「いつかは…」と思いつつ、仕事やキャリアを考えると妊娠や出産がまだ現実的ではなかったり、現時点ではパートナーがいない、という人も多い20代後半~30歳前後のyoi世代。そこで、実際にSNSで届いた読者の不安やお悩みを、専門家に取材します。今回は、「メンタル」にまつわる疑問について、生殖心理カウンセラーの小倉智子さんにお答えいただきました。

お話を伺ったのは…
小倉智子先生

生殖心理カウンセラー

小倉智子先生

「ガーベラ不妊相談室」代表。公認心理師、臨床心理士。「不妊に悩まれている方のニーズにもっとこたえられる時間・空間・信頼できるサービスを提供したい」という思いから相談室をスタート。一人一人の気持ちに寄り添うカウンセリングで、相談者からの信頼も厚い。

Q. 子どもを持つと、我慢することが増えそうで心配

子どもをもつ=我慢することが増える、というイメージがあり、妊活に踏み切れずにいます。将来的には子どもが欲しいと思っているのですが、どのような心持ちでいたらいいでしょうか。

A.まずは「実現したい気持ち」と「我慢すること」を照らし合わせてみましょう

体のお話をすると、35歳を境に妊娠確率や出生率が低下していくので、「35歳までに子どもが何人欲しいのか」をイメージして、そこから逆算して考えるのもひとつの目安になります。この方のように気持ち的に踏み切れない場合は、ご自身の理想の家族像をじっくり思い浮かべて、その要素を書き出してみましょう。

そして、仕事やお金、趣味など、妊娠・出産によって我慢したり諦めたりするであろうこともリストアップして、今のご自分がどちらを優先させたいのかを考えてみてください。きっと多くの人が「今は我慢したくない」「こんなに我慢するなんて無理」と考えるかもしれませんが、それでいいと思います。大切なのは、今、この時点で自分なりに照らし合わせて、どちらを優先するか考える機会を持つこと。

妊娠・出産は、パートナーの有無や相手の性格、生活環境などもかかわる話ですし、身近な人たちと話すうちに自分の考えが変化することもありますが、「あのときにじっくり考えた上で自分はこちらを選んだ」と思えれば、あとから後悔する可能性も少なくなります。

Q. 妊娠・出産による体型変化を受け入れられるか不安…

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妊娠して、胸が大きくなったり、逆に授乳で萎んでしまったり、太ったり痩せたり…自分の体型変化を受け入れられるのかが心配です。こういった不安を抱える方は多いのでしょうか?

A.少なくありませんが、その背景にある理由をひも解くことも大切です

体型の変化を不安に思う人は少なくありませんが、その変化は妊娠や出産の証でもあるので必ず起こるものです。老化と同じくケアすることはできますが、完全に元に戻ることはありません。一方で、出産経験のある人とない人では、出産経験のある人のほうが子宮筋腫、子宮内膜症、乳がん、子宮体がんなどの発症リスクが低いといわれます。

それらを踏まえた上で「体型変化は嫌だけれど、子どもが欲しいから仕方ない」と思える方もいれば、「どうしても自分にとって体型のほうが重要」と考える方もいます。そして、たとえ前者でも、変化を受け入れるには時間がかかる可能性があります。後者であれば、病気の発症リスクなどを理解した上で、「妊娠・出産はしない」という選択もできます。

ただ、体型変化を気にする方の場合、例えばパートナーとの関係性や、きょうだいが体型変化によってつらい思いをしている姿を見て不安になったなど、他の不安が背景にある可能性があります。「どうして不安なんだろう?」と、漠然とした不安の理由をひも解いていくと、自分でも気づかなかった別の不安が見えてくるので、それを解消することも大切です。

Q. 小さい子どもが苦手…子どもは諦めたほうがいい?

いつかは家族が欲しいと思っていますが、昔から小さい子どもが苦手で、きちんと育てられるか不安です。その場合、子どもを持つのは諦めたほうがいいのでしょうか?

