「yoi」ではSDGsの17の目標のうち「3. すべての人に健康と福祉を」、「5. ジェンダー平等を実現しよう」、「10. 人や国の不平等をなくそう」の実現を目指しています。そこで、yoi編集長の高井が、同じくその実現を目指す企業に突撃取材! 第4回は、2023年9月27日にデビューしたウェルネスブランド「Mood is me.」について、「アダストリア」の渥美昌子さんにお話を伺いました。
◆「Mood is me.」とは?
年齢や性別を問わず、自分の素直なキブン(Mood)に目を向けてフィジカルとメンタルを整え、ポジティブなキブンを引き出すことで「心身ともに健康で美しくあること」を提案するウェルネスブランド。「ビューティー」「フィットネス」「リラックス」「食欲」「睡眠欲」「性欲」という6つのカテゴリを軸に、国内外のヘルス&ビューティーおよびセクシャルウェルネスグッズを公式Webストアで販売中。 今後はポップアップストアやワークショップイベントなどを開催予定。
アダストリアの渥美昌子さん(写真左)と高井編集長。
アダストリア
2004年にポイント(現アダストリア)入社。「Heather」のVMDとエリアマネージャーを兼任、「repipiarmario」でブランドディレクターや事業部長に従事。2022年より新規事業の立ち上げ準備にかかわる。
ファッションからセクシャルウェルネスの世界へ
高井 渥美さんは、もともとファッションブランドのマネージャーをされていたんですよね。どのような経緯で「Mood is me.」を立ち上げられたのでしょうか。
渥美 6年ほど「Heather」というブランドを担当した後、「repipi armario」というティーンズブランドに携わっていましたが、コロナ禍に新規事業を立ち上げる部署へ異動になって。ファッションだけやってきた私に何ができるだろう?と思っていたときに知ったのが「フェムテック」という言葉でした。それからは会議のたびに「市場調査にアメリカへ行きたい」と言い続けたんです。単にアメリカへ行きたいという下心もありつつ(笑)。
高井 それで実際にアメリカへ?
渥美 はい。ちょうどその頃、日本で友達が「セクシャルトイを持ってる」という話をさらっとしていて、その振る舞いがすごく格好よくて印象的だったんですよね。実際にアメリカへ行ってみると、大型量販店の棚にセクシャルトイが普通に置かれているし、「FREE PEOPLE」や「URBAN OUTFITTERS」といったファッションブランドのお店でも服と一緒に販売していました。サンタモニカにあるセクシャルトイのお店では、おしゃれな店内でカップルや20歳前後の女の子が普通に選んでいる。その姿を見て「もしかして、これかも」と。
日本に戻ったタイミングで、アメリカ支社の人がアメリカのセクシャルトイに関する『The Business of Fashion(BoF)』というニュースサイトのレポートを共有してくれて、読んでみたら、コロナ禍ですごく売り上げが伸びているという記事でした。そこで、改めて「セクシャルウェルネスでいこう」と決めましたね。
高井 すでにアメリカでは、ファッションのスタイルでセクシャルウェルネスを扱うことがスタンダードだったんですね。ブランドのスタートは2023年9月でしたが、社内でプロジェクトが決定したのはいつ頃ですか?
渥美 2022年11月1日です。帰国後、経営陣に「セクシャルウェルネスをテーマにしたい」とお話しして『BoF』のレポートを渡すと、「ありかもしれないな。やるなら一番にやったほうがいいぞ」と言ってくださって。
高井 「やるなら一番に」というスタンスは、まさにアダストリアの今をつくっている気がします。そのあと社内プレゼンもされたんですよね?
