中元日芽香さんは乃木坂46の元メンバーであり、現在は心理カウンセラー。この連載では、“推される側”を経験し、“推す側”のメンタルにも寄り添ってきた彼女ならではの視点で、推し活とメンタルヘルスの関係について語ります。第14回のテーマは「推し活と恋愛」。推しへの疑似恋愛的な感情とリアルな恋人同士の感情はどう違う? 自身の経験を交えて語ります。
心理カウンセラー&メンタルトレーナー
1996年4月13日生まれ、広島県出身。2011年からアイドルグループ・乃木坂46のメンバーとして活動し、2017年に卒業。早稲田大学で認知行動療法やカウンセリング学などを学び、2018年にカウンセリングサロン「モニカと私」を開設。心理カウンセラーとして活動を始め、今に至る。著書に『ありがとう、わたし 乃木坂46を卒業して、心理カウンセラーになるまで』『なんでも聴くよ。中元日芽香のお悩みカウンセリングルーム』(共に文藝春秋)。現在、メディアプラットフォームnoteにて、日々の活動の中で気づいたこと、感じたことを月2回不定期更新中。
第14回のテーマは「推し活と恋愛」
「日芽香さんにとって、理想の恋愛とは?」と、今回改めて聞かれ、難しいな……と頭をひねりつつ考えてみました。私にとっての素敵な恋愛の定義はこうです。
「現実の自分と相手を、お互いちゃんと認識している関係、自分と相手の生活を犠牲にせず尊重できる関係であること」。好きな相手を束縛する、相手のためにお金や時間をたくさん使ってしまうのは依存状態。自分と相手がすり減ることなく、お互いの生活を両立できる関係にある。
これって、今までお話ししてきた、推す/推される側のヘルシーな関係性の取り方にとてもよく似ています。「推しに恋してる」なんて言葉をよく聞きますが、恋愛と推し活にはやっぱりたくさんの共通点があるんですよね。メンタルヘルス的な部分と、私自身の経験から、考えていきたいと思います。
恋をしても推し活をしても脳内は同じ状態に。その先に違いが生まれる
恋愛することによって脳内に分泌されるホルモンに、オキシトシンとドーパミンがあります。オキシトシンは「愛情ホルモン」とも呼ばれ、安らぎや相手との絆を強化。ドーパミンは「快感ホルモン」として知られ、モチベーションアップや行動力アップにつながります。このふたつのホルモンは、推し活でも分泌されるらしいと脳科学の分野でも話題にあがっているようです。推しが活動していることで気分がポジティブになる、仕事や休日をアクティブに過ごす、自分磨きを頑張ろうと思う。これは恋愛をしている状態に極めて近いと言われています。
ただし、ここで推し活と恋愛の相違点も浮かび上がってきます。脳内にこのホルモンが分泌され、生活で愛情を少しずつ噛み締め、幸せを感じられている分にはとてもいい状態。ですが、特にドーパミンは「どんどん欲しい」とエスカレートしていく性質があるのです。「1回目の握手会で名前を呼んでもらえた。次も覚えていてくれるかな」「このブログって自分に向けて書いてくれているのかな?」など、推し活を始めた初期の頃にはなかったような心の動きが生まれてくる可能性があります。
推し活の多くの場合は「一対複数」の関係です。実際の恋愛では「一対一」が基本の関係。ここに、推しへの愛情がふくらんでいっても、どうしても一方通行になってしまうリスクがあるのです。推し活では、プライベートの部分を知らないので互いの個々のパーソナリティがつかみづらい。これは恋愛との大きな違い。恋愛では相手と喧嘩をすることも、仲直りすることもできるけれど、推し活では衝突もないかわりに、感情の答え合わせができません。だから上手な距離感で付き合っていくことが重要なのですね。
実は私、乃木坂46の「重めカノジョ」だったかもしれません
私も推される側のアイドルとして、まさに今書いたような推し活の疑似恋愛の中にいたことを思い出します。乃木坂46の現役のメンバーだったとき、私は10代。あの頃を振り返ると、まさに乃木坂46というグループ自体に恋をしていました。
最初は、「グループの中で認められたい」。やがて「グループ全体でもっと上に行くことがモチベーション!」という気持ちに、そして「こんなに私はこのグループに愛情を注いでいるのに、なんで報われないのだろう?」……当時思っていた感情を並べてみたら、かなりの片思い。恋人関係なら「重めカノジョ」と言われるタイプですね。恋愛を経験する前の15歳で参加して、アイドル活動が楽しくて情熱を傾けて、ハマって、気がついたらドーパミンがドバドバ脳内に分泌(笑)。なかなかヘルシーとはいえない疑似恋愛状態だったかもしれません。
アイドル時代の自分のことを話すと、初恋というか、昔の恋愛を語っているような気持ちになって照れくさいですね(笑)。今、私はアイドルを卒業して、心理カウンセリングの仕事にも就き、そして結婚をしました。
推し活でも恋愛でも、自分のなかでちょうどいい関係性を持てたら素敵
19歳から一人暮らしを始め、27歳でパートナーと一緒に住むようになったとき、私は、ちゃんと肩の力が抜けている、ちゃんと眠れている、という実感がありました。一人でいるぞ、と気構えている時の方が緊張状態にあるタイプだったのかな、と思います。
今はパートナーという家族とオキシトシンとドーパミンを穏やかに供給し合っている感じがします。 家族と話し触れ合うことで、気持ちの切り替えになり刺激を受け、自分がこんなふうになりたいな、と思えたりする。これって、ゆるい「推しつ、推されつつ」の関係かもしれません。もちろん、家族に限らず、友人やペットからも得られる心の動き。推し活と恋愛、どちらかしか選べない、両方あった方がいい、なんてことは全くありません。私の場合は、結婚によっていつの間にかプライベートでもう一人、一対一で向き合える「推し」が増えたかも、という感じ。みんながそれぞれ、自分のなかでちょうどいい関係性を探っていけることができたら、どれも素敵な推し活であり恋愛になるように思います。
パートナーと話し触れ合うことで、気持ちの切り替えになり刺激を受け、自分がこんなふうになりたいな、と思えたりする。これって、ゆるい「推しつ、推されつつ」の関係かもしれません。もちろん、パートナーに限らず、友人やペットからも得られる心の動き。推し活と恋愛、どちらかしか選べない、両方あったほうがいい、なんてことは全くありません。
私の場合は、結婚によっていつの間にかプライベートでもう一人、一対一で向き合える「推し」が増えたかも、という感じ。みんながそれぞれ、自分のなかでちょうどいい関係性を探っていけることができたら、どれも素敵な推し活であり恋愛になるように思います。
シャツ¥38500・スカーフ¥10450/フィーニー パンツ¥26400/ボウルズ(ハイク) ピアス¥11550・リング¥7480/ソムニウム 靴¥36000/COS 青山店(COS)
撮影/森川英里 ヘア&メイク/上野祐実 スタイリスト/高野麻子 画像デザイン/齋藤春香 取材・文/久保田梓美 企画・構成/木村美紀(yoi)