頭の中がモヤモヤして、同じことばかり考え込んでしまう…。そんな人におすすめなのが、今話題の「ジャーナリング」。
今回は、臨床心理士・公認心理師・マインドフルネス瞑想講師の藤本志乃さんに、ジャーナリングの効果・やり方をお聞きしました。そして記事後半では、ライター・毒島サチコが実際にジャーナリングに挑戦。はじめてジャーナリングを実践してみた感想もお届けします。
お話を聞いたのは…
臨床心理士・公認心理師・マインドフルネス瞑想講師
教育相談員の経験の後、腎臓内科で主に透析患者を対象にしたカウンセリングに従事。心に対する予防的な介入の重要性を感じ、2020年にウェルビーイングのためのカウンセリングルームLe:self(リセルフ)オープン。ACTという心理学的理論を用いて、オンラインカウンセリングをはじめ、よりよく生きるための心のサービス開発、提供、その発信活動に力を入れている。
ジャーナリングとは?
藤本さん:ジャーナリングとは、頭に浮かんだことをそのまま紙に書いていくことです。書く内容は自由で、その時に書きたいことならなんでもOK。思いつくままに、感情を吐き出すことが重要です。
ジャーナリング研究に関する論文では、ジャーナリングを「expressive writing(エクスプレッシブ・ライティング)」と表現しています。この「エクスプレッシブ・ライティング」の実験※1では、自分の感情を紙に書き出すことで、ストレスが大幅に減少するという結果も出ています。
ジャーナリングと日記の違いは?
藤本さん:日記では、頭の中で書くことを整理してから、今日起きたことを時系列に沿って追ったり、後で見返すためにきれいな文章を意識して書いたりする人も多いかと思います。
一方ジャーナリングでは、きれいな文章を書く必要はまったくありません。気の向くまま、ガーっと気持ちを吐き出して書く。誰にも見せることはないので、まとまっていない文章になってもOK。大切なのは、考えず、止まらず、ひたすら書き続けること。何も思い浮かばなければ、それをそのまま書けばいいんです。書いているうちに気持ちがすっきりしてくると思います。
●日記…気持ちを整理して頭の中で考えてから書いたり、後で見返すために保存用として書く人も
●ジャーナリング…頭に浮かんだことを考えずにそのまま書いていく。何も思い浮かばなければ、「何も思い浮かばない」とそのまま書いてOK
ジャーナリングの効果は?
藤本さん:ジャーナリングにはさまざまなメリットがありますが、主に、以下3つの効果が期待できます。
① ストレスや不安の解消
普段人には話さない自分の感情を紙に吐き出してすっきりさせることで、ストレスや不安の解消につながります。
② 自分を知ることができる
書き出したものを客観的に眺めることで、「自分はこんなことを考えていたんだ!」と自身を知るきっかけになります。
③ 健康への好影響
血圧低下やトラウマ(心理的外傷)の緩和など、健康への効果も研究で報告されています。
ジャーナリングをはじめてみよう!
それではさっそく、ジャーナリングを始めてみましょう。まずは藤本さんにジャーナリングを実践するうえで大切なことをお伺いしました。
●用意するものは?
・書きやすい鉛筆やペン
・捨ててもよいノートや裏紙
藤本さん:用意するものは、紙と筆記用具(鉛筆やペン)のみ。ジャーナリングにおすすめなのは、チラシの裏紙や捨ててもいいと思えるノートです。
「“ちょっといいノート”を買おうと思っていた!」という人もいるかもしれませんが、お気に入りのノートやきれいな紙だと「丁寧に書かないと」という気持ちになってしまい、ありのままの感情を書きづらくなってしまいます。ジャーナリングの目的は、あくまで自分の中の感情を“吐き出す”こと。筆記用具は、書いても疲れない、普段使い慣れているものがおすすめです。
●おすすめのテーマ例は?
・もやもやしていること
・不安なこと
・うれしかったこと
・楽しみなこと
藤本さん:ジャーナリング初心者は、あまりテーマを決めずに頭に思い浮かんだありのままの感情を書くのがよいと思います。ポジティブな感情はもちろん、ネガティブな感情もたくさん吐き出してOKです。書くことが思いつかないときは「思いつかない思いつかない…」と書くのもあり。大切なのは、ペンの動きを止めないこと、誤字脱字があっても気にしないこと。書きながら、テーマが変わっていってもまったく問題ありません。
●おすすめの時間帯は?
