SNSなどの普及によって性についての情報が以前より手に入りやすくなり、女性たちのセクシャルウェルネスへの関心が高まっている昨今。とはいえ、セックスについてパートナーと積極的に話したり、みずから避妊を提案することに抵抗があるという女性も、まだ少なくありません。
しかし、避妊は女性の体と心の健康、ライフプランを守るためにとても大切なもの。みずからの意思決定で避妊を選択できる女性を増やすことはできないだろうか、という思いから、大学の卒業制作としてコンドームを制作したのは、東北芸術工科大学デザイン工学部企画構想学科4年生の早坂緋奈乃さん。“女性の未来を守る”ことをコンセプトに、女性がコンドームを持つことそのものへの敷居を下げるお守り型のコンドーム入れ「COMAMORI(コマモリ)」と、コンドーム交渉のハードルを下げるパウチ型のパッケージのコンドーム「comamo(コマモ)」を、『中西ゴム工業』と共同開発し、大きな話題を呼んでいます。
そんな早坂さんからある日、「自分の卒業制作について、yoiで取り上げてもらえないか」と1通のお電話が! yoiも卒業制作のコンセプトに共感し、インタビューをさせていただくことに。プロジェクトをスタートしたきっかけや、製品に込められた思い、日本の性教育について思うことなどについて、お話しいただきました。
“女性の未来を守るお守り”になるものを作りたかった
――まず、卒業制作でコンドームを作ろうと思ったきっかけについて教えてください。
早坂さん:コンドームというアイテムを意識した最初のきっかけは、私が「彼氏ができた」と友人に報告したら、その友人からコンドームを渡されたことでした。いざそういう行為をするときがきた際にきちんと避妊できるように、という思いで渡してくれたのですが、正直、そのときは、自分(=女性側)が持っていてもいいものなんだ、と驚いたのを覚えています。
大学生になってからは、身近な友人の妊娠・出産や、予期せぬ妊娠が増えているというニュースを目にするなかで、もし自分が妊娠したら…とリアルに想像するようになりました。そして、いざ自分ごととして考えると、子どもができることでライフプランは大きく変わる、という事実に気づいたんです。
女性の人生において、自分で避妊の選択をきちんとできる重要性を感じましたし、それと同時に、避妊具として大切なコンドームが、アダルトグッズのように見られたり、タブー色の強いアイテムと思われがちなことにも疑問を覚えました。女性が選ぶ避妊方法として、コンドームという選択肢がもっと身近になるべきだと考え、「卒業制作でコンドームを作ろう」と決めました。
――それぞれのアイテムのコンセプトも教えていただけますか?
早坂さん:プロジェクト全体のコンセプトは、コンドームが“女性の未来を守るお守り”になること。そして、避妊具としての役割はもちろんなのですが、それだけでなく、性にまつわるコミュニケーションを助ける“コミュニケーションコンドーム”であることも大切にしました。例えば母親から娘へ、避妊について話しにくいと感じたとき、その壁を乗り越えるツールになれたらいいなと思ったんです。
COMAMORI
「COMAMORI(コマモリ)」は、お守りの形をしたケースであるところが一番のポイントです。恋愛成就や学業成就のお守りって、持っておくと安心できるアイテムだと思っていて、女性がコンドームを持つのもこれと似ているんじゃないかと思ったんです。
また、受験に向けて頑張る子に親がお守りを渡すような文化にもリンクして、避妊の重要性を親から子へ伝えるためのツールとしても使ってほしいという思いも込めています。実際、商品をメディアに取り上げていただいたことで、母親世代の女性から「共感しました、製品を買いたいです」といったコメントをSNSを通してたくさんいただきました。当初は同世代の女性に向けて始めたプロジェクトでしたが、親世代の方にもこういったアイテムを求めている人が多くいたんだと気づかされました。
comamo
「COMAMORI(コマモリ)」は、まだ性行為の経験がない女性に向けて作ったのですが、「comamo(コマモ)」は性行為の機会はあるけれど、コンドーム交渉が苦手だったり、自分で用意したことがない女性に向けて作りました。
「I Love you」や「Love me?」といったメッセージが入ったダイヤモンド型のシールが付属しており、コンドームの個包装に貼ると指輪のように見えるようになっています。避妊をすることは相手を思いやり、愛を誓うこと。自分も相手も大切だから避妊をしてほしいんだという思いを、渡す相手にもワンビジュアルで伝えられるように工夫しています。
コンドームを持つことに抵抗がある人でも手に取りやすいように、サプリやグミを思わせるようなパウチのパッケージにしたのもこだわりポイントです。パッケージのデザインはうちの大学のグラフィックデザイン科の生徒が制作してくれたのですが、「女性がありのままでいられること」をイメージして、裸の女性が描かれています。このイラスト、素敵ですよね!
