本来は、一人一人異なるパーソナリティの大きな偏りによって、本人や周囲に悩みごとが生まれてしまう「パーソナリティ障害」。今回は、DVなどの被害に遭いやすいという「依存性パーソナリティ障害」について、精神科医の藤野智哉先生に伺いました。

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お話を伺ったのは…
藤野智哉先生

精神科医・産業医・公認心理師

藤野智哉先生

幼少期に罹患した川崎病が原因で、心臓に冠動脈瘤という障害が残り、現在も治療を続ける。精神鑑定などの司法精神医学分野にも興味を持ち、現在は精神神経科勤務のかたわら、医療刑務所の医師としても勤務。SNSやメディアを通じ、障害とともに生きることで学んできた考え方と精神科医としての知見を発信。著書に『「自分に生まれてよかった」と思えるようになる本 心が軽くなる26のルール』(幻冬舎)、『自分を幸せにする「いい加減」の処方せん』(ワニブックス)、『精神科医が教える 生きるのがラクになる脱力レッスン』(三笠書房)など、最新刊に『「誰かのため」に生きすぎない』ディスカヴァー・トゥエンティワンがある。

選択や責任への不安・恐怖が強い「依存性パーソナリティ障害」

――「依存性パーソナリティ障害」も女性に多いと聞きましたが、これはどういったタイプですか?

藤野先生 自分の人生を生きるというのは、自分の選択に責任を持つことでもありますが、そこを他者にゆだねてしまうのです。自分の決断に自信がなかったり、責任を取ることが怖かったりするので、誰かに判断を任せてしまうわけです。

【依存性パーソナリティ障害の特徴】
●自分だけで物事を決めるのが困難
●一人で生きていかなければならない状況への恐怖感が強い
●自分が頼れる存在としての依存相手を切実に求める
●関係が壊れることへの不安から、依存相手に反論できない
●一人になると不安や無力感を感じる

――選択や決断を他者にゆだねたとき、自分にとっていい結果ではない場合もあると思いますが、そういうときも素直に受け止められるのでしょうか。

藤野先生 例えば、相手が選んだ結果に文句を言ったら関係が壊れてしまう可能性がありますよね。このタイプは基本的に“依存ファースト”で、関係を断ち切られないことが最優先なので、結果に不満を言うことは多くありません。そして次第に正当な要求もしなくなる傾向があります。自分にとって不利なことでも反対できなかったりします。

――それは、考えることも放棄するようになるということでしょうか…。

藤野先生 いえ、まったく考えなくなるわけではありません。自分の考えや感情よりも他者への依存が重要なので、それを押し殺してしまうのです。このタイプは、判断してくれる他者がいると安定する反面、自分で何かを決めることに恐怖を感じるので、一人でいると不安定になります。

ですから、依存相手との関係が崩れるとすぐに次の依存先を探します。依存したい相手に受け入れてもらえるように自分を変えることも多いですね。見捨てられることへの強い不安というのは、気分の浮き沈みが激しく、人を振り回すような発言や行動をする「境界性パーソナリティ障害」の特徴と重なる部分でもあります。

「依存性パーソナリティ障害」は、DVなどの被害に遭いやすいケースも

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――相手に判断をゆだねたり依存したりしていると、DVの被害者になりやすい気もしますが…。

藤野先生 実はその通りで、このタイプとずっと一緒にいられる人というのは、相手を支配するタイプなことも多いんです。しかも、本人は見捨てられることを恐れて、意見を主張したり反論したりしないので、身体的・精神的虐待の被害にも遭いやすいといえます。

――ひどいことをされたとしても、一緒にいてくれることのほうが重要だと思い込んでいるわけですね。

藤野先生 そうですね。相手から離れてしまうと、自分には何もないし、決められないから不安になる。そこまで考えが整理できないまま、「よくわかんないけど離れられない」っていう人もたくさんいます。

――依存先を増やすために人間関係を広げることはないのでしょうか?

藤野先生 どちらかというと、ひとつの依存先を逃さないために人間関係が狭くなります。例えば、友達と飲んでいるときに依存相手に呼び出されても、すぐに行けなかったりしますよね。

それから、依存相手との関係を否定されることは大きな恐怖なので、よく「この関係は私にしかわからない」という言葉が出たりします。つまり、他人は時に自分たちの依存関係を邪魔してくる存在になるわけです。

「依存性パーソナリティ障害」の改善や、周囲の人ができること

――なるほど…。しかもDVの場合、依存相手から他人とのかかわりを断つように言われるケースもありますし、ますます自覚するのが難しそうですね。

藤野先生 そもそも自分が困っていなければ「パーソナリティ障害」という病名はつきませんが、このタイプは周囲に害をなすというよりも、自分がしんどくなるケースが多いので、他のタイプと比べると受診につながる可能性が高く、状況が改善されやすい疾患ではあります。

――どうしたら改善につながるのでしょうか。

藤野先生 背景に「他人から認められたい」という思いがある一方で、そのための行動選択には不安や否定への恐怖、責任を放棄したい感情が付きまといます。相手に依存することで、そこをすべてごまかしてしまっている自分に目を向けると、少しずつ変わっていくことができます。そのためにも、今まで失敗しないために他者にゆだねていた部分を抜け出して、ちょっとずつ練習していくことが必要です。

――そのとき、まわりの人にできることはありますか?

藤野先生 不安を感じさせないように、小さなことから本人に決定をさせて、それを尊重することが大切です。「自分でこれを選んだ。みんなも満足した」という成功体験を積ませてあげるわけです。そういう経験を、安心できる場所で積んでいくと、不安を解放することにつながります。

――少しずつリハビリをしていくわけですね。 

藤野先生 はい。大きな決断ではなく、例えば「AとBのお菓子、どっちがいい?」みたいなことでかまいません。外食するのに、何を食べに行くか決められない人もいますから。

――逆に、まわりが気をつけることはありますか?

藤野先生 本当に気をつけてほしいのが、本人を支配しないことです。自分で決められない人と接すると、周囲は決めてあげたり、提案してあげたりと、無意識のうちに支配者になりやすいんですよね。

依存される=相手が自分の言うことを聞く状況は、場合によっては気持ちがいいので。相手が大切な人であるほど手や口を出したくなりますが、支配してしまわないように意識したほうがいいと思います。

構成・取材・文/国分美由紀