「心理カウンセリング」や「カウンセラー」「公認心理師」「臨床心理士」など、メンタルヘルスにかかわる職業や資格の名称は、知っているようで曖昧です。悩みの相談先を探すうえでも大切なカウンセリングにまつわる専門用語について、公認心理師・臨床心理士の井澗知美さんに伺いました。今回は、「公認心理師」と「臨床心理士」の違いについて。
Naumova Marina/Shutterstock.com
Q4.「公認心理師」と「臨床心理士」、どちらに相談したらいいのでしょうか?
公認心理師、臨床心理士
A4.どちらかにしかない技術はほぼありませんが、いちばんの違いは受験資格の取得条件です
カウンセラーのおもな資格である「公認心理師」と「臨床心理士」。その違いを明確に述べることは難しいのですが、いちばんの違いは受験資格の取得条件です。
臨床心理士は、大学院の修士課程に進学して2年間通いながら修士論文を執筆するなど、研究者としての能力を高めることで受験資格を取得できます。一方の公認心理師は、大学の4年間と大学院修士課程などの2年間を合わせた最低6年間、心理学のカリキュラムを学ぶことが必須条件で、さらに修士課程での実習などを経て受験資格が得られます。
また、公認心理師を目指す人が学ぶ心理学のカリキュラムでは、心の問題を抱えた人を理解し、サポートするための実践的な学問である「臨床心理学」だけに偏りすぎないように、できるだけまんべんなく「心理学」や「医学(精神医学を含む)」を学べるようにつくられています。そのため、公認心理師はクライエントの診察にあたる臨床だけではなく、教育や啓発活動など、より幅広く心理学全般に対応できる専門家としての役割が期待されています。
公認心理師と臨床心理士、資格を取得したあとに活躍する5つの領域
公認心理師も臨床心理士も、次にお話する5領域(医療・保健、教育、産業、福祉、司法・犯罪)にまたがって働くことができる資格なので、どちらかにしかできない技術というものはないといえます。
そして、公認心理師と臨床心理士、どちらの資格も取得したからといってすぐにカウンセラーになれるわけではありません。資格取得はゴールではなく、スタートラインです。カウンセラーの皆さんは資格を取得してからも学び続けています。
①医療・保健(病院・クリニック・保健所・リハビリテーション施設・精神保健福祉センターなど)
総合病院、精神科病院、小児科、内科、外科など、おもに医療の広い範囲が活躍の場となる。カウンセリングとアセスメントがメインの仕事になるが、デイケアや家族会といったグループでのアプローチや心の健康教育なども受け持つ。医療の現場では、医師をリーダーとして看護師や薬剤師、作業療法士、理学療法士など、さまざまな職種の人たちとチームをつくって連携する。
②教育(学校・学生相談室・心理教育相談室・教育相談室・教育センター・教育研究所・各種研究機関など)
学校に勤務するスクールカウンセラー、あるいは教育相談室で働く相談員としての仕事がメイン。おもに不登校やいじめ、友人関係、家族関係、勉強、発達障害や情緒障害による学校不適応などに対して、適切なアセスメントに基づく児童や生徒へのカウンセリング、保護者へのアドバイスやサポート、専門家への助言などを行う。
③産業(企業内の健康管理室や相談室・障害者職業センター・公共職業安定所など)
働く人の心の健康問題についてサポートする。うつ病などの精神疾患やメンタルヘルスの問題(ストレス、不安、悩みなど)を抱えた人から健康な人までを幅広く対象として、個別の働き手だけではなく職場組織への対応も行う。
業務内容は、メンタルヘルスやワークライフバランス(仕事と趣味や家庭生活のバランス)の問題、ハラスメント(いじめやいやがらせ)に関する個別相談や、外部医療機関との連携、キャリアプランと仕事内容のすり合わせを行うキャリアカウンセリングなどがある。他にも、メンタルヘルスに関する問題の予防を目的とする教育研修・職場環境改善や、問題が発生してしまった場合の再発予防に取り組むなど、組織ぐるみでのサポートのリーダー的存在となることも。
④福祉(児童相談所・児童福祉施設・婦人保護施設・母子生活支援施設・身体障害知的障害相談施設・高齢者福祉施設など)
メインとなる仕事は、乳児院や児童養護施設、虐待への対応を中心とする児童相談所、少年非行に関係する児童自立支援施設、成人・老人を支援する地域包括支援センター、障害児施設、高齢者福祉施設などの福祉施設でのアセスメントと相談業務など。
⑤司法・犯罪(家庭裁判所・少年鑑別所・少年院・刑務所・保護観察所・警察関係の相談室・犯罪被害者相談室など)
おもに犯罪や少年非行にかかわることになるため、法務省や裁判所、警察などと関連が強い業務となる。法務技官(心理技官)と呼ばれる少年鑑別所や少年院、刑務所などに勤務する専門職や、さまざまな家庭問題に対して調査を行い、処分や解決に向けて取り組む家庭裁判所の調査官、非行防止対策にあたる少年相談専門職員などの業務がある。
また、上記以外の現場でもカウンセラーは活躍しています。例えば、災害現場で働くカウンセラーもいます。2011年に発生した東日本大震災の際は、自治体が主体となって被災者の心のケアを行いました。強いストレスや絶望感、PTSDと呼ばれるフラッシュバックの症状などに悩む被災者を、保健師や精神科医と連携しながら支えました。
構成・取材・文/国分美由紀
出典/『カウンセラーという生き方』(イースト・プレス)