教授に問われ改めて考えた、コンドームを選んだ意味
――コンドーム製作を卒業制作のテーマに決めたことで、周囲からはどんな反応がありましたか?
早坂さん:最初にゼミでテーマを発表した際には、教授やゼミの学生たちは少し戸惑っていたようでした。教授からは、「女性主体でできる避妊法(ピルなど)もある中で、あえて男性がつけるコンドームを選んだ意味は何か」と問われ、一度プロジェクトについて立ち止まって考えてもみました。
でも、改めて考えてみて、若い女性にとって、いつどんな展開で恋愛が発展するかわからないのに、そこに備えてピルなどで避妊し続けるのもおかしいのではと思ったんですね。金銭的なハードルや女性の体への負担、即効性のなさなどもありますし、たとえピルを使用していても性感染症対策としてコンドームは役立ちます。
また、相手に避妊の意思を示すために最適なアイテムだというのも大きな理由です。避妊をするという意思を目に見えるかたちで提示できるコミュニケーションツールであり、コンドームを使う意義は避妊だけでなく、女性が自身の意思や人生を大事にすることの表れでもあるという思いを伝え、最終的には周囲からも応援してもらえました。
――このプロジェクトを通して、早坂さん自身は、友人や両親など、まわりの人と性についてのコミュニケーションに変化はありましたか?
早坂さん:そうですね。コンドームを買ったことのなかった地元の友人が、「自分で買いに行ってみたよ」と報告してくれたり、同じゼミの学生たちからも、コンドームを話題にすることに抵抗がなくなったと言ってもらえました。卒業制作展の期間中に商品を先行発売していたのですが、100個ほど売れたのもうれしい驚きでした。
母親も、「女性の人生にかかわる、大切なことだよね」と改めて言ってくれたり。父親からは、プロジェクトを始めた当初は「価値観として受け入れてくれない人もいるのでは」と言われたこともあったのですが、今では理解を示してくれています(笑)。実家を出て暮らしている妹に送りたいと、父が商品を購入してくれたこともうれしかったです。
――プロジェクトに共感してくれる方が増えていくのはうれしいですね。
早坂さん:はい、ただ、このコンドーム製作の意図が、必ずしも正しく伝わるわけではないという気づきも同時にありました。
卒業展の期間中に出会った男性に自分の作った作品について話したところ、理解を示してはくれたものの、「普段どんなコンドームを使っているか」「自分でもこのコンドームを使ったのか」などとプライベートな質問をされたことがありました。
こういったアイテムを作っているからといって、誰にでも性についてオープンに話す人というわけではないですし、そういった話題につなげていくことは、“お互いにリスペクトがある人同士のコミュニケーションツール”という、アイテムのコンセプトとも違う結果になってしまっていますよね。
コンドームを持っている=性的同意をしているわけではない
――コンドームを作っているからといって、プライベートなことを聞いていい、というわけではありませんよね。その、“相手を不快にすることをしていないか”を考えることは「性的同意」の考え方とも大きくかかわってくるかと思います。
早坂さん:そのとおりですね。コンドームを通して避妊を相手任せにしないというスタンスを示すことは、性的な行為において相手と対等になれる一つの方法だと思いますが、一方で、コンドームを持っている=性的同意をしているというわけではない、ということはお互いにきちんとわかっている必要があると思います。
海外では、コンドームはニアリーイコール絆創膏の感覚、と聞いたことがあります。絆創膏を持っているから怪我をしていいと思っているわけじゃないですよね。コンドームについても、持っていることがそのまま性的同意につながるのではないという考え方が広く普及していくべきだと思います。
――「性的同意」とは、性行為をするかどうかのイエスorノーだけでなく、相手を思いやること。そんなメッセージが、早坂さんの「comamo」では表現されていますよね。
早坂さん:お互いを思いやって、お互い何がよくて何が嫌なのかということを測り合うためのきっかけとして、「comamo」があればいいなと思います。
学校とメディアの連携で、正しい性の情報へ導く
――「性的同意」の考え方について、まだまだ日本では浸透していない部分もあるかと思います。そもそも、日本では「はどめ規定」などによって学校で十分な性教育がなされていないという声も上がっていますね。早坂さんは、現状の日本の性教育についてどう感じていますか?
