20代後半から30代中盤にかけて多くの人が感じるといわれている、漠然とした不安や人生に対するモヤモヤ…。この現象は、「クオーターライフクライシス」とも呼ばれています。今回は、著書やSNSを通して「クオーターライフクライシス」について発信している、コラムニストのジェラシーくるみさんにインタビュー。前編では「友人・人間関係のモヤモヤ」にスポットをあててお話を伺います。

ジェラシーくるみ

コラムニスト

ジェラシーくるみ

会社員として働く傍ら、X(旧Twitter)やnote、Webメディアを中心にコラムを執筆中。著書に、『恋愛の方程式って東大入試よりムズい』(主婦の友社)、『そろそろいい歳というけれど』(主婦の友社)、『私たちのままならない幸せ』(主婦の友社)がある。

「クオーターライフクライシス」は一度じゃない。何度も形を変えてやってくる

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──クオーターライフクライシスは、「20代後半から30代の人が経験する、漠然とした低迷期」などと定義されています。くるみさんも20代後半でクオーターライフクライシスを経験されたそうですが、何かきっかけはあったのでしょうか?

ジェラシーくるみさん 私は今30歳ですが、2〜3年前から、まわりで結婚や出産をする友人がぐっと増えてきたんです。25歳ぐらいまでは友達同士で「〇〇、もう結婚するんだって! 早いね〜」なんて言い合っていたんですが、そこから数年たつと、SNSで友達の結婚式の写真などを見かけるたびに、不安にも焦りにも似たモヤモヤを感じるようになりました。

最初、「これは妬みなのかな…?」とも思ったのですが、当時の自分は特に結婚願望が強いわけでもなかったんです。この気持ちはもう少し解像度を上げて覗き込む必要があるぞと思い、周囲の同世代の友人にも聞いてみることにしました。そうしたら私以外にも、同じような体験をした人が多く、なかには友人の投稿をミュートした・自分のSNSアカウントを作り直した、という人もいました。

もしかしてこの現象、名前がついているんじゃないかなと調べ始めたら、「クオーターライフクライシス」という言葉があることを知りました。

──まわりのお友達の中にも、同じようにクオーターライフクライシスに悩んでいる方はいましたか?

ジェラシーくるみさん 個人によって波はあるものの、おおよそ20代なかばくらいからモヤモヤを感じている人が多かった印象ですね。

なかにはそういったモヤモヤとは無縁そうに見える友人もいましたが、彼女たちは、“20代前半の悩みや迷いにいったんケリをつけた人”という印象でした。モヤモヤのフェーズをすでに乗り越えた感じというか。ただ、そういう人たちからも、「30歳を過ぎてまた悩み始めた」という話を聞いたりするので、クオーターライフクライシスは、何回か形を変えてやってくるんだろうなと感じています。

悩みはiPhoneのメモに書き出して、#タグで整理。気づかなかった悩みのパターンが見えてくる

──クオーターライフクライシスを感じたときに、くるみさんはそれを打開すべく、何かアクションを起こしましたか?

ジェラシーくるみさん
 「自分の気持ちに名前をつけて整理したい!」と思い、自分の思考をメモに書き出すようにしました。元々メモの習慣はあったのですが、20代後半からはその癖が加速しています。漠然とした負の感情を言語化することで、今の状況や気持ちを客観視できるようになり、負の感情から適切な距離を保ちながら自分を分析できるんです。

一度書いて終わりじゃなくて、「なんかモヤモヤするな」「今日、調子よくないな」という日があったら継続的に書いてみて、自分で自分を定点観測することが大事。ちょっと面倒なんですけど、本当に苦しんでいるなら、これは絶対にやったほうがいい。

メモをする際は、手帳なんて大げさなものをわざわざ使わなくても、スマホのメモ機能で十分だと思います。私の場合はiPhoneのメモ機能を使っていて、「#友達」「#家族」「#結婚」「#趣味」といったカテゴリーごとに、考えたことをハッシュタグ化してまとめています。

そのタグをあとから見返すことで、「私は自分で大きな決断ができないことにコンプレックスを抱えているんだな」「でも、この悩みに関してはちょっと前進したな」といったことがわかります。綺麗な文章にまとめなくていいので、ある程度システマティックにメモして習慣にしてしまうのがおすすめです。今、スマホを見返したら、2012年からのメモが4629件ありました(笑)。

──すごい数ですね…! いったん、メモに書き出して悩みを整理したあとは、どのようなステップを踏んで行動するといいと思いますか?

