASIC Ph」。人のストレス対処の方法は、「Belief(信念)」「Affect(感情)」「Social(社会)」「Imagination(想像)」「Cognition(認知)」「Physiology(身体)」の6つのチャンネルのどれかに分類されるとされています。自分の得意なチャンネルを知り、その力を使えれば、ストレスにうまく対処できるようになります。この記事では「BASIC Ph」の6つのチャンネルのうちのひとつ、「Belief(信念)」について、詳しく解説します

解説してくれたのは…

BASIC Ph JAPAN代表

新井陽子

臨床心理士、公認心理師。BASIC Ph JAPAN代表。日本EMDR学会所属。公益社団法人被害者支援都民センター勤務。東日本大震災の復興支援に関わり、その際にBASIC Phとその提唱者・ムーリ・ラハド氏と出会う。

BASIC PhのB「Belief(信念)」とは

BASIC Ph 「Belief(信念)」

新井さん:「私は日本人だ! 大和魂で生きていかねば!」のように、何かの信念を支えにすること。「今日は赤信号で止まってばっかり。……ってことはゆっくり行けってことなのかも!」と、起きたことに意味づけをすること。信念に初詣に行ってお願い事をしたり、キリスト教で神様に祈って心を支えるようなことも「Belief(信念)」です

伝統的な振る舞いを大切にして、それが結果として回復につながることも含まれます。お葬式なども伝統的な振る舞いが含まれますよね。

逆に「男なんだからしっかりしろ」という言葉のように、ネガティブに働くことも多いものでも、行動理念に影響するものは「信念」に入ります。

信念のチャンネルを使う人は、その拠り所のおかげで「ま、いっか」と思えることが強さです。バカボンのパパの「これでいいのだ」もBだと思います(笑)。

「Belief(信念)」のキーワード

信念 価値 宗教 伝統

「Belief(信念)」を使ったストレス対処法

出来事に意味付けする。自他を信じる。神に祈る、運命を信じる。「何とかなる」と楽観視する。「ま、いっか」と諦める。自分自身の価値を信じる。経験の意義を探究する。逆境から成長すると捉える。なりたい姿を思い描く。自己啓発本を読む。伝統儀式への参加や礼拝・お祓い。縁起を担ぐ。神社仏閣巡り。座右の銘や格言を信じる。使命感を持つ。自分を鼓舞する。

「〜するべきだ」と考える(べき思考)。自責思考。何かや誰かを盲信する。不合理な信念でも信じ続ける。迷信的思考。ただ耐える。

新井さん上記の中に、やったことはないけれど興味があるものがあれば、挑戦してみると、ストレス対処の方法が増やせるでしょう。また、コーピングに「いい/悪い」はない、というのがBASIC Phでの考え方ではありますが、「より安全に」「より長く生き延びる」ためには、やはりポジティブなものを選んでいくほうがいいとも考えています。悪いから手放すのではなく、より長く生き延びるために健康的な方法へ乗り換える……というイメージです。なので、グレーのマーカーを引いた部分のコーピングに頼っている方は、余裕やエネルギーがあるときに、ぜひ適応的なものを試してみてほしいです

BASIC Ph Belief お祈り

「Belief(信念)」と一緒に使いたい、隣接するチャンネル

新井さん:「BASIC Ph」には、「得意なチャンネルの両隣にあるチャンネルの行動も、ストレスコーピングとして取り入れやすい」という特徴があります。Bの場合は、「Affect(感情)」と「Physiology(身体)」が隣接チャンネルになります。単体で取り入れるだけでなく、隣接するチャンネル同士を組み合わせた対処法もおすすめです。例えば、「お寺を散歩する(B+Ph)」のように考えます。

Affect(感情)
起きた問題に対して泣く、怒る、悲しむ、落ち込む、笑うなどの直接的な感情表現のほか、感情について考えることや、作品や場所、人などによって感情を引き出すことも含まれる。

【行動例】
悲しむ、怒る、泣く、笑うなど様々な感情を表出する。落語やコメディ・お笑いを見て気分転換する。感動する・共感する映画を見て感情を表す。お化け屋敷、絶叫マシーンなどで気持ちを発散させる。日記や文書に気持ちを書く。絵を描く、何かを造る。誰かに気持ちを聞いてもらう。毛布などに包まり安心感を得る。

八つ当たり。感情を隠したりないものにする、罪悪感を持つ。後悔をする。落ち込む。

【Bとの組み合わせ例】
人生の中で自分にとって大きな意味を持つポジティブな記憶を思い出す。

Physiology(身体)
「身体を動かす」「身体に働きかける」チャンネル。自身の身体の動きだけでなく、マッサージやマインドフルネス、お酒や煙草など、身体に影響を与えるものも含まれる。


【行動例】
体を動かす、スポーツをする。散歩する。食事やおやつを食べる。薬やサプリをとる。お酒を飲む。タバコを吸う。寝る。料理を作る。お風呂に入る。マッサージ。深呼吸や発声。掃除する。セックス。ストレスが身体症状として出る(胃痛・頭痛・皮膚炎など)。

過度な運動。飲みすぎる。自棄食い。拒食。過剰な服薬。自己破壊的な行動。

【Bとの組み合わせ例】
目標を決めて運動する。

参考文献:『緊急支援のためのBASIC Phアプローチ――レジリエンスを引き出す6つの対処チャンネル』(遠見書房)ムーリ・ラハド,ミリ・シャシャム,オフラ・アヤロン 編
佐野信也,立花正一 監訳
新井陽子 角田智哉 濱田智子 水馬裕子 丸田眞由子 岡田太陽 柳井由美 訳

取材・文/東美希 イラスト・企画・構成/木村美紀