・仕事終わりや、寝る前に不安が襲ってくる人…夜がおすすめ
・昨日のことを思い出して集中できない人…朝がおすすめ
藤本さん:ジャーナリングはいつ行っても大丈夫ですが、おすすめなのは、つい考え込んでしまったり、モヤモヤを感じやすい朝か夜。どちらの場合も、自分で決めた時間帯に、毎日続けることが重要です。
●どのくらいの量を書けばいい?
・5分、10分など書く時間を自分で設定する
・A4が埋まったら終了など、量を決めておく
藤本さん:また、書く量も人それぞれで大丈夫。例えば、5分または10分など、時間を決めて思うがままに書いてみたり、A4の紙が埋まったら終了と決めて実践してみたり。自分のペースではじめてみてください。
●振り返り方は?
・書き終わったら客観的に振り返る
・手もとにとっておかず、その日のうちに見返し捨てるのがおすすめ
藤本さん:書き終わったら、書いたことを客観的に眺めることをおすすめします。自分の書いたことを見直してみると「自分ってこんなことを考えていたんだ!」と、今まで気づかなかった自分の新しい一面を発見できるはず。また、ジャーナリングでは、ネガティブな感情を吐き出すことも多いので、書き終わったらそのまま捨ててしまってもかまいません。
ジャーナリング初心者が実践してみた!
藤本さんに、実践方法を教えてもらったところで、ジャーナリング初心者のライター・毒島サチコが実践してみました。
用意したのは、A5のブラックのノートと普段使っているサインペンとボールペン。ジャーナリングが終わったあと、ページを切り取ってすぐに捨てられるように、リングノートを選択しました。
さっそくジャーナリングをはじめてみます。私はモヤモヤしがちな朝に実践することにしました。起きてコーヒーを飲む前のタイミングでペンを取りました。まずは隣にタイマーをおいて、5分間書き続けてみることに。
しかし、いざペンも持つも、何も思いつきません…。書き出すまでに時間がかかりそうだったので藤本さんに教えてもらったとおり「思いつかない」「何を書こう」と、とりあえず思いつく言葉から書きはじめます。
3分ほど書き続けていると、昨日嫌だったこと、今日不安なことがふつふつと頭の中に浮かんでくるようになりました。モヤっとした感情を思うがまま、ペンを走らせます。途中思い出せない漢字や誤字脱字がありましたが、気にせず、とにかく5分間書き続けました。
ジャーナリングを続けて3日目。何も思いつかなかった2日間とは明らかに変化が! 朝一番に感じた「寒い」という感覚を皮切りに、すらすらと自分の感情を書き出せるように。新しい部屋着が欲しい、仕事が不安…等、まるで独り言のようですが、誰にも見せる必要がないからこそ書けることばかりです。
書き終えたら、ゆっくりとコーヒーを飲んで、数分後に読み返します。殴り書きの文章ですが、ザーッと読んでいくうちに、自身の中で今日すべきことや、頭の中の感情がすっきり整理されていく気がしました。
一度読み返したら、リングノートから取り外し、ぐちゃぐちゃにしてゴミ箱へポイ! このぐちゃぐちゃにする瞬間もなんだか少し気持ちいい! まさに“吐き出してすっきり”した感覚が残りました。
仕事で毎日パソコンに向かっているライターの私にとって、ペンを持ち、ノートに向かうこと自体が新鮮。タイピングに比べて文字を書くほうが時間がかかるからか、書いているうちに、どんどん感情が湧き上がってくることに驚きでした。朝のモヤっとする時間にジャーナリングを取り入れることで、1日を前向きに過ごせそうです。
こんな方にジャーナリングはおすすめ!
藤本さん:短い時間で簡単にできるジャーナリングは、特に以下のような人におすすめです。
●頭の中でぐるぐる考え続けてしまう人
●嫌なことを思い出して眠れない人
●集中力が続かない人
●不安が強い人・なんでも不安になりがちな人
●いらいらしがちな人
ジャーナリングの習慣を身につけることで、自分自身の感情と向き合い、ストレス解消に役立てることができるはず。ぜひ日常生活にジャーナリングを取り入れてみてくださいね。
取材・文/毒島サチコ 企画/種谷美波(yoi)画像/Peshkova・Marble background(shutterstock)