ジェラシーくるみさん 考えを整理してみると、単に気分や体調に波があるせいで生まれていたモヤモヤと、自分がずっと縛られている悩みが両方見えてくると思うんです。後者に関しては一度きちんと向き合ったほうがいいので、情報収集をしたり、まわりに相談してみたほうがいい気がします。

有効なのは、信頼できる友達に「あなたのまわりに、私みたいなことで悩んでいる人いないかな?」と聞いてみること。友人だけでなく、「友人の友人」の体験までキャッチアップすることができれば、悩みの粒度が一気に細かくなり、理解も深まりますよね。インタビュアーになったつもりで周囲の話を聞いて、自分の中に事例をどんどん集めていくイメージでいるといいと思います。そうすると、自分の中にあった偏見や思い込みに気づいたり、具体的なヒントが得られたりすることも多いはずです。

「友達の友達」は意外と気が合う可能性が高い

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──クオーターライフクライシスに陥っている人が特に悩みがちなのが、「友人」と「恋愛」の問題ではないかと思います。前編では友人関係にフォーカスしてお話を伺いたいのですが、周囲からもよく聞くのが、「アラサーになって新しい友達をつくるのが難しくなった」という悩み。くるみさんは、新しい友達をつくりたいと感じたとき、どうしますか?

ジェラシーくるみさん まずは「友達」をつくろうとするのではなく、「知り合い」を増やそうとしてみるのはどうでしょうか。習い事に通ってみたり、近所の居酒屋やバーで、普段は話さないような人と話してみたり。私はキックボクシングとピラティスを習っているんですが、学生時代にはなかなか知り合えなかったような人たちと顔を合わせる機会にもなるので、知り合いを増やす目的で通ってみてもいいんじゃないかなと。

──「友達をつくろう」と急に構えてしまうと、一気にハードルが上がってしまう気もしますね。

ジェラシーくるみさん 学生時代の友達と同じくらい親密な友達を今からつくろうとしても、かなり時間がかかりますよね。でも友人関係に対する漠然としたモヤモヤは、単に知り合いが増えて自分のコミュニティが少し広がるだけで、解決できる可能性があると思います。だから、「友人」というものに対する価値観のハードルを、少し下げてみてもいいかもしれないですね。

あるいは、もう少しだけアグレッシブな方法を挙げるとしたら、友人にほかの友人を紹介してもらうのもアリだと思います。仲良しの友達の話の中にいつも出てくる子っているじゃないですか。もしその子と気が合いそうだなと感じたら、「もしよかったら、今度三人でお茶してみたいんだけど、どうかな?」と思い切って聞いてみる。

会わせてもらって仮に気が合わなかったとしても、それはそれでいいんです。元の友人との関係は問題なく続いていくと思うので。友人から話を聞いて気になる人がいるなら、一度お願いしてみるのはひとつの手だと思います。

友人関係には濃淡があっていい。緩いつながりも悪くない

──友人関係に関しては、「今まで仲良くしてきた友達と、アラサーになって価値観が合わなくなってきた」という悩みもよく聞きます。「少し距離を置きたいけれど、どうすればいいんだろう…」とモヤモヤしている人も多そうですが、くるみさんはそんなとき、どうしますか?

ジェラシーくるみさん 冗談でひどいことを言う友達に対して、「今までは冗談として受け流せたけど、この歳になってしんどく感じるようになった」という話はよく聞きますね。もちろん、人の尊厳を傷つけるような発言をした人や、メンタルの上下が激しく、まわりをトラブルに巻き込んでくるような人がいる場合は、迷わず関係を切ってしまってもいいと思います。

ただ、そこまでではないけど、頻繁に会うのはちょっとしんどいな…という人がコミュニティの中にいるのなら、その人との距離は保ちながら、ほかのメンバーとは関係を続けることを検討してみてもいいと思います。毎回全員で会う必要はないし、一緒にいると心が荒むような人とは、極力距離を置いたほうがヘルシーですよね。

──関係を完全に切るのではなく、緩くつながり続けておくということですね。

ジェラシーくるみさん そうですね。つき合いに濃淡をつけるというイメージです。Instagramの投稿に反応したり、誕生日にメッセージを送ったりするくらいは続けてもいいんじゃないかなと。

人はどんどん変化していくので、一時期「嫌だな」と感じていた人も、人生経験を重ねる中で変わっていく可能性がある。自分もそうです。お互いの価値観がまた近づいてくることがあれば友達に戻ればいいし、そうでなかったら「縁がなかった」と考えるのもひとつの方法だと思います。

「縁」という考え方を、私も最近ようやくのみ込めるようになってきたんです。人間関係において自分がコントロールできる部分って、せいぜい半分くらいな気がするんですよ。価値観がどうしても合わない人や相性の悪い人を「縁がなかった」と捉えるのは、決して責任放棄や思考停止ではない。諦めのよさや潔さを身につけるのもひとつ大事なポイントなのかなと思います。

イラスト/中村桃子 構成・取材・文/生湯葉シホ 企画/種谷美波(yoi)