2024年に日本に初上陸した、アメリカで最も支持される「Flex」使い捨て月経ディスク。創業者のローレン・シュルト・ワンさんと、かねてから本製品に注目していたという、吸水ショーツのパイオニア的ブランド「Bé-A〈ベア〉」創業者の髙橋くみさんの対談が実現しました。生理用品の開発に至った経緯や、「Flex」の製品へのこだわり、日本とアメリカの生理用品に対する意識の違いなど、日米のフェムテック市場をリードする二人の意見交換をレポート!

創業者・CEO
サンフランシスコでIT系スタートアップ企業に在籍中、自身の生理の悩みと向き合う中で生理用品に興味を抱く。ChatGPTの創業者で、OpenAIのCEOであるサム・アルトマンの出資を受けて、アメリカ初の使い捨て月経ディスクの開発に挑む。2015年にThe Flex Co.を創業し、2016年10月に「Flex」ブランドの月経ディスクを発売。これまで1億5,000万枚以上を売り上げ、アメリカNo.1の月経ディスクブランドに。女性の健康と福祉をサポートする企業リーダーとして国際的に注目されている。

代表取締役CEO
UCL(ロンドン⼤学)卒業後、外資系映画会社、外資系アパレル会社を経て共同経営者の⼭本未奈⼦と共にMNC New Yorkを設⽴。シングルマザーに育てられたこともあり「ジェンダー平等」「⼥性のエンパワメント」には⼈⼀倍の関⼼と持論を持つ。2020年3⽉にBe-A Japanを設⽴。家族と暮らすアメリカ・ロサンゼルスと日本を⾏き来しながら経営を⾏う傍ら、生理や女性活躍推進に関してのセミナー等を積極的に行う。
サニタリー用品の開発に挑んだ背景には、自身が生理で悩んだ経験が

——お二人が、サニタリー用品を開発するに至った経緯を教えてください。
ローレンさん:私は昔から経血量が多く、タンポンなしには生理を乗りきれませんでした。しかし、私の場合はタンポンを使い続けた影響もあってかカンジダを繰り返すようになってしまって。
洗濯洗剤を変えてみたり、ベジタリアンになってみたり、下着を変えてみたり…できることは片っ端から試したけれど、効果は得られなかった。仕方なく抗生物質で治療し続けていたのですが、あるとき、医師からタンポンの使用を見直すように言われました。
それがきっかけで生理用品について疑問を抱いた私は、女性たちと生理について話し合う機会を設けました。すると多くの女性が、においや漏れといったストレスの原因を製品にあるとは考えず、生理そのものを憎み、自分の体を恥じていた。とても悲しい気持ちになったのと同時に、「月経ケアを根本から変えなければいけない」と、使命感を抱いたのを覚えています。そうして、「Flex」月経ディスクの開発を始めました。
髙橋さん:ローレンさんと同じく、私も経血量が多く、自分で商品を開発するようになってきちんと調べたら、経血量が最も多いとされる2日目の平均が約40mlのところ、私は初日に70mlも出ていました。多い日用のタンポンとショーツ型ナプキンを併用する中で、アメリカで吸水ショーツの存在を知り、試しに使ってみたんです。すぐに漏れてしまったんですけど、アイディアは素晴らしいな!と。そもそもご自分の経血量を知っている方はほとんどいないと思うのですが、 「漏れてしまう…」と悩む方でも安心してサニタリー期間を過ごせるショーツを作りたいと思いました。
アメリカで売上No.1・「Flex」使い捨て月経ディスクの魅力とは

(左)Flex Menstrual Disc 12個入り ¥5500(定価)/Flex(右)ベア シグネチャー ショーツ 04 ¥7480/Be-A
——ローレンさんが立ち上げたブランド「Flex」は、アメリカで最も売れている使い捨て月経ディスクだそうですね。装着方法や使いやすいポイントなどを教えてください。
ローレンさん:「Flex」の最大の魅力は、ブランド名の由来にもなっているフレキシビリティ(柔軟性)。初めて見る人は「そんなに大きなものが入るの?」と驚くのですが、リム(フチ)の部分をつまむと指よりも細くなります。つまんだ状態で腟に挿入して、指を使って奥まで押し込む。前側のリム(フチ)を持ち上げて恥骨の後ろに引っ掛ければ、装着完了です。
髙橋さん:すごく柔らかくて、少し力を入れるだけで簡単につまめますね。月経カップよりも挿入しやすそう!

