不妊治療を経験して、悩んだこと、気づいたこと。シオリーヌ × つくし「私たちの妊活」パートナー対談_1

不妊治療を経て現在妊娠中の、助産師兼性教育YouTuberのシオリーヌさん。人気連載「シオリーヌのSAY(性) HELLO!」Vol.13からは、妊活の体験談や、妊娠してから気づいた小さな違和感、子育てについて今思うことなどを、パートナーのつくしさんを迎えて3回にわたって特集します。第1回はシオリーヌさんとつくしさんが経験した妊活について、じっくりお話を伺いました。

つくし/TSUKUSHI●シオリーヌさんのパートナー。1997年生まれ、北海道室蘭市出身。看護師資格を有し、現在は医療系企業にも勤務。仕事柄、SRHR(性と生殖に関する健康と権利)やパートナーシップに関心あり。今夏、第一子を迎え入れるべく、最近は育児のお役立ち情報の収集に励む。

交際前から話していたライフプラン「30歳には子どもがほしい!」

不妊治療を経験して、悩んだこと、気づいたこと。シオリーヌ × つくし「私たちの妊活」パートナー対談_2

ーーシオリーヌさんとつくしさんが結婚したのは、2020年の春。子どもがほしいという話は、いつからしていましたか?

シオリーヌ 実は、つき合いはじめる前から子どもの話はしていたんです。つくしと出会って、お互い「ちょっといいな〜」と思いはじめていた頃、私は28歳でつくしはまだ23歳でした。私はずっと「30歳になる頃には子どもがほしい」と思っていたけれど、5歳も下のつくしが、そのとき子どもを持つことまで視野に入れているのかはわからなかった。だから、つきあいはじめる前にまずお互いのライフプランが合うかどうかを相談したんです。

つくし そうだったね。自分はそれまで、全国をヒッチハイクしたり、リゾートバイトをしたりとアクティブに動き回る生活をしていました。だから最初は、子どもができたら身動きが取れなくなるような気がしていた。でもシオリと話し合うなかで、「子どもがいるからこそできることもあるな」と思えるようになって。だから、結婚して子どもを持つところまで視野に入れたうえでつき合いはじめました。

シオリーヌ その時点で、すでに子どもに関するビジョンが共有できていたんです。そこから逆算して妊活を始める時期を話し合い、まずは子宮・卵巣の異常がないか、性感染症にかかっていないかなどを検査するブライダルチェックに行くことに。そのために、7年ほど飲みつづけていたピルを中止して排卵を再開させるところからスタートしました。

ーーまるで会社の経営戦略のような、念入りなプラン策定ですね!

シオリーヌ はい(笑)。家族会議のときはアジェンダを作成して話し合っているくらい、計画をしっかり立てたい派なんです。

つくし 会社みたいに議事録もちゃんと取って、ファイリングして保管しているしね(笑)。

「念のため」に行ったブライダルチェックで、まさかの病気が発覚

ーーいよいよ妊活がスタート。まずは自然に妊娠するのを待つカップルが多いと思うのですが、二人は最初にブライダルチェックを受けに行ったのですね。

シオリーヌ そうなんです。私は助産師、つくしは看護師として働いていたので、ブライダルチェックの必要性は二人ともよくわかっていました。妊活を始めるなら、最初にブライダルチェックを受けるというのがもともと共通認識だったんです。

ーーブライダルチェックの様子は、シオリーヌさんのYouTubeでも公開していますね。ここでまさかの多嚢胞性卵巣症候群(PCOS:男性ホルモンの影響で卵子が育ちにくく、排卵も起こりにくくなる疾患。生殖年齢の女性の6〜8%に見られる)が見つかるという展開に。

シオリーヌ 本当に驚きました。医師からも「このまま撮影を続けて大丈夫ですか?」と気を遣われたほど。もともと生理が重めだったとはいえ周期が不順だったことは一度もなかったから、ブライダルチェックも「何もないと思うけど『大丈夫だったね!』の確認のため検査しておこう」という気持ちで受けたんです。だから、まさか自分に婦人科疾患が見つかるとは…。

