セックスにまつわるモヤモヤについて、助産師兼性教育YouTuberのシオリーヌさんと考える連載『SAY(性)HELLO!』。今回は「性欲のグラデーション」をテーマに、前後編にわたってお届け。性に関して異なる考えを持つ方々と、それぞれの価値観について話します。前編にご登場いただくのは、「性にオープンだったが、あるときから性交痛に悩まされるようになった」というAさん。解決を目指す過程で向き合った、セックスに対する考えとはー。
今回の参加者は…
Aさん:30代前半、PR業務に従事。1年ほど前に結婚。もともと性についてオープンに話したり、セックスを楽しむタイプだったが、半年ほど前から性交痛に悩まされるように。
パートナーとのセックスで挿入時に痛みを感じるように…
ーー今回は「性欲」をテーマに対談ができればと思っています。はじめに、Aさんのセックスに対する向き合い方をお伺いできますでしょうか。
Aさん もともと、性には積極的なタイプでした。誰かと肌を触れ合わせる機会ってセックス以外にはなかなかないし、単純に気持ちがいい。友達とも性に関してオープンに話すほうだと思います。これまでパートナーとは、週に1〜2回はセックスができたらいいなと考えていました。
シオリーヌさん Aさんは結婚して1年たつパートナーがいらっしゃるということですが、最近、セックスの際に性交痛を感じるようになったそうですね。
Aさん そうなんです。今の夫とはつき合っていた頃からコンスタントにセックスをしていたのですが、少し前から急に挿入に痛みを生じるようになってしまって…。コミュニケーションとしてスキンシップを大切にしていましたし、籍を入れてからは妊活についても真剣に考え出していたので、かなりショックでした。
シオリーヌさん その痛みに気づいてから、どのような対処法を取ったのでしょうか。
Aさん 以前クラミジアに感染したことがあったので、今回も何かの病気かもしれないと思ってレディースクリニックに行きました。ただ、感染症の検査や子宮のエコーをしてもなんの問題も見つからず、原因はわからないままで…。そこで、同じような経験のある友人に相談してみたら、「これ使ってみて」とおすすめの潤滑剤をくれたんです。
実際に使ってみたら、私は痛みなくセックスができたのですが、今度は夫が気持ちよさを感じなくなってしまったみたいで…。セックスのあと、「本当に言いづらいんだけど、水の中にいるみたいで全然気持ちよくない」と打ち明けられました。それでは二人にとっての最適解にならないと思い、結局潤滑剤も使わなくなりました。
シオリーヌさん なるほど。Aさんの痛みの解消だけでなく、二人でセックスを楽しむことをゴールに設定したんですね。Aさんにとってセックスがコミュニケーションとして重要な役割を果たしているのがよくわかります。
自分の「性」について誰かに相談することへのハードル
Aさん 彼が楽しめないのは本意ではないし、かといってセックスをしないのも根本的な解決にはならない。ただ潤滑剤を使わない挿入はやはり涙が出るほど痛かったので、1カ月ほどセックスをお休みして、クリニックをはじめ、さまざまな情報を集めました。最終的に性交痛を専門とする先生にたどり着き、そこでこれが原因なのかもということが見つかって。ずっと理由がわからず苦しんでいたので、だいぶ気が楽になった記憶が…。
シオリーヌさん 原因がわからないと不安ばかりがふくらんでいきますよね。医師からのアドバイスも受けながら、お二人はどのような選択をしたのでしょうか。
Aさん 潤滑剤をはじめ、彼と次のステップを模索していくなかで、私の場合は体をしっかり温めると、性交痛が穏やかになる気がしました。彼がサウナ好きということもあり、旅行に行くときにサウナ付きの部屋を探すなど、お互いが前向きな気持ちになれましたし、これまでとは違う角度からセックスを楽しめるようになったと感じます。
シオリーヌさん パートナーとのセックスの悩みについて、婦人科に相談することが効果的な方法だといわれていても、アクションに起こせない方ってすごく多いんですよね。自分の性に関することを人に相談すること自体もハードルが高いし、実際に「婦人科」という場所で診察を受けることに抵抗がある、という話も聞きます。だから、Aさんが問題解決のためにパートナーと協力してここまでいろいろなアクションが起こせたのは、とても行動力があるなと感じます。
