読者300人が回答してくれた「セルフプレジャー」にまつわるアンケート。そこで寄せられた、自分自身や他者との関係性、社会に対するお悩みついて、助産師兼性教育YouTuberのシオリーヌさんと産婦人科医の村田佳菜子先生にお話を伺いました。
※2023年7月14日〜8月3日にインターネットによるアンケートを実施し、300人が回答。
助産師/性教育YouTuber
Rine代表取締役。総合病院産婦人科、精神科児童思春期病棟で勤務ののち、全国の学校や企業で性教育に関する講演・イベントの講師を務める。性教育YouTuberとして性を学べる動画を配信中。2022年10月性教育の普及と子育て支援に取り組むRineを設立。著書『CHOICE 自分で選びとるための「性」の知識』(イースト・プレス)、『こどもジェンダー』(ワニブックス)、『やらねばならぬと思いつつ 〜超初級 性教育サポートBOOK〜』(ハガツサ ブックス)ほか。
お悩み① セルフプレジャーについて、パートナーに話すべき?
セルフプレジャーについて、彼に話すべきか迷っています。同棲をする予定なのでバレるのは時間の問題だと思いますが、セルフプレジャーをしていることを話すのも、しているのを見られることにも抵抗があります。私にとってセルフプレジャーは自己の性や体と向き合う大切な時間であり、セックスとは別の意味で必要な時間です。どうしたらいいでしょうか。世間のカップルはどうされているのでしょうか…。
シオリーヌさん あくまで私の個人的な意見ですが、パートナーに「話さなければならない」わけではなく、話すか話さないかは、ご自身の選択で決めていいと思います。家族やパートナーのように、どれだけ近しい相手でも、性のことについてどこまでオープンにするかは自分自身で決めていいことだし、一緒に暮らしているからといってすべてを共有する必要はないのではないかと思います。
また、セルフプレジャーが自分と向き合う大切な時間になっているのであれば、話さないことに罪悪感を感じる必要もないと思うんです。性についてパートナーと共有する部分と、自分だけで向き合う部分、どちらも持っていることは決して悪いことではないと思います。
私は色々な方と性に関するお話をする機会がありますが、カップルによって関係性もスタンスも本当にさまざまなので、「ほかの人たちと一緒にしなきゃ」みたいなプレッシャーも背負わずにいてほしいなと思います。
お悩み② セルフプレジャーをしたあとに、罪悪感を感じる自分がいます
体は気持ちいいのですが、セルフプレジャーをしたあとに罪悪感や後悔、“やってしまった感”が毎回あります。自分を責めるというよりも、途方に暮れるような、静かな後悔です。
村田先生 考えられる理由のひとつは、やるべきことを後回しにして時間を消費してしまったことへの罪悪感かもしれません。そしてもうひとつは、性欲を満たすこと、快楽を得ることへの後ろめたさからくる感情ではないかなと思います。心のどこかに、性欲=よくないことだという固定観念はありませんか?
前回お話ししたように、性欲があるのはごく自然なことです。セルフプレジャーも「自分にとって大切なことなんだ」と少しずつ受け入れていけると、その気持ちも変化していくのではないかと思います。セルフプレジャーをすると自己肯定感が高まるといわれますが、逆に罪悪感を感じると自己肯定感も下がってしまうので、ぜひ楽しんでくださいね。
お悩み③ セルフプレジャーを“ないこと”にされるとモヤッ
10代の時、セルフプレジャーをしているところを母親に見られ、人格を否定されるぐらいの勢いで叱られ、自己肯定感をガッツリ失いました。考えてみれば、そういうことの先に自分たちが生まれているのに…と思うようになって気持ちは持ち直しましたが、そんなふうにセルフプレジャーを否定されたり、ないことにされたりするのはなんだかモヤッとします。
シオリーヌさん 最近ようやくセルフプレジャーが話題にあがる風潮になってきましたが、少し前までは女性の性欲と同じで「ないもの」とされ、オープンにすることに対して「いやらしい」「はしたない」という文脈での批判がされてきました。この方の親御さんは、そういった社会の風潮やメッセージを受けてこられたからこそ、自分の子どもがセルフプレジャーに興味を持っていることへのショックから、強い言葉を使ってしまったのかなと思います。
とはいえ、親から人格を否定されるほど強い言葉を言われるのは、想像しきれないほど大きなショックだったと思うんです。自分の性的な場面を身近な人に不意に見られることだけでも十分トラウマになりうるのに、さらに否定されたことで、本当に大きな傷になってしまったのではないでしょうか。
この方がおっしゃるとおり、セルフプレジャーは何も恥じることではありません。そもそも、自分の体は自分だけのもので、その体をどう扱うのか、どんなふうに向き合うのかは、その人自身に決める権利があります。それを「いい」とか「悪い」とか「はしたない」とか、そんなふうにジャッジをする権利は誰にもない、ということは改めて確認しておきたいと思います。
そのうえで、相手に「ここは理解してほしい」「こういう言い方は傷ついた」と伝えたい場合は話すことを選択すればよいですし、そうでない場合は気持ちを言葉にすることも精神的な負担や勇気が必要なので、無理をして頑張らなくてもいいのではないかなと思います。大きな傷つき体験をされたと思うので、自分がどうしたいかを優先してあげてくださいね。
お悩み④ セルフプレジャーに興味がないって変?