A.“きちんと育てられるか”の“きちんと”の中身を具体的に考えてみましょう

例えば、「食事を手づくりすること」や「勉強や運動ができる子に育てること」など、「きちんと」とは具体的にどんなことでしょう? それを明らかにしていくと対処法がわかり、不安が減るかもしれません。「小さい子どもが苦手」でも、「ある程度大きい子は大丈夫」であれば、子どもが小さいうちは周囲にたくさん手伝ってもらうという選択肢もあります。

不安や心配というのは、最初は小さくても雪だるま方式でどんどん大きくなるもの。ひとつずつ巻き戻しながら、その理由を整理してみましょう。そして、その不安や心配は「今すぐ対処できること」もしくは「自分では対処できないこと」なのか、あるいは「誰にも答えがわからないこと」なのかを分類していくと、不安が減ったり、決断がしやすくなったりします。「なんとなく不安だから、なんとなく諦めた…」では、後悔に至る可能性も。一度きりのご自分の人生ですから、じっくり考えてほしいと思います。

また、身近な人に「今、不安なんだよね」と話してみると、自分で「焦っているのかも」「他の人と比べているのかも」と気づけることもあります。もし話せる相手がいなくても、日記などに書きとめると気持ちを巻き戻して確認しやすくなるのでおすすめです。

そして、私たちのような生殖心理カウンセラーにご相談いただくことも、ひとつの選択肢です。生殖にまつわることはスピード感も必要なので、専門のカウンセラーや自治体の無料相談窓口などで相談する勇気を持っていただけたらと思います。無料相談窓口では、パートナーがいない方からの相談も増えていますし。不妊治療に限らず、妊娠や出産について漠然と悩んでいる段階でも遠慮なく相談してくださいね。

Q. 自分だけ子どもがいないことに焦燥感がある

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30歳になったらまわりが次々と妊娠し、自分だけ子どもがいないことに不安を感じます。まだ本格的に不妊治療をしているわけではありませんが、治療を始めるべきでしょうか?

A.ご自身の気持ちを確かめた上で病院や自治体の窓口に相談を

まずは、子どもが欲しいかどうか、ご自身の気持ちを確かめることが大切です。子どもはほしいけれど不妊治療自体に大きな抵抗を感じている場合は、病院でも自治体の窓口でもいいので、まずは「治療をするかどうか」の相談をするのがいいかもしれません。「不妊治療を始めたほうがいいかな」と思ったら、年齢的にも早く取り組むほうが確率は高く、不妊治療専治療門のクリニックを選ぶと時間的なロスもおさえられます。

不妊治療の領域は病院によって技術にバラつきがあるので、病院選びもとても大切。最終的には病院や医師との相性もありますが、まずはホームページを見るときに下記のポイントをチェックしてみましょう。この方の場合、タイミング法や人工授精から体外受精へ切り替わっても転院しないで済むように、体外受精まで手がけている病院を選ぶのがいいと思います。

不妊治療の病院を選ぶ際のポイント

●院長の写真や経歴がきちんと載っているか

●不妊治療を3年以上前から実施しているか
●タイミング法や人工授精のほか、体外受精も包括的に手がけているか
●妊娠率などの治療成績が掲載されているか(ただし妊娠率・数は流産・死産を含まないので妊娠=出産ではないことを認識しておく)

Q. 子どもが欲しいと思える相手と出会えないかも…

今はパートナーがいません。子どもが欲しいと思える相手に出会えなければ、出産を諦めざるを得ないことに、焦りと不安、絶望を感じます。

A.「生殖物語」を実現するために必要なことは何か、一緒に考えてみませんか

妊娠は、一人では成立させられないのが難しいところ。もし出産を諦めたくないという強い思いがあるなら、卵子凍結という選択肢もあるので検討してもいいかもしれませんね。同時に、パートナーを見つけることについて誰かに相談してみることも大事かもしれません。

生殖心理学では「生殖物語」と呼びますが、多くの人は家族にまつわる何らかのイメージや理想像を持っています。結婚して子どもを持つことに強い思いを持っている人、出産しないと決めている人、漠然としたイメージの人など、その内容は人それぞれです。

カウンセリングでは、相談者の方の気持ちをいちばんに尊重しながら、その方が思い描く生殖物語を実現するために必要なことを一緒に考えていきます。それはもしかしたら、現状を受け入れることや、相手に求める条件の幅を広げること、あるいは自分を変えることかもしれません。そこでの気づきによって、状況や気持ちが変化していくケースもあります。

Q. パートナーに、妊活したいことをどう切り出したらいい?

今のパートナーと子どもを作りたいと思っていますが、どのように切り出して、コミュニケーションを取ったらよいのでしょう?