つくし 驚いたけれど、それよりも大きかったのは「早めにわかってよかったな」という気持ちでした。だってそのためにブライダルチェックを受けたのだから。妊活のプランを練り直して、改めて今後のことを考えていこうと思いましたね。

シオリーヌ そうだね。早めにわかったのは本当によかった。ブライダルチェックを受けずに自己流で妊活していたら、なかなかできないまま数年を過ごしていたと思う。そうなっていたら…きっと後悔していたんじゃないかな。

ホルモン療法、タイミング法、人工授精…。不妊治療のステップ、二人の場合

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ーーそして不妊治療を始めたんですよね。最初はどのようなステップだったのでしょうか?

つくし まずは、家から通いやすい病院に変えることになりました。そこで改めてチェックを受けて、僕も再び精液の検査などをしましたね。

シオリーヌ 私はブライダルチェックよりさらに踏み込んだ検査をしました。卵管造影検査(子宮から卵管まで造影剤を流してレントゲンを撮る検査)や、子宮鏡検査(子宮の中にカメラを入れて内部をチェックする検査)などを受けて、PCOS以外に妊娠を妨げる要素が特にないことを確認してから治療に進みました。

ーー具体的にはどんな治療を?

シオリーヌ まずはホルモン剤を注射して卵子を育て、排卵を促すという治療をすることに。でも最初の周期では卵子がうまく育たなくて、いわゆる「リセット(月経を起こすため治療をいったん休憩する)」という結果になってしまいました。

ーーリセットを経験したときは、どんな心境でしたか?

シオリーヌ 最初に思ったのは、「今までかけた時間とお金が無駄になってしまった…」というガッカリ感。仕事の合間をぬって病院に行き、診察のたびに2、3時間もかかっていたのに、それが水の泡か、と。しかもリセットになることを告げられた日がちょうど大きな仕事のある日で、頑張って早起きして朝イチで通院した日だったんです。そういう個人的な事情も相まって…頑張っていただけにガックリ来ちゃって。

つくし その日の夜は、妊娠しているかもしれないからと避けていたお酒を飲んで、お寿司を食べたよね。

シオリーヌ 生物も控えるようにしていたからね。「どうせ妊娠していないなら、いったん寿司を食べよう」って(笑)。何年も治療をしている方から見たら、私のガッカリ感なんてほんの序の口だと感じるだろうと思うんです。それでもこのときは相当こたえました。

ーーリセットを経験して、次の周期ではどんな治療をしましたか?

シオリーヌ 次の周期ではホルモン剤を内服して卵子を育てることに。そうしたら卵子がうまく育って排卵も起こりそうな状態になったので、タイミング法(医師の指導のもと、妊娠に最適な時期に性行為を持つ方法)と人工授精(子宮に直接精子を注入する方法)を同時に行いました。どちらかだけを選ぶこともできたのですが、せっかく育ってくれた卵子を逃したくなかったので、少しでも確率を上げるために両方ともやってみることにしたんです。

ーーその結果、無事に妊娠! 2周期目で妊活を卒業することになったんですね

シオリーヌ こればっかりは完全に運がよかったとしか言えないですね。

妊活中、二人で足並みをそろえるために心がけたこと

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ーーシオリーヌさんの通院中、つくしさんはどんなサポートをされたのでしょうか?

つくし 受診にはほぼ毎回つき添っていました。内診などの場に立ち会うことはできませんが、医師から話を聞くときはシオリと一緒に聞くようにしていましたね。帰り道の車の中では、二人で今後の方針を話し合うのが日課になっていました。

シオリーヌ いつも一緒に来てくれたのは本当に大きな支えだった! つくしの立ち会えない内診や検査の場で言われたことも、私から逐一伝えるようにしていました。情報を共有するためにやっていたことだけど、「大変だったね、お疲れさま!」って労ってもらいたい気持ちもあった(笑)。

つくし 妊娠するために頑張ったことに対しては「ありがとう!」って言ってもらいたいもんね。

シオリーヌ 普段から、「相手が察してくれなくてモヤモヤする」という状態を避けるため、ほめてほしいことや労ってほしいことはお互いに積極的に申告するようにしているんです。妊活中もそれは変わらなかったですね。

ーーコミュニケーションを大切にしているお二人ですが、最初の周期がリセットに終わったとき、つくしさんはシオリーヌさんにどんな声をかけましたか?