自分はセルフプレジャーをまったく必要としていないのですが、「それって変なことなのかな?」と不安になります。
シオリーヌさん セルフプレジャーやセックスも含めて、性に関するアクションは、するもしないもその人の自由です。私は、ほかの人の権利を侵害しないかぎり、自分のしたいようにしていいと思っています。だから、マスターベーションが自分の生活に必要ないと感じることは何も悪いことではないし、無理にしなくてはいけないものでもありません。
女性のセルフプレジャーや関連アイテムがすごく注目されるようになってきた分、この方のように「興味がないほうがおかしいのかな」と感じてしまう人もいるかもしれません。けれど、スポーツや料理などと同じように「興味がある人」もいれば「興味がない人」もいる、というだけのことです。
お悩み③の話とも重なりますが、性や恋愛なども含めて物事の価値観は一人一人違うので、単純に「する・しない」だけの話ではないし、自分の価値観だけでジャッジしないということは本当に大事だなと思いますね。
お悩み⑤ もっと当たり前のこととして扱ってほしいし、子どもにどう伝えたらいい?
女性のセルフプレジャーについて、もっと当たり前のこととして扱ってほしいという思いがあります。そして、いつか子どもができたとき、どんなふうに伝えるのがいいか考えていきたいので、ぜひアドバイスをお願いします。
シオリーヌさん 女性のセルフプレジャーや性についての話しづらさには、色々な要素が絡み合っているなと感じます。ひとつは、先ほどもお話をしたように、「男性の性欲」と「女性の性欲」では世間の評価がまったく違っていて、女性の性欲は日常にある当たり前のものという捉え方がされていないこと。
そして、女性の性についてオープンに話すと誰かに消費されてしまうことも多いということ。例えば、女性がセルフプレジャーに関する話をオープンにすると、「そんなに寂しいなら相手をしてあげようか」と言われたり。自分の話をしたいだけなのに、「男性のための性欲」として捉えられ、消費されてしまう経験をした方も多いのではないかと思います。
その一方で、気軽には話せない・話したくない方がいるのも事実です。それは悪いことでも、強制することでもないと思いますし、私自身、自分の性体験はあまり話したくないと思っていて。何故なら、話すことで勝手にジャッジされたり、セクハラを受けたりしてきた経験があるから。だからこそ、無理に話す必要はないけれど、当事者が嫌な思いをすることなく、世間話として安心して話せる人間関係や社会ができたらいいなと思います。
そして、子どもへの伝え方ですが、私が学校の性教育の授業などでお話をするときは、まず「性別は関係なく、したい人はしていいし、したくない人はしなくていいですよ」とお伝えしています。基本は「セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR)」という考え方で、自分の体や人生は自分だけのものであり、どうつき合っていくかを決める権利は自分にあるということです。自分が必要ないと思うことを無理にする必要はないよ、あなたの体はあなたのものだよ、という大前提をお伝えするようにしています。
イラスト/oyumi 取材・文/国分美由紀 企画・編集/種谷美波(yoi)