人間関係が長続きしない、よくトラブルになるといった困りごとを抱えやすい「パーソナリティ障害」。その定義や考えられる要因といった基礎知識から、病院を選ぶ際のポイントまで、精神科医の藤野智哉先生にじっくり伺いました。

パーソナリティ障害 メンタル 人間関係 藤野智哉

Bibadash/Shutterstock.com

お話を伺ったのは…
藤野智哉先生

精神科医・産業医・公認心理師

藤野智哉先生

幼少期に罹患した川崎病が原因で、心臓に冠動脈瘤という障害が残り、現在も治療を続ける。精神鑑定などの司法精神医学分野にも興味を持ち、現在は精神神経科勤務のかたわら、医療刑務所の医師としても勤務。SNSやメディアを通じ、障害とともに生きることで学んできた考え方と精神科医としての知見を発信。著書に『「自分に生まれてよかった」と思えるようになる本 心が軽くなる26のルール』(幻冬舎)、『自分を幸せにする「いい加減」の処方せん』(ワニブックス)、『精神科医が教える 生きるのがラクになる脱力レッスン』(三笠書房)など、最新刊に『「誰かのため」に生きすぎない』ディスカヴァー・トゥエンティワンがある。

自分や他者が困りごとを抱えてしまう「パーソナリティ障害」

――以前、yoiにご登場いただいた際、「パーソナリティ障害」のひとつである「境界性パーソナリティ障害」にまつわるお話がありました。今回は「パーソナリティ障害」について、基本的な部分から伺えたらと思います。

藤野先生 「パーソナリティ」という言葉は、日本語だと「人格」という道徳的な側面を含む言葉として使われることが多いけれど、英語圏でいう「キャラクター」、つまりその人の考え方や行動のしかただとイメージしてもらえるとわかりやすいかもしれません。

そもそもパーソナリティは個人差のあるものですが、平均からの著しい偏りをパーソナリティ異常と捉え、その異常性のために自分自身、あるいは他者や社会が困りごとを抱えている状態を「パーソナリティ障害」としています。パーソナリティ障害の割合は、人口の10〜20%ともいわれ、人間関係での問題を抱えやすい状況にあります。

――「困りごと」の有無が基準になるのですね。ただ、偏りは誰もが大なり小なりあると思うので、自覚するのは難しい気もします。

藤野先生 おっしゃるとおりです。何か困りごとがあっても、自分のパーソナリティに原因があると気づく人はとても少ないので、病院の受診にたどりつかないケースのほうが多いと思います。

それから最近は、パーソナリティ障害も含めた疾病にまつわる簡単なチェックリストがネット上に出ていますよね。自分の特性を知ることに興味を持つのは必ずしも悪いことではないけれど、安易に自分にレッテルを貼ってしまうのはよくないなと思います。自分で貼ってしまったレッテルって、剥がすのがすごく難しいので。

「パーソナリティ障害」の要因は複合的。異なるタイプを複数抱えるケースも

――「自分はそういうパーソナリティだから」と、便利な口実にしてしまうケースもありますよね。それが自分を縛ることになるということは、覚えておきたいと思います。では、パーソナリティ障害の要因にはどんなものがあるのでしょう?

藤野先生 生育環境や家族との関係、社会要因など、さまざまな要因が影響するといわれています。また、研究によって、先天的な要因(遺伝性)もある程度関与していることがわかっています。

――調べている中で、うつ病や依存症などを併発しやすいという情報も見かけました

藤野先生 パーソナリティ障害のタイプによっては依存症との合併率が明らかに高いものもありますし、パーソナリティ障害に悩み、生きづらさを感じて抑うつ的になりやすいといったことは当然あります。また、パーソナリティ障害の異なるタイプをいくつか抱えているケースもあります。

――違うタイプが重なり合うこともあるのですね。もし困りごとの原因を自覚して受診した場合、どういった治療法があるのでしょうか。

藤野先生 パーソナリティを「治す」という考え方は、少し違うかなと思います。例えば、併発しているうつ症状を治したいということはあっても、自分のパーソナリティ自体を治したいという人は少ないと思います。

なぜならそれは、今までの人生を生きてきた自分のパーソナリティが「間違っている」と考える、あるいは自覚するということです。ある意味では自分を否定することにつながりかねないので、すごくエネルギーが必要なんですよね。

――確かに、想像すると自分の足もとが崩れていくような恐怖があります…。

藤野先生 もし、本当に「変わりたい」と思っているとしたら、しんどい状況の要因になっている考え方や、その考えの根底に目を向けていく必要があります。そのパーソナリティの存在自体を否定するのではなく、それがなぜ障害になっているのか、どうすれば影響を減らせるのか考えていくことが必要です。その場合は、心理学的カウンセリングや行動療法などを行います。

「パーソナリティ障害」かもしれない...と病院を選ぶ際は主治医の経歴をチェック

パーソナリティ障害 メンタル 病院選び 人間関係 藤野智哉

Smart_one/Shutterstock.com

――もちろん医師との相性もありますし、100%の正解はないと思いますが、もし自分と向き合ってみよう、一歩踏み出してみようと思ったとき、受診する病院は何を頼りに探せばいいのでしょうか。

藤野先生 人と人が向き合うことなので、相性の部分も大きいと思いますが、ひとつは主治医となる医師の経歴がきちんと書かれていることですね。少なくとも数年間は病院の精神科もしくは心療内科で勤務した経歴があることはとても大事です。

取得要件として一定年数の診断・治療経験が求められる精神保健指定医や専門医という資格の有無もひとつの基準にはなりますが、その資格を持っていなくても素晴らしい先生はたくさんいるので、まずは経歴を確認するのがいいと思います。

――病院ではなく、カウンセリングルームを利用する人もいると思いますが、その場合の注意点はありますか?

藤野先生 「カウンセラー」という言葉も玉石混淆で難しいのですが、ひとつは同じように医療機関での勤務経歴があるかどうか。そして、公認心理師や臨床心理士の資格を持っているかどうかは確認したほうがいいと思います。

▶︎次回は、周囲からの注目を浴びないと気が済まない「演技性パーソナリティ障害」について、藤野先生に伺います。

構成・取材・文/国分美由紀