つくし 確かにガッカリはしたけれど、最初から不妊治療には時間がかかるとわかっていたので、そこまでショックではなかったです。何より、頑張っているのはシオリだという思いがあったので、「治療を頑張ってくれてありがとう」と伝えましたね。シオリ本人がいちばんガッカリしているだろうから、気安く励ましたりはできないなという思いもありました。

シオリーヌ 確かに、つくしから「頑張ろう」と言われたことはなかったかも。

つくし うん、だって治療期間はつらかったでしょ? リセットになったのは残念だったけど、生理中は通院しなくていいから、いったん妊活のことを忘れられた。二人にとっては逆によかったかもしれません。

シオリーヌ そうだね、通院しなくていいと思うと気が楽になったね。

言葉にして話すことで、心の整理ができた

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シオリーヌ そうは言っても、私は治療期間も短かったし、メンタル的にはわりと健やかに妊活期間を過ごすことができました。その理由は、つくしとたくさん話し合っていたからだと思います。同じくらいの熱量で一緒に取り組んでいたし、「これは二人のプロジェクトだ」という意識を持てていたのが大きかったですね。

つくし あとは、YouTubeで配信するために毎回動画を撮っていたのが、意外とメンタルにはよかったのかも。

シオリーヌ そう! 「診察内容のようなプライベートなことまで配信してすごいですね」と視聴者さんによく言われるんだけど、一回一回動画を撮り終える頃には、その日の受診で感じたことが消化できているんです。動画の最後に「ではまた次回の動画でお会いしましょう、バイバイ!」と言うことで、自分の気持ちのうえでもその日の受診が終わるような感覚でしたね。

つくし 動画にすることで、気持ちの整理をつけていたよね。

シオリーヌ 私にとっては、それがある意味で救いになっていた。SNSの妊活アカウントに投稿することで、気持ちの整理をつけている人も多いと思います。

つくし SNSをやっていない人でも、その日の受診で感じたことを身近な人と一緒に振り返れると、楽になる部分もあるのかもしれないですね。

仕事と妊活の両立が難しすぎる現状、おかしくない?

ーー3カ月強に及んだ、シオリーヌさんの不妊治療期間。トータルでかかった費用は…?

シオリーヌ 交通費などは入れず、医療費のみで10万円弱でした。今年の4月から不妊治療の保険適用がはじまったので今とは状況が異なりますが、人工授精の次のステップ、体外受精をすることになるとまた費用が増えます。とにかく、不妊治療にはお金がかかるなと実感しました。

ーー排卵前の卵を育てる期間には2日に1回ほどの頻度で病院に通ったとのことですが、仕事との両立はどうしていましたか?

シオリーヌ 本当に大変で、「9時〜5時など平日定時勤務で働く会社員の方はどうしているんだろう?」って毎回のように思っていました。診察が終わると当たり前のように「じゃあ次は2日後に来てください」と言われるのですが、普通に働いていたらかなり難しいですよね? それでも卵子は待ってくれないので、どうにかして行くしかない。私は時間の融通もきくほうだし、まわりの方の理解があったから、 "卵都合" でしかたなくスケジュールの調整をお願いしたことが何度もありました。

つくし そもそも仕事が忙しいなかで、休みを取って通院するのはすごく大変なこと。さらに不妊治療の場合は成功するかもわからないし、妊娠したとしても初期に流産してしまう可能性だってある。そんなプライベートなことを、会社の上司など周囲の人に伝えたうえで休みを取らなきゃいけないというのは、ものすごくハードルが高いですよね。

シオリーヌ 視聴者の方からも、「仕事と妊活を両立できず、退職してしまった」というコメントをたくさんもらいました。まだ妊娠していない段階でキャリアを中断しないといけない仕組みは、どう考えたっておかしいですよね。妊活に限らず、親の介護や自分の心身の不調など、いろんな事情でそれまでと同じように働けなくなる人はいるわけです。多くの企業で今、取り組んでいる問題だと思いますが、誰もがもう少しフレキシブルに働ける世の中になるといいですよね。

妊活当事者になって、初めてわかったこと

ーー妊活の経験でシオリーヌさんが得たものや、学んだことはありますか?

