「心理カウンセリング」や「カウンセラー」「公認心理師」「臨床心理士」など、メンタルヘルスにかかわる職業や資格の名称は、知っているようで曖昧です。悩みの相談先を探すうえでも大切なカウンセリングにまつわる専門用語について、公認心理師・臨床心理士の井澗知美さんに伺いました。今回は、さまざまな領域で活躍する公認心理師と臨床心理士の主な業務について。
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Q5.「公認心理師」と「臨床心理士」の仕事は、カウンセリング以外にもあるのでしょうか?
公認心理師、臨床心理士
A5.どちらもおもに4つの業務があります
公認心理師と臨床心理士の業務は重複することも多く、似ている部分も多くあります。今回はおもな4つの業務をご紹介します。
①臨床心理査定(アセスメント)
さまざまな心理テストや観察面接を行い、クライエントの特徴や問題点を明らかにすること。アセスメントに基づいて、クライエントをどのような方法で支援するかを検討し、必要に応じて他の専門家との検討も行います。「診断(diagnosis)」ではなく「査定(assessment)」という用語であることが特徴です。
「診断」は、例えば医師など診断する人の立場から対象(患者)の特徴を評価しますが、「査定」は、査定される人(クライエント)の立場に立ちながらその人の特徴を評価するものです。弱みだけではなく強みもあわせて評価し、その人のありようをとらえます。具体的には、クライエントの状態像を把握するために、「面接法」や「観察法」、「検査法」といった専門的な技法を使います。「面接法」とは、クライエントと対面しながら、問いかけなどの会話を通して情報を得ることです。「観察法」は、行動を見ることで情報を得る方法です。「検査法」は、さまざまな検査を使ってクライエントの心の発達や状態などを理解する方法のことです。例えば、IQを測る知能検査や人格検査など、さまざまな種類があります。この「臨床心理査定」は、公認心理師にも同じように定められている業務のひとつです。
②臨床心理面接(カウンセリング)
心理学の知見を使って、カウンセラーが治療的にかかわることを意味します。カウンセラーとクライエントとの人間関係が構築される過程で、クライエントの自己発見や成長が促されていきます。
クライエントの特徴に合わせて精神分析、夢分析、遊戯療法、クライエント中心療法、集団心理療法、行動療法、箱庭療法、臨床動作法、家族療法、芸術療法、認知療法、ゲシュタルト療法、イメージ療法といったさまざまな臨床心理学的技法を使って心のサポートを行います。この「臨床心理面接」も、公認心理師の業務のひとつとして定められています。
なお、公認心理師法では、クライエント個人の支援に関して、関係者への相談・助言・指導などの援助をあわせて行うことも定められています。ここでの「関係者」とは、家族や友達などはもちろん、他職種の専門家も含まれています。
③臨床心理的地域援助
クライエントだけでなく、地域住民や学校、職場に所属する人たちの心の健康や、地域住民の被害の支援活動を行うことです。日常における生活環境の健全な発展のために、心理学の情報をわかりやすい言葉でアドバイスする活動も含まれます。
クライエントは一人で生きているわけではありません。地域社会の中で家族や会社の人などとともに過ごします。人が所属している地域が安定していることで、その中に暮らす人びとも安心して健康に過ごすことができます。
④調査・研究
①から③に関する調査や研究を行うことです。心の問題をサポートしていくうえで、技術的な手法や知識を確実なものにするために、基礎となる調査や研究はとても大切です。
「調査・研究」は公認心理師の業務としては定められてはいませんが、日々さまざまな調査結果や研究結果を調べることでカウンセラーとしての能力は高まっていくので、公認心理師にも必須の業務といっていいでしょう。
構成・取材・文/国分美由紀
出典/『カウンセラーという生き方』(イースト・プレス)