中元日芽香さんは乃木坂46の元メンバーであり、現在は心理カウンセラー。この連載では、“推される側”を経験し、“推す側”のメンタルにも寄り添ってきた彼女ならではの視点で、推し活とメンタルヘルスの関係について語ります。第2回のテーマは「推し活できれいになれる?」。推す/推されることが生活にもたらすいい効果と、依存や承認欲求という落とし穴について、中元さんの経験を通して語ってもらいました。
第2回のテーマは、「推し活できれいになれる?」
「推しがいることできれいになれた」という経験のある方は、今、とても多いのではないでしょうか?
推し活で、“きれい”に対するモチベーションが上がり、自分磨きになる。心身の健康がアップする。このことについて心理学的には、幸せホルモンと呼ばれるいくつかの脳内物質との関係が考えられます。
幸せホルモンのひとつは、ドーパミン。「推しを見て興奮した、エキサイトした」という感情を持った時や、「推しにいいことがあってうれしそう」と感じた時、自分に現れます。
もうひとつは、オキシトシン。これは、「推しを見ていて癒された」と感じた時。あるいは、推しと実際に会話をするなどの触れ合いを通して出てくるものです。
これらの脳内ホルモンが分泌されると、ストレスの発散につながります。活力が生まれ仕事や日常生活で、いろいろなことを頑張ろう!と、いきいきとしてくるのです。
また、ストレスがたまると、免疫が低下して疾患にかかりやすくなったり、心の健康にも影響します。
だから例えば、ストレスを感じた日の終わりや疲れた夜には、推しの動画や配信を見て元気になり眠る。そうすることで、免疫力を上げる効果が期待できます。
“健全な推し活は心身の健康にいい”、そして“健康な心身はきれいをつくる”と言えるでしょう。
「推し活できれいになる」の落とし穴
注意しなければいけないのは、推し活の頑張りすぎがストレスの原因になってしまうこと。
推し活で睡眠が減ってしまう、推しに会いたくて仕事を頑張りすぎてしまう……など。自分の健康をないがしろにしては、ストレスがたまり免疫力も下がるばかり。体調が悪くなると心も元気がなくなってきます。
きれいになる努力も「推しに認めてもらいたい」という承認欲求だけで頑張ることはとても危険です。
過剰なダイエットや、美容に高額な課金をしてしまいそうな時“推しありき”の自分になってしまっていないか、自分の中が推しでいっぱいになっていないか立ち止まって考えてみましょう。
あくまで自分を大切にした上で推す、というベースを忘れてはいけません。
「推しに会うためにきれいにならなきゃ」ではなく「自分がきれいになって、推しに会いに行ったら楽しいな」と、“自分が自分に対してしたいこと”が先行しているといいな、と思います。承認欲求よりも、自己肯定感を高めることが、とても大切です。
「推されることできれいになる」いい経験と、つらい経験
私自身の経験をふまえて考えると、人から注目されることはそれだけでいい緊張感をもたらします。
アイドル時代、「もっといろいろな方に見てもらい、きれいだねと言ってもらいたい」という思いは、自分を高めるモチベーションのひとつになりました。
食事やメイク、運動でも自分のためだけなら「これくらいでいいか」となってしまうところも、「見てくれる人がいる」と思うと、もうひと頑張りできていたように思います。
けれどやはり、自分にとってその努力が楽しいうちはいいけれど「もうちょっと痩せたい、痩せて褒められたい」という感情は、無理なダイエットなどにつながり、きれいと健康の両立を崩す引き金になってしまいました。
今思うと、推されていた時の努力は「自分のため」という気持ちが少し薄かったかもしれません。
承認欲求は、そうした背伸びをさせてしまうところがあるのです。
アイドルだった当時の写真を見ると、なんだかいつも似たような表情をしているように感じます。当時は、「ファンの人はこういう顔が好きかな?」というところから表情を作っていた記憶があります。
「細く見られたい」「かわいいと思われたい」そうした感情にとらわれて「自分はどうしたいの?」という部分が深められていなかったような気がします。
自分を大切にしながら、自分を高める。結果として、相手がほめてくれる
今はどうでしょう? 例えばこの連載の写真では、私の普段の姿とは違う衣装やメイクで撮影をさせていただきました。アートピースのように、作り手の意志を感じるデザインのドレスは、アイドル時代にも着てこなかったもの。とても新鮮な気持ちです。
アイドル時代の写真を見比べてみると、今のほうが「私はこんな人間です」という気持ちで撮影に臨めているように思います。
「こう見られたい」というより「自分はこういう表情をするのだな」と思う割合が大きくなってきたようです。
見てくれた人がどう思うかは自由。よく思ってくれたらもちろんうれしい。そんな自然体が身についたのかもしれません。
今はだから、美容に関しても、ものすごく高価なものや、流行っているものを使おうと思うことがなくなりました。
自分の肌に合うものを探すのも楽しいし、季節に合わせてケアを変えるのも楽しい。
ジムにも通っていますが、現役時代の「痩せなきゃ」という切迫感はなくて、「体力をつけよう」「運動して汗をかくっていいな」という気持ちでやっています。そのほうが結果的に続いていますね。
これが私自身の承認欲求とのつき合い方。
自分のことを大切にしながら、自分を高める。結果として、相手がほめてくれる。
この順番を守れたら、推す側も、推される側も、きっと心身や生活自体の「きれい」が高まるように思います。
ケープ¥258800/SAVANT SHOWROOM ヘルメット¥140800/MOMOKO CHIJIMATSU スカート¥123200/Sakura Nakama
撮影/森川英里 ヘア&メイク/小島紗希 スタイリスト/石田綾 画像デザイン/齋藤春香 取材・文/久保田梓美 企画・構成/木村美紀(yoi)