シオリーヌ 当事者になって初めてわかることがものすごく多かったです。例えば、不妊治療をしている人のSNSアカウントが世の中にはこんなにあることを、初めて知りました。リアルな場で話せる人がなかなかいないから、ネットでつながって、悩み事やつらい体験を共有している。不妊治療中の方へのメンタルサポートがもっと必要だと痛感しましたね。一方で、その不安な気持ちにつけ込むようなデマや怪しげなビジネスもたくさん存在している。私もネットで調べた情報と自分を比べて一喜一憂していたから、そういうものにすがりたくなる気持ちはすごくよく理解できます。

つくし 妊活中は、どうしても不安になってしまうからね。自分たちの場合、そういうときは「ネットの情報だけで判断せず、次の受診で先生に聞いてみよう」と話をしていました。

シオリーヌ 意思決定の参考にするのは、あくまで担当医の言うことだけ。これは二人で決めていたね。

ーー自ら情報を発信する立場として、考えたことは何かありましたか?

シオリーヌ 不妊治療の当事者にもグラデーションがあって、私のように数カ月しか経験しない人もいれば、何年も治療を続けている人もいる。だから、私が自分の体験を話すことで誰かを傷つけていないかと、深く悩みました。YouTubeで妊娠を公表したときも、ポジティブなフィードバックばかりではなかった。でも、そこで何も発信しなくなってしまうのは違うかな、と。あくまでひとつの事例でしかないことを肝に銘じたうえで、私が経験したことや感じたことに関しては誠実に伝えていきたいと思っています。

改めて実感した、性教育の重要性

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つくし 妊活の経験を通して自分が何より伝えたいのは、男性も女性も、最初にブライダルチェックに行ってほしいということ。そして、男性に向けた妊活の情報がもっと増えるといいなと思います。自分は時間の融通がきく働き方をしていたから毎回診察に同行できたけれど、待合室に来ている男性はすごく少なかったです。どうしても、女性が一人で通院するケースが多くなってしまう。そういうときに男性側に知識がないと、二人の間の温度差がどんどん広がってきてしまいますよね。そこをカバーできるよう、女性がどんな検査や治療を受けているのか、男性に伝わる情報がもっとあるといいなと。

シオリーヌ そもそも「男性のパートナーが検査すら受けてくれない」という話はよく聞くよね。

つくし 不妊の原因が自分にあると思いたくない、検査を受けること自体が恥ずかしい、といった気持ちがあるというのは聞いたことがあるね。でも、二人で向き合うことだから、男性ももっと当事者意識を持つべきだと思う。そのためには、妊娠の仕組みといった根本的なところからちゃんとした知識を得ることが必要になってくるのかも。

シオリーヌ そうそう。だからそのためにも「性教育をちゃんとしよう!」という話になってくるよね。結局いつも言っていることに戻ってきちゃったな(笑)。


次回は、妊娠してから見えてきたこと、まわりの反応に対する違和感などについて伺います。お楽しみに!

シオリーヌ

助産師/性教育YouTuber

シオリーヌ

総合病院産婦人科、精神科児童思春期病棟にて勤務ののち、現在は学校での性教育に関する講演や性の知識を学べるイベントの講師を務める。また、性教育YouTuberとして性を学べる動画を配信するほか、オンラインサロン「Yottoko Lab.」運営。著書に『CHOICE 自分で選びとるための「性」の知識』(イースト・プレス)、『こどもジェンダー』(ワニブックス)、新刊『やらねばならぬと思いつつ〈超初級〉性教育サポートBOOK』(Hagazussa Books)など。

撮影/山根悠太郎 取材・文/板垣千春 企画・編集/種谷美波

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