渥美 はい。セクシャルウェルネスについて社内の女性を対象にアンケートをとると800人中600人が回答してくれて、約50%が「セクシャルトイを使ってみたい」と答えたことなども資料に盛り込みました。私はプレゼンがあんまり得意ではないので、できるだけ興味を持ってもらえるようにセクシャルトイをたくさん持ち込んで、「サンプルです」と配ったりもしました(笑)。
楽しむときにいちばん大事なのは、“気分(Mood)”
高井 会議の出席者を巻き込んでいったのですね。「プレゼンが得意ではない」とおっしゃいましたが、渥美さんはすごく朗らかなパワーで、「これをやったら面白いかもしれない」というムードをおつくりになったのだと思います。
渥美 ファッションは、楽しくないといけないと思っていて。私たちはファッションの会社ですし、会議も笑って楽しまないと、いいアイデアなんて絶対に出ないと思うんです。
セクシャルトイを扱うショップは日本にもありますが、まだまだ女性には行きにくい空気がありますよね。それをファッション感覚で気軽に楽しむこととして提案できるのは、うちの会社しかないんじゃないかという思いもありました。
高井 「Mood is me.」というブランド名も素敵ですが、どんな思いを込められたのでしょうか。
渥美 楽しむときにいちばん大事なのは、“気分(Mood)”だと思っているので、「Mood」を使うことは初めから決めていました。高井さんにお話ししたようなことをデザイン会社の人たちに伝えていく中で生まれたのが、“キブンは私そのもの。”という意味の「Mood is me.」なんです。
ブランドを立ち上げる上でも、楽しいものであることを意識しました。きちんとメッセージは伝えつつも、思わず真似したくなるような空気というか。
高井 確かに“気分”ってとっても大切ですよね。そのメッセージとともにブランドが広がっていくことで、セクシャルウェルネスへのハードルも下がると思います。
男女問わず、誰もが輝くためのブランドにしたい
渥美 そう言っていただけるとすごくうれしいです。もともとセクシャルウェルネスへの思いからはじまったブランドですが、もう少し視界を広げると、心身ともに健康であることを意味する「ウェルネス」につながるんですよね。ですから、ブランドでは「ビューティー」「フィットネス」「リラックス」「食欲」「睡眠欲」「性欲」という6カテゴリを軸にしています。その日の“気分”って、まさにフィジカルとメンタルによって決まるものなので。
高井 素晴らしいですね。ブランドが立ち上がってから、社内の反響などはいかがですか。
渥美 「Mood is me.」というブランドがあることで話しやすい空気が生まれましたね。性別や年齢を問わず「実はさ…」と話してもらえるのがすごくうれしいです。特にセクシャルウェルネスについては、さまざまな経験や思いを持つ人がいるので、話が尽きなくて。
高井 ブランドやアイテムがあると、自然と話題も生まれますよね。セクシャルトイも、コスメのように「自分は何が好きなのか」という視点から選べる人が増えれば、もっと自由に楽しめるようになるのではないかと思います。
渥美 そうですね。色々な企業やブランドが協力してくださっているのですが、これまで「アダルトグッズ」というカテゴリでの情報発信にすごく苦労されてきた分、「アダストリアが一緒にやってくれるのは業界としてもうれしい」と言ってくださるんです。熱意というかチーム感がすごくあるんですよ。
高井 それは素敵な関係ですね。今後の展開についても教えていただけますか。
渥美 2023年12月15日にオリジナルの洗顔フォームをリリースします。まだ企画段階ではありますが、今後はサプリメントなどのインナーケアにもチャレンジしたいですね。
高井 これまでのお話とも重なるかもしれませんが、どんなブランドに育てたいと思っていらっしゃいますか。
渥美 人生100年時代だからこそ、おしゃれをするのも、趣味にいそしむのも、誰かと会うのも、楽しむためには心と体の健康あってこそだと思うんですよね。ですから、男女問わず、誰もが輝くためのブランドにしたいですし、「アダストリアには『Mood is me.』があるよね」といってもらえるような存在になりたいです。
取材を終えて…
「Mood is me.」で扱っている商品は、アダストリアのECサイトから購入できます。専門的なサイトではなく、普段自分が洋服や小物を選んでいるサイトからセクシャルウェルネスのグッズやフェムテック関連のアイテムを見たり、知ったり、購入したりできることは、確実に私たち、そして世の中を変える力があると思います。
渥美さんはフェムテックの世界に、誰もが気軽にアクセスでき、そして「楽しい」と感じられる入り口を作りました。フェムテックやフェムケアの普及には多くの意義がありますが、実はこういう入り口が今までなかったのではないかと思います。「楽しい」ことには、人が集まってきます。若いスタッフも多いアダストリアのパワーに触れ、未来へ向かう活力をいただきました!(高井)
撮影/露木聡子 構成・取材・文/国分美由紀 企画/高井佳子(yoi)