Aさん パートナーが私の性交痛を「二人の問題」と理解してくれたことが、婦人科に行ったり、いろいろな選択肢を試す後押しになったと思います。あとは、私のまわりでも、性に関してオープンに話す人が多いということも、すぐに行動できた要因のひとつにあるかもしれません。
シオリーヌさん 確かに、身近な人の性に対する価値観や、話しやすいかどうかの雰囲気は、自分にも影響するところがある気がします。私自身、身近なコミュニティにリプロダクティブ・ヘルス・ライツや性への関心が高い人が多いからか、自分も人に相談したり婦人科で治療を受けることに、抵抗が少ないと感じますね。
自分の意志で選択していれば、“誰かが納得する性のあり方”でいる必要はない
Aさん 最近も友達と、「このグッズを使ってみたけどすごくよかったよ」とか「最近久しぶりにセックスをして“整った”わ〜」といった話など、性に関する情報交換をしたらかなり盛り上がって。友人の中には、パートナーがいる人もいない人もいますが、性に対してそれぞれの感覚で楽しんでいる様子ですね。ただ一方で、女性が性にオープンだと、社会では非難されることも多いなと感じることもあります。
シオリーヌさん まだまだ日本では、女性が性に対して積極的なことや、特定のパートナー以外とセックスをすることをネガティブに捉えたり、反対に「性にアクティブな女性が男の夢だ!」と変にもてはやしたりする風潮もありますよね。でも、重要なのは、“その人自身の意志で、納得して行為に臨んでいるかどうか”なわけであって。個人の性に対するスタンスについて、「いいか悪いか」を判断できる人って誰もいないんです。
にもかかわらず、例えばアフターピルが薬局で販売されるかどうか議論されるときも、「アフターピルが簡単に手に入ると、女性の性が乱れるかもしれない」という反対意見が出たりもする。誰かの性が”乱れている”なんて判断する権利のある人って誰なんだろうと感じますよね。もちろん一人一人の安全や健康が守られることは重要で、そのための知識や選択肢を広げることに力を入れる必要があります。 そういった視点ではなく“誰かが納得する性のあり方”でいさせるために選択肢を奪う方向に議論されていることに違和感があります。
ーーセックスに積極的でも消極的でも、そのどちらでもなくても、それが「本人の選択」であることが大切だということですね。そういえば、海外の恋愛リアリティショーなどを見ていると、交際前に「理想のセックスの頻度」について話す場面を見たりもしますが、これはなかなか日本では見ないコミュニケーションだなと感じます。
シオリーヌさん 性に対してアグレッシブなことは、おかしいことではない」と発信してくれるロールモデルのような人は、日本ではなかなか見かけないかもしれないですね。
性交痛を経験してから、“1回1回への思い入れ”が変わった
ーーAさんは性交痛を解消するためのさまざまな経験を経て、セックスに対しての向き合い方は変化しましたか?
Aさん 性交痛に悩むようになり「セックスできることが当たり前じゃない」と感じるようになってからは、1回1回への“気持ちの込めよう”はかなり変わったと思います。パートナーも、「今回は痛くなかった?」と聞いてくれるようになりましたし、私もセックスのあとは「ありがとう」の気持ちを伝えるようになったり。
これまでに比べて簡単にはいかない部分もありますが、私としてはパートナーとのコミュニケーションにセックスは必要なものだと思っているので、これからも継続的にスキンシップが取れるよう努力していきたいと考えています。ただ、どうしてもセックスがルーティーンになってきている気もするので、マンネリ化しないコツなどがあれば伺いたいです…。
シオリーヌさん 「相手はこういう触られ方をするのが好きなんだ」とわかっていることが、ポジティブに働くカップルもいると思うので、必ずしもセックスのフォーマットが決まってくることが悪いことではないとも思います。でももしAさんがネガティブに感じたり、打破したいと考えているのなら、セックスのあとにフィードバックのタイミングを取って、お互いに気持ちを話し合うのも有効な気がします。二人の思いをすり合わせて対話することで、新たな気づきがあるかもしれません。
次回は、アロマンティック・アセクシュアル、Xジェンダー当事者である、なかけんさんとの対談をアップ予定。お楽しみに。
取材・文/平井莉生(FIUME Inc.) 撮影/kaname saito(シオリーヌさん) getty images(風景) 企画・編集/種谷美波(yoi)