早坂さん:「はどめ規定」によって、学校で教えられる範囲が狭まっていることは事実ですが、とはいえすべてを授業で教えるのは現実的にハードルが高いのではないかと思います。
なので、今すぐにできることとしては、教えられる範囲はしっかり教えた上で、yoiのような信頼できるオンラインメディアや書籍などの正しく学べる情報源を学校が提案してくれるといいのではと思っています。今はシオリーヌさんのように、YouTubeなどで性教育について発信している方もいますよね。でも、自分たちでどれが正しい情報かどうかを見極める難しさがあったり、もとからそういったことに関心がある人にしか届きにくい場合もあると思います。
だからこそ、学校の授業とメディアツールが手を取り合うように連携できれば、正しい情報へうまく誘導できるのではないでしょうか。
――10〜20代の若い世代はインターネットを使うことに慣れていますが、インターネット上にあるのは正しい情報ばかりではない、というのも怖いところですね。
早坂さん:そうですね。今の時代は特に、情報に対して、それが正しいのか間違っているのかということ自体を疑問に思えるマインドを育てることも重要だと思います。多角的に物事を見たり考えたりできる思考を養って、性にまつわることに限らず、情報の取捨選択ができるようになれたら理想ですよね。
「性別にとらわれない社会の実現」のために、今後もさまざまなアプローチをしていきたい
――大学に入る前からジェンダーについて興味があったそうですが、どのようなきっかけがあったのでしょうか。
早坂さん:高校で女子校に通うなかで、性別にとらわれずに自分らしくいられる環境がとても心地よいと感じたことが大きいです。それまで、「女性だからこうすべき」と性別にとらわれていたことが実はたくさんあったんだと、女子校での学生生活の中で気づかされたんです。また、高校での学びの中でジェンダーギャップについて意識を向ける機会があり、女性が自分らしく生きられる社会を作りたいという思いが芽生え、大学生活の中でさらに、その思いがより強くなりました。その集大成が、今回の卒業制作です。
――このインタビューは、ジェンダー平等を目指す「国際女性デー」に寄せて公開されます。こういったイベントが社会に与える影響についてどう思いますか?
早坂さん:この春大学を卒業してPR会社に勤めるのですが、ジェンダーによる世の中の違和感を変えていけるような仕事をしたいと考え、入社を決めました。就活を通して、仕事と出産の両立など、女性の働き方について改めて考える機会も多くありました。
「国際女性デー」をきっかけに、女性の権利や生き方について考えたいのはもちろんのこと、「性別にとらわれない社会」の実現に向けて、性別に関係なく、世の中の人が互いの生き方や権利について考え合える日であってほしいなと思います。
――「性別にとらわれない社会の実現」のために、早坂さんが今後取り組みたいことがあれば教えてください。
早坂さん:「COMAMORI PROJECT」は、親から子どもへの性にまつわるコミュニケーションの悩みを改善できるようなアプローチや製品を考え、今後も継続していきたいです。また、女性向けだけでなく、男性の意識や考えも変えていけるようなプロダクトが作れたらいいなと思っています。
今回発売するコンドームは中西ゴム工業さんに販売をお任せするのですが、プロジェクトとしては今後もかかわっていくので、より多くの人に向けて、気づきのあるプロジェクトを展開させていけたらいいなと思います。
撮影/TOWA 取材・文/灰岡美紗 企画・編集/木村美紀(yoi)