腟の模型を使い、月経ディスクの使い方を説明するローレンさん。
ローレンさん:腟管内に装着するタンポンや月経カップと違い、月経ディスクは子宮頸部を取り囲む腟円蓋(ちつえんがい)に装着します。この部分は神経終末が少なく、装着中の違和感を感じにくいという人が多くいます。また、腟円蓋のサイズは個人差がほとんどないため、「Flex」はワンサイズ。月経カップのようにサイズ選びで失敗する心配もありません。
容量は、平均的なタンポン5個分以上に相当する60mlの経血を受け止められます。最大12時間の装着が可能なので、経血量が多すぎない方は、朝に装着したら夜まで取り替え不要です。「Flex」を使い慣れたら試してほしいのが、“オートダンプ(自動排出)”と呼ばれるテクニック。トイレの際に少し力むとディスクが変形して、ディスクにたまった経血が流れ落ちるんです。経血量が多い日も、オートダンプをすれば取り替える必要がありません。
髙橋さん:装着したまま寝たり運動したりするのはもちろん、セックスもできるとか。アメリカで初めて「Flex」を見つけたとき、パッケージに“mess-free sex”(汚れないセックス)と書かれていて衝撃を受けました。
ローレンさん:そうなんです! ディスクが腟内の奥で経血をブロックするので、経血のにおいや汚れを気にすることなく、いつも通りにセックスを楽しむことが可能。このことがネットで大きな話題になって、「Flex」が広く知られるキッカケになったんです。生理中のセックスを推奨しているわけではありませんが、多くの人がこういった機能を求めていたのだと実感しました。
日本とアメリカに共通しているのは、生理教育の不足

——現在、日本とアメリカの二拠点生活を送っている髙橋さん。日本とアメリカで、生理用品に対する意識や知識が違うと感じることはありますか?
髙橋さん:どちらの国でも、まだまだ情報が行き渡っていないと感じます。どのくらいの量が普通か、 もしくは多いのであれば婦人科に行ったほうがいいレベルなのかもまったく知られていません。
ローレンさん:その通り。「Flex」の容量もタンポンの本数に例えて伝えています。
髙橋さん:Bé-A〈ベア〉がスタートした2020年頃から 生理=タブーという意識も変わりはじめ、日本でも徐々にオープンになってきていますが、アメリカのほうが進んでいる印象です。スーパーやドラッグストアに行くと、棚一面に月経ディスクや吸水ショーツ、月経カップなど、あらゆる種類の生理用品が並んでいて、選択肢がとにかく多い。生理用品のパッケージに“mess-free sex”と書くことも、日本ではあり得ないですよね?

ローレンさん:確かに選択肢は多いですね。一方で生理についてオープンに話せるかというと、まったくそうではない。若い世代も例外ではなく、その理由はリプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)の教育不足だと感じています。アメリカの保守派はリプロダクティブ・ヘルスをセックスと直結させる傾向にあり、50ある州の半分以上は、性教育すら行なっていないんです。
髙橋さん:日本の多くの学校でも、性教育に十分な時間はとられていないと思います。姪っ子が小学6年生のとき、生理が始まって数年たっているにもかかわらず、経血がどこから出ているのか知らない、汗のように滲み出ているのかと思ったと言っていて驚きました。
ローレンさん:学ぶ機会がないのだから、仕方ないですよね。そういった危機感から、私たちは教育支援にも力を入れています。自分の体や生理の仕組みを理解しなければ、自分にとって正しい選択はできませんから。
月経ケアはヘルスケア。さらなるイノベーションと透明性が必要

——アメリカの生理用品やフェムテック、セクシュアルウェルネスの考え方で、日本に紹介したいものはありますか?
髙橋さん:日本では、腟に物を入れる行為に抵抗を感じている方が多いです。生理中、もっと快適に過ごせるチョイスが広まらないのは、すごくもったいない。アメリカでは先日も尿もれを防ぐタンポンを見つけて驚いたのですが、日本では、こういった目新しい製品がなかなか登場しません。吸水ショーツもそうですが、サニタリー期間がラクになるように、 もっとたくさんの選択肢を知って自分に合ったものを選んでほしいです。
ローレンさん:くみさんがおっしゃったことにもつながりますが、月経ケアはヘルスケアであり、他のウェルネス分野と同等のイノベーションと透明性を求めるべき。これは、私たちが日本に広めていきたい意識のひとつです。
アメリカでは年々フェムテック市場が拡大しており、月経や妊活、更年期、セクシュアルウェルネスなどをサポートする製品やサービスが爆発的に増加しています。これらの企業の多くは、消費者からの直接的なフィードバックを活用して、よりよい製品を生み出している。このアプローチを紹介することで、日本のフェムテック市場を大きく前進させられる可能性があると考えています。
撮影/wacci 構成・取材・文/中西彩乃 企画/木村美紀(yoi)