A.カップルで話し合うときのコツはふたつあります

妊娠のためにタイミングをとるときや、大事な話を切り出すときなど、話し合い方にまつわる相談って実は多いんですよ。まずは次のふたつを意識してみてください。

① 空腹時と夜を避け、朝食後もしくは昼食後に話す
空腹時はイライラしていることが多く、夕食後などにアルコールが入ると仕事の疲れもあって責任のある発言が出にくい傾向があります。週末の朝食や昼食後などの、一息ついているときがベスト。

②「10分だけ話をしたい」と時間を設定する
終わりの見えない話を苦手に感じる男性が多いので、時間を区切ることで話を聞く姿勢が整いやすくなります。そして、「自分は子どもが欲しいけど、あなたはどう思ってる?」とシンプルに聞きましょう。「まだいいよ」や「わからない」という返事であれば、「私は早く妊活がしたいから、来週までに考えておいてね」と提案して終了。そのあとは二人が楽しめる時間にするとよいでしょう。

その場で答えが出なくてもいいので、「来週までに答えを出して」と伝えることで、うやむやにならずに済みます。その後は普段通り過ごして、一週間後に再び話をしてみましょう。もしそこで「まだわからない」という答えであれば、その理由を聞く必要があります。考えたくないのか、本当は子どもは欲しくないけれど言えないのか、それとも違う理由なのか…。

ズルズルと時間だけがたってしまうと後悔の種になりやすいので、病院の相談窓口やカップルカウンセリングなどの第三者を入れて話し合うこともひとつの方法です。

Q. パートナーが育児をしてくれるかわからない

義父が激務で育児放棄ぎみだったという話を聞き、自分のパートナーも激務のため、育児をしてくれるのか不安です。その気持ちをどう伝えたらいいのでしょうか?

A.身近な家族を例に挙げ、それぞれどう感じるかを話してみましょう

パートナーにまつわる相談は非常に多く、中でも夫婦の温度差は大きなテーマです。まず、不安な気持ちはそのまま伝えるのがいいと思います。そして、お互いの考えを擦り合わせていきましょう。もし身近に小さなお子さんを持つ家族がいるなら、そのご家族を見てどう思うかを話してみると、例えば「姉の家族は姉がワンオペで大変そうだから、私は一緒にやりたい」といったように具体的な話につなげられます。

もし身近にいなくても、「あなたはどんなふうに育ったの?」「お父さんが仕事でほとんど家にいない状態をどう感じていたの?」と自分たちが育った環境について話していくと、「こんな家族になりたい」「こういう家族にはなりたくない」のようにお互いの生殖物語を擦り合わせることができます。そこから気づきが生まれることもあるはずです。

Q. 家事・育児の分担、みんなどうしているの?

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「子育ては女性がするもの」という社会的なイメージが強くて、他の人は働きながらどう子育てをしているのか、どんなふうにパートナーと分担しているのかが気になります。

A.サービスや制度は躊躇わずに活用! 子どもの成長と同じくらい、自分の成長や幸せも尊重していい

最近はパートナーと分担している方も多いですが、子どもが小さいうちはどうしても母親でないと対応できないこともあります。そうした状況でもしんどさを抱えすぎないコツは、周囲にも子育てを任せること、任せることに罪悪感を抱かないことです。

ベビーシッターなどのサービスを利用したり、保育園に子どもを預けたりすることに罪悪感を抱く人もいますが、子どもの成長と同じくらい、ご自身の成長や幸せも尊重していいんです。サービスや制度を活用することを躊躇わないでくださいね。

そして、家族として成長するカギとなるのが、夫婦・カップルがお互いの妥協点をどれだけ見つけられるかということ。相手の意見に共感はできなくても、「こう考えているんだな」と理解することはできますよね。お互いの価値観は尊重しつつ、「家族としてどうするか」を一緒に考えていくと、家事や育児も含めて合致するポイントが見つけられるはずです。

イラスト/yukorangel 構成・取材・文/国分美由紀 企画/種谷美波(yoi)