連載【Stories of A to Z】私たちが人生でそれぞれに向き合う「妊娠・出産」、「家族」や「パートナーシップ」にまつわる選択に迷ったとき、必要なのは専門家の的確なアドバイス。今回は、体の変化とともに性欲を感じなくなり、パートナーとのすれ違いに悩むFさんのストーリー。

Story7 性欲を感じず、パートナーとのすれ違いに悩むFさん

出会いから4カ月後で渡仏&結婚

フランス人の夫とセックス観にズレが...。子宮摘出を経験したFさんのストーリー【前編】_1

2021年の秋に、8年間暮らしたパリを離れてフランス人パートナーと日本に帰国したFさん。パートナーとの出会いは2013年、Fさんが43歳のときのこと。アート関係の仕事で来日していた4歳年上のパートナーから、「まるでブルドーザーのように」猛烈なアプローチを受け、4カ月後には一緒に渡仏して結婚。


「来た波には乗ってみようという好奇心もあって(笑)、あっという間に結婚しました。相手はとにかく感情表現豊かな人で、自己肯定力がめちゃくちゃ高くて愛情表現もストレート。今一緒に暮らしている2頭の犬も、旅行で訪れたタイのコテージに頻繁に現れて私たちになついたのを見た彼が『一緒に暮らそう!』と言い出して、パリに連れ帰ることになったんです」


一緒に暮らすなかでたびたびケンカもしてきたけれど、そのつど向き合い、関係を構築してきたという二人。ところが…「この3年ぐらいは、まったく心通うことはありません。新型コロナウイルス感染症による生活や仕事の変化もありますが、おそらくいちばん大きいのは、私がセックスをまったく受け付けなくなったからだと思います」とFさん。


実は渡仏前から子宮筋腫による過多月経に悩まされていたFさん。パリでも通院を続けながら、子宮を摘出するかどうか悩んでいたといいます。
「子どもを産むつもりはなかったし、子宮を取ったら女性性を失ってしまうのではといった抵抗感はまったくありませんでした。ただ、子宮を摘出することで何かしら体の不調が出たら嫌だな…という漠然とした不安があって。ずるずると先のばしにしていたら過多月経が悪化し、50歳のときに重度の貧血で体調をくずして緊急手術で子宮を摘出しました。もともと不正出血や貧血による不調からセックスが負担で避けていましたが、手術を終えてから性欲をまったく感じなくなったんです」


けれど、愛情表現豊かなパートナーにとって、セックスは生きる喜びであり、明日への活力や自己肯定感につながる大きな意味を持つ行為。これまで不正出血や貧血、子宮摘出など体の話はもちろん、セックスについてもきちんと話し合ってきたので、手術後のFさんの変化も頭では理解しているものの、気持ちが追いつかない様子。
「しかも、手術から2年がたった今も膣まわりのトラブルが続いていて、私としてはセックスどころではないのが正直なところ。もうセックスしなくても“家族”として暮らしていけたらええやんと思うけれど、いつまでも“男と女”でいたい彼は『君が僕を愛していないからだ!』と…」


子宮摘出をきっかけに変化した心と体、そしてパートナーとの関係について、女性医療クリニックLUNAグループで女性性機能外来を担当されている村田佳菜子先生に相談してみることに。



Fさんが気になっていること


1. 子宮摘出による心と体の変化


2. セックスに対するパートナーとの価値観の違い


3. 子宮摘出後の体のケアについて




今月の相談相手は……
村田佳菜子先生

産婦人科医

村田佳菜子先生

女性医療クリニックLUNAネクストステージで、女性性機能外来を担当。挿入障害や性交痛、性欲低下の診察のほか、カウンセリングも行なっている。

子宮を摘出したら、性欲も失われる?

フランス人の夫とセックス観にズレが...。子宮摘出を経験したFさんのストーリー【前編】_2

Fさん 手術を受ける前は子宮筋腫による過多月経がひどくて、月の半分は出血していました。その頃はすべてに対して無気力になり、セックスはおろかパートナーから外出に誘われることさえ億劫で。そうした変化には、ホルモンの影響もあるのでしょうか?


村田先生 そうですね、Fさんが子宮摘出した年齢が50歳ということを考えると、想定できる原因はふたつあります。ひとつは更年期。更年期は閉経を迎える年齢(平均は約50歳)の前後5年を含む期間で、気力の低下や性欲減退なども更年期症状のひとつとして考えられます。さらにFさんの場合は、重度の貧血も影響していたかもしれません。というのも、貧血は全身倦怠感や無気力感につながるだけでなく、うつ病の発症リスクもあるんです。


Fさん まさか、不正出血に更年期やうつ病まで重なっていた可能性があるなんて…それはしんどいはずですよね。フランスでも日本でも、お医者さんは「子宮がなくても性交渉は今まで通りできます」と言うけれど、それは医学的には可能という話であって、子宮摘出によって失われる女性の“やる気(性欲)”もあるのでは?と感じます。


村田先生 子宮摘出に関するさまざまな論文を読むと、実際は子宮摘出によって性機能が向上した人のほうが多く、理論上は性欲を失う原因にはならないと推測されます。さらに、子宮を摘出しても卵巣は残るため、ホルモン値にも直接的な影響は出ないはず。ただ、Fさんの場合は更年期症状の進行による気力や性欲低下の可能性が否定できません。また、子宮摘出によってうつ症状が顕在化したり性機能が下がった人の場合、その原因は手術前のうつ症状やパートナーとの性に関する問題が影響しているという論文もあります。


Fさん 性の問題…それは心あたりがあります。手術前から過多月経でセックスが負担だったので避けていましたが、彼はセックスレス=拒絶されていると感じているようで…どうにもならない価値観の違いが切実でした。それに、子宮摘出手術をしてからというもの性欲をまったく感じず、私自身はもはや“やれる”気がしません。日本にいる同世代の友人夫婦もセックスレスだと聞いたりしますが、家族としていい関係をつくっています。私もそうなりたいのですが…。


村田先生 そうした価値観のズレが影響していたのかもしれませんね。性に対する価値観や性欲は個人差があって当然ですし、そもそも生物学的性における男性と女性では、性欲が起こるメカニズムには大きな違いがあります。


Fさん メカニズムの違い? それってどういうことですか?


▶︎村田先生の話に驚くFさん。後編では、性欲のメカニズムやFさんが抱えるパートナーとの問題、そして体との向き合い方についてお話を伺います。

イラスト/naohiga 取材・文/国分美由紀 企画・編集/高戸映里奈(yoi)

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