今週のエンパワメントワード「デビューの覚悟はできた?」ー『ローラーガールズ・ダイアリー』より_1

『ローラーガールズ・ダイアリー』
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パワフルなチームメイトがくれた勇気

大好きな映画は、と聞かれると多すぎて悩んでしまうけれど、ひたすら元気になりたいときに見たい映画ならすぐに答えられる。俳優のドリュー・バリモアが監督した『ローラーガールズ・ダイアリー』。2000年代、『50回目のファースト・キス』『2番目のキス』『ラブソングができるまで』など良質なラブコメ映画で次々に主演したドリュー・バリモアが、2009年に初めて監督し、自ら出演もした本作は、王道の青春映画でありながらとてつもなくパワフルなガールズムービーで、公開当時大興奮したのをよく覚えている。

主人公は、テキサスの小さな街で暮らす17歳の「ブリス」。演じたのは俳優のエリオット・ペイジ。ブリスは、母親の強い希望でミスコンへの出場を続けているが、実際はコンテストにも保守的で厳しい母にもうんざりしていて、いつも親友の「パシュ」と「早くこんな田舎を出て行きたい」と愚痴ってばかりいる。でも反抗するだけの度胸はなく、こっそり髪を青く染めたり、噓をついてパシュと夜遊びに出かけるのが関の山。そんなある日、オースティンで開かれたローラーゲームを見たことで、ブリスの人生は大きく変わりはじめる。

ローラーゲームとは、ローラースケートをはいた2チームが競い合うゲーム。スピードを競うだけではなく、アメフトのように時に体を激しくぶつけ合い、相手選手のあいだを素早く駆け抜けて点を稼ぐ。この荒っぽいゲームの虜になったブリスは、人気チーム「ハール・スカウツ」の入団テストを受け、見事に合格する。そうして、期待の新星「ベイブ・ルースレス」=ブリスが誕生する。

ついに訪れた試合当日。控え室では、チームメイトがブリスの化粧を手伝ってくれる。試合にはショーのような華やかさも必要だ。アイライナーを目一杯濃く塗って、マスカラをたっぷりつけて、マウスピースをつければ準備万端。〈デビューの覚悟はできた?〉。チームメイトの言葉に、ブリスはまだ不安げな顔。でも試合が始まればその顔はすっかり闘志に満ちあふれ、華々しいデビューを飾る。

ブリスの退屈な日々は一変する。年上のチームメイトたちに可愛がられ、試合を見にきたバンドマンの「オリヴァー」とデートを重ねる。何よりローラーゲームの練習や試合が楽しくて仕方ない。だがある事件を機に、内緒にしていたローラーゲームへの参加が親にバレ、パシュやオリヴァーとの関係にも暗雲が立ち込める。何もかもうまくいかず投げやりになったブリスの背中を、頼もしい姉のようであり、悪友でもあるチームメイトたちが、力強く押してくれる。ローラーゲームの世界に飛び込んだように、ブリスは母親と正面から対峙する覚悟を決める。

人生はローラーゲームそのものだ。いろんな壁にぶつかり、思わぬ障害につまずいては、傷だらけになる。それでもブリスは立ち上がり、アザのできた体で前へ前へと進んでいく。力任せに体当たりするだけではダメ。仲間を信頼し、進むべき道を見定めながら、迷わず前進する度胸と覚悟が必要だ。

チームメイトは必ずしも完璧とはいえないし、暴力的だったり、怠惰だったりと、でこぼこな人たちばかり。そんな女性たちを、これほど魅力的に、力強く肯定する映画は他に見たことがない。ドリュー・バリモアの監督業は今のところ本作しかないけれど、また監督として新たな女性映画を作ってほしい。そして、本作で主演し、2020年にトランス男性であることを公表したエリオット・ペイジの新たな活躍にも期待したい。

月永理絵

編集者・ライター

月永理絵

1982年生まれ。個人冊子『映画酒場』発行人、映画と酒の小雑誌『映画横丁』編集人。書籍や映画パンフレットの編集のほか、『朝日新聞』 『メトロポリターナ』ほかにて映画評やコラムを連載中。

文/月永理絵